インフレバトルエロゲの『最強』に転生した僕の自分探し③
「ゼット、コイツは幾らだ?」
「二百円で良いよ」
オンジ死亡後。僕は彼のジャンクを受け継ぎほどほどに商売をしていた。
これで良いのかという気持ちはあるが、だからとて明確な行動指針があるわけでもなし。
つくづく僕という人間は凡庸だった。
「安いな。ほい、二百円丁度」
「毎度」
金を受け取り作業に戻る。今やっているのはラジオの修理だ。売り物じゃない。私用だ。
ラジオは数少ない健全な娯楽の一つだからね。ないと僕の民度が大きく低下してしまう。
「あーあ、文化的な暮らしがしたいなあ」
そのためにはまとまった金か力が必要不可欠だが僕にはどちらも足りない。
金の余剰は数日分の生活費ぐらいしかないし力は雑魚も雑魚。
一応、異能はある。というか異能を持たない人間の方が少ないぐらいだ。
僕の異能は“模倣”。バトルもの的にかませか強者か判別に迷う能力だ。
だが僕の場合はかませどころか十把一絡げの雑魚のそれだろう。
相手の能力をコピっても劣化コピーだし、劣化コピーをストックすることもできないからね。
一応技術の模倣もできてそっちは永続だけど強者の異能に依らぬ技術を真似てとかは難しい。
技は真似られても肉体まではコピれないし、そもそも技術をコピーするにはじっくりねっとり観察する必要があるので現実的ではない。
ただオンジの技術を真似てジャンク屋を営めているので決してハズレ能力ではないんだがね。
「――――そんなお前に良い話があるんだが」
「おやジョニー。いらっしゃい」
軽薄な金髪頭がグラサンをずらしウインクを送っている。
ストリートチルドレンの友人ジョニーだ。いや彼も十五歳になったのでチルドレンではないか。浮浪者だ。
「アイスティーで良いかな?」
「冷却水をアイスティーって呼ぶのヤメロ」
いやでも飲めるし。
クーラント液は甘い匂いがするけど人体には有毒――というのは前世の常識だ。
いやこの世界でもそうなんだがこの世界の人間は殆どミュータントみたいなものだからな。
変異した肉体を劣悪な環境下で育てたら相応にしぶとい雑草ができあがる。
七大都市で生きる中流上流の温室育ちならともかく僕らみたいな雑草ならまあ飲めなくもない。
「それより、だ。文化的な暮らしがしたい? 結構。俺もそう思ってたことなんだ」
「ほう?」
「俺は、都市を出ようかと思ってる。お前も分かってるだろ? この都市には未来がない」
与太かと思ったが真面目な話のようだ。
「かつては八大都市に数えられてたらしいが負けて食い荒らされて今じゃ他所から何て言われてる?」
「負け犬都市」
二十数年前に起こった戦争で負けたせいだ。
通称ペット戦争。犬派、猫派など八大都市の長が各々飼っているペットの自慢に端を発した阿保極まる戦争のことだ。
当時、この都市の長だった犬派の男は最強の一角だったが自慢がうざ過ぎて他から袋叩きにされて死んだ。
真っ先に脱落しても戦争は続いたが決着がつかぬままずるずる和解。
唯一の敗北者となったこの都市は七大都市や小規模コミュニティの連中に食い荒らされた。
その結果、名前すら奪われてしまい今じゃかつての栄華は微塵も窺えない。
「そう。負け犬都市だ。七大都市どころか小規模コミュニティの連中にさえそう蔑まれてるんだぜ?」
そろそろ見切りをつける時だとジョニーは断言した。
この世界において文化的な暮らしが望めるのは七つの大都市だけ。
そこ以外にもコミュニティはあるがどこも村ぐらいの小規模なものでそういうところは閉鎖的で排他的だ。
血を入れるために時たま人を迎え入れるがそれは外側からじゃ何時なのか分からないし分かってもそこに入り込めるかは怪しい。
なので底辺からの脱出を狙うなら七大都市に入り込むしかないわけだが……。
「金も力もないのにどうやって出て行くのさ」
正規の手段で七大都市に入るのなら相応の金が要る。
無くても入れるがその場合は都市の保障を受けられず浮浪者としてやっていくしかない。
力があれば浮浪者からでも生活を立て直せるがそうでなければずるずると沈んで行くだけ。
浮浪者にも縄張りというものがある。他所から来た新顔が上手いことやっていくのは難しいだろう。
「金ならあてがある。言ったろ? 良い話があるって」
「美味い話にゃ穴があるものだけど」
「お前はホント、ネガティブだな。まあ聞け。実はな。近々、アルムファミリー主催で飲み比べ大会が開かれる」
「うん」
「参加費は千円で賞金は優勝者が一千万、準優勝が五百万だ」
「うん」
「俺とお前でワンツーフィニッシュ。千五百万ありゃ初期費用としては十分過ぎるだろう」
馬鹿なのかな?
いやもうどこからツッコミ入れれば良いのか……。
「賞金の設定額が露骨に怪しいし何で優勝できるの前提なワケ?」
こんな見え見えの釣り針に誰が引っ掛かるんだよ。
……いや引っ掛かるの結構いそうだな。学も何もない落伍者ばっかだし。
「おいおい、俺が何の勝算もなしに話を持って来たとでも?」
「それは?」
ジョニーが懐からアンプルを二本、取り出した。
「アルコールを分解するナノマシンだ」
「……そんなものどこで」
底辺の人間が手に入れられるようなものではない。安いのでもン十万単位だぞ。
「実はな」
ジョニーは嬉々として語り出す。その内容は……あんまりにもあんまりなものだった。
メインストリートで布告された大会のチラシを見ていたジョニー。
底辺から脱出するため一千万は喉から手が出るほどに欲しいが勝算はない。
千円というのは底辺の人間にとっては痛い金額で、確たる勝算もないのに払うのは……。
諦めてチラシを捨てようとしたその時だ。
『もし、ちょっと良いかいお兄さん』
見知らぬ老婆に声をかけられたそうな。
老婆は大会に出るなら良いものがあると言ってナノマシンの入ったアンプルを見せたらしい。
ナノマシンなんざ買えねえよと言うジョニーに老婆は、
『一本五百円で良いよ』
何故? とジョニーは問うた。
『前途ある若者がこんな場所で沈んでいくのは忍びないのもあるが……何となく、お前さんに旦那の面影がちらついてね』
それで少し手助けしてやりたくなったのだと言う。
感動したジョニーは即金で二本、購入。そして意気揚々と僕の下へやって来たってわけだ。
「お前には八百円ほど借金があっただろ? 賞金で返しても良いと思ったが他にも恩があるしさ」
どうせなら準優勝の賞金をくれてやろうと思ったのだとジョニーは照れ臭そうに笑う。
「……」
「おいおい、そんな感動するなって! 恥ずかしいだろ!!」
顔を手で覆い天を仰ぐ僕を見て何やら勘違いしたご様子だが当然、感動なんかしちゃいない。
(詐欺……! どう考えてもファミリーとグルの悪質な詐欺……!!)
涙が出るほど哀れだった。
