わたしは、あの子の引き立て役
子供と手を繋ぎながら歩いていると、
パチンコ屋の前でおっちゃんが「くそっ!」と落ちている缶を蹴っていた。
ころころころと転げ回る缶を思わず目で追ってしまう。
そして、思い出す。かつてのわたしも、
「あの子の引き立て役かよ!」と毒を吐き出しながら缶を蹴っていた日々を。
もしこの世界が、選ばれる人間と、選ばれない人間で線引きされているとすれば、いつだってわたしは選ばれない側の人間だった。
◇
中学からの友人がいる。彼女の名前はカナ。 20代前半の頃、よく彼女が家に遊びに来ては泊まっていた。 相武紗季にそっくりな外見の彼女は、目が大きくて、笑うと笑窪ができるのがチャームポイント。顔まわりはシャギーが入っている軽めのミディアムヘア。
そして天然で面白い性格でモテモテだった。 胸はぺったんこだったけど、今にも折れてしまいそうな細い線をした身体は女のわたしでも守ってあげたくて、いつだって彼女を励ましたかった。
だけど、カナに纏わることで初めて自尊心が傷ついたのはあのとき。
中学3年生の頃、「タイプではないけど、告白されたら付き合ってもいいかな」と思っていたクラスの男子に連絡先を聞かれた時だ。
わたしはニヤニヤしながら、恋の先手を取ったつもりで彼からのメールを返した。
よし、念願のモテ期が来たぞと小躍りだってした。
すると、2通目で「ところで、カナちゃんの連絡先を知ってたら教えてくれないかな?」と聞かれたのだ。
このメールを読んだ瞬間、好きでもない人に「君には興味ないよ」とフラれた気持ちになった。い、いや、そもそもわたしだってあなたに興味ないんですけど?
わたしゃ、お前の跳び箱かい!と本気で思ったよ。彼はわたしを踏み台にして、目を輝かせながらカナに向かってジャンプしようとしている。ふん、どうせフラれるのに。
ま、それまで夢を見ればいいわ、と恋のキューピーちゃん役になり、カナの「告白された回数」の記録は更新し続けた。
思い返せば、わたしがおっぱいに拘るようになったのも、少なからず彼女が関係している。伝説級にモテるカナだけど、胸はぺったんこ。
そんな彼女に太刀打ちできるのは、もはや豊満ボディしかなった。貧乳家系の運命に逆うために、お小遣いとお年玉を貯めて、2万円くらいのバストアップサプリメントを服用していたのだ。
「本命はカナちゃんだけど、競争率が高いから、隣の子にしとこうか」というポジションを狙っていたが、わたしはフルスイングし続けた。
成人してからも、彼女の伝説は途絶えない。繁華街を歩けば、通った男性は必ずカナを見返した。その視線の先はわたしではなく必ずカナ。
ですよねー、わたしじゃありませんよねー、あの人ちょっとタイプだったんだけどな~。
その度にわたしの自尊心は鰹節のように削られていく。シュッ!シュッッ!!シュッッッ!!!あ痛たたた・・・。そろそろ勘弁してぇな。
あの頃は、「わたしは引き立て役かよ!」と落ちていた缶をよく蹴っていたものだ。
だけど、天然で面白い彼女のことが大好きだった。そしてカナの何が凄いってイケメンやハイスペな人からのアプローチにごめんなさい!とお断りするのだ。
だからこそ彼等は、手に入らない彼女をより一層と追いかける。それが男という生き物。
そんなカナの彼氏がいない期間は数年単位。 とりあえず付き合うという選択肢がなくて、奥手で慎重派。
そんな彼女は20歳の頃、7歳年上の医師に交際を申し込みされていた。
出会いの発端は1ヶ月前、私がデートを重ねていた男性に飲み会をセッティングしてもらったのだ。
わたしの相手は6歳年上、身長180センチ、切れ目と関西弁が特徴的な大学病院の研修医。 両親が開業医をしているボンボンの彼は珍しい型の外車を乗り回していた。
彼の車に乗せてもらい繁華街の細い道を通ると、誰もが足を止めびっくりした顔で彼の車を見続けた。それはまるで自分が注目を浴びているように錯覚して、快感だった。
その時、わたしは初めてカナになれた気がした。
ああ、彼女はいつもこんな風に男性に見られてるんだ。注目される側の心情を理解するのと同時に、わたしははどんなにもがいてもそちら側の人間にはなれない事も悟った。
そんな彼からは交際を申し込みされていたけど、若さだけが取り柄のわたしが付き合ったところで、1回やったらポイっとされる事は想像できたし、彼女の何人かきっといただろう。
つまりわたしのミッションは彼の知人を『出会いがない!』と嘆く友人たちに繋ぐこと。
そして、飲み会の日。彼は先輩を連れて来た。 身長は推定172センチ、ゆずの北川くんにそっくりだった。一般的なサリーマン家庭で育った彼は、両親に学費の負担をかけないように血を滲むような努力を重ね国立の医学部にストレートで受かったという努力家。
勉強と仕事に忙しい為に、恋愛は億劫になっていたそうだ。そして関西弁の研修医とは特別仲が良いわけでもなく、当直明けで本当は寝たいけど懇願されて来たらしい。
えっ、待って…嘘でしょ!?
いい人連れて来たじゃーーーん!!
本当はわたしが彼を狙いたい所だけどグッと堪える。でも本心では、最初に北川くんと出会えたらと願ったよね。
で、もちろん北川くんはカナの魅力にノックアウト!わたしも彼女に、北川くんは庶民派でいいじゃないかと背中を押した。
な、なのに…だ。彼女は2回目のデートで交際を断ったのだ。理由を聞くとお酒が好きなのが引っかかったという。
そのお溢れ、わたしににくださぁぁーーい!と思わず心の中で叫んだよ。
その後も2人で合コンに励んだが、
どの男性もカナの魅力にノックアウト!
はい、彼女の無双状態!!
カンカンカンカーン!!わたし、敗北…。
そして奥手な彼女は連絡先すら交換せずごめんなさい!のパターン。なんやねん!この飲み会!! おもろないわ!!
ああ、また、まただ。わたしはいつだって選ばれない立場だ。
だけど、ふと思った。わたしは本当に引き立て役なのだろうか?
むしろ、自分が選ばれない理由を、彼女のせいにしてないだろうか。
カナは男性からの視線をスルーして、いつもわたしの目を見て話しを聞いてくれていた。肯定してくれていた。
むしろわたしの方が、誰かの視線を気にして、引き立て役だなんて、少し被害者意識があるのも、ずるくて嫌らしい人間だ。
自分という人間が定まっていない故に、何かが優れているとか、何かの数の多さで、自分自身も、他人のことも、しょうもない物差しでジャッジしていたのは紛れもなくわたしだ。
そして、それらを周りの男性に見透かされていた。
誰にどう思われても、揺らがない自分の軸が欲しい。
初めて、彼女のような強さが欲しいと思ったのだ。
◇
転がる缶を見ながら、あの頃の少し切なくて、酸っぱかった日々を思い出した。
おっちゃんは、わたしたちに缶が当たってないか心配したのだろうか、こちらを見た。
そして、黒ずんでは欠けた前歯をニッと出し、「可愛いねぇ」と日焼けした手で、息子の頭をポンポンした。
わたしは、おっちゃんが、「数字の勝ち負け」や「誰かに選ばれるか」でジャッジされない世界で幸せをみつけだし、明日は缶を蹴らずにすみますように…と願っては再び歩きだした。
◇
最後までありがとうございました!こちらは嫉妬祭りに参加するために、過去noteをリメイクしたものです。名前は仮名です。
