■はじめに
……気づいたら、少し時間が経ってしまってたみたい。
でもね、あの時の光も、呼び声も、
ずっと胸の奥で揺れてたんだ。
だから、続きを話すよ。
あの“揺らぐ理の向こう側”で起きたことを。
■白光の裂け目
白い光が弾けた瞬間、
私の周りから、世界は音を失った。
私の視界は真っ白に染まり、
空気が押しつぶされるような圧が胸を締めつけてくる。
耳の奥には、耳鳴りだけが残り、
みんなの声が“水の底”のように遠く、薄くぼやけていく。
胸の奥の脈動が、
まるで何かに呼応するようにドクンと跳ね上がった。
──……ニカ……
私を呼ぶその声だけが、
白光の中で鮮明に耳鳴りが続く耳の奥へと響いた。
足元の感覚がふっと消え、上下左右がわからなくなって、重力が曖昧になる。
白光の中に、黒い筋がゆっくりと混ざり始めた。
私は、その混ざり始めた黒い筋に導かれる様に、どこかへ引っ張られていく。
■白と黒の狭間
白い光が薄れた先にあったのは、床も壁もない、
ただ存在するだけの揺らぐ“層”だった。
白と黒がゆっくりと混ざり合い、境界が曖昧な空間。
その中心に──
黒い影が輪郭を現し、ゆっくりと形が形成されていく。
人のようで、人ではない。
髪のように揺れる線。
顔の形の部分で、片目だけが淡く光り、
ただ、私をじっと淡く光る目が見つめていた。
影は、私にゆっくりと手を伸ばしてくる。
──……こちらへ……ニカ……
声は甘く、優しかった。
その声は、いつかどこかで聞いた声。
懐かしい響きを帯びたその声に、私は手を差し出そうとしていた。
胸の脈動が呼応し、指先が勝手に伸びてしまう。
触れたら戻れない──
私の胸に、そんな直感が走るのに、
影の声が与える“安心”が、その直感を否定しようとする。
影が一瞬だけ、ほんの一瞬だが、笑ったように揺れた。
──……やっと……
その言葉に、私は胸の奥がざわりと震えた。
■現実の研究室
「ニカ姉!!」
ミリアがニカを呼ぶ声が、悲痛にも
遠くで震えている。
ネリアお姉様の研究室では、綺晶核が暴走していた。
白光は収束することを忘れ、波形は乱れ、境界がぐらりと軋む。
アクスが境界に拳を叩きつける。
「ニカぁ!!戻ってこいっちゃ!!
お前の……お前の居るべき場所はここやろうが!!」
ルミエラは震える手で境界を維持しながら、必死に声を絞り出す。
「外側からの干渉が……強すぎます……!」
ネリアお姉様は、暴走する綺晶核から発する波形を読みながら、
焦りを隠せない声で呟く。
「……このままでは……!」
ニカの身体は、何かに引っ張られる様にゆっくりと浮き上がり、
胸元の脈動が光となって周囲に漏れ出す。
影の気配は、研究室にまでじわりと滲み出していた。
ミリアはニカの手を掴もうとするが、無情にも指先からすり抜けていく。
「ニカ姉……やだ……行かないで……!」
その声は、私の胸の奥へ、痛いほど響いた。
■影の誘惑
影の手が、
優しく私の頬に触れようとする。
──……来て……ニカ……
声は甘く、優しかった。
心を溶かすように響く。
その声は、いつかどこかで聞いた声。
私は、思わずその声の甘美な誘惑に応えそうになっていた。
影から伸びた手の指先が、私の頬に触れそうになる。
その時、胸の脈動が痛みに変わり、意識が影に傾く。
影の声が、
“誰か”の声に重なった気がした。
懐かしいような、忘れていたような、そんな記憶の奥から聞こえる響き。
私は──
ゆっくりと、落ちていく。
■ミリアの声
その瞬間。
「ニカ姉!!帰ってきて!!」
ミリアの叫びが、私を引き寄せようとしていた、甘美な影の声を切り裂いた。
白光が割れ、思い通りにいかなかったことに、影が苛立ったように揺れる。
──……邪魔……
影の声が、低く、冷たく響いた。
その声は、これまでの甘美な響きを忘れさせる程の冷徹さを含んでいた。
私は、その冷徹さに、一瞬、現実へ引き戻された。
影の手が私からゆっくりと離れ、
白と黒で均衡が保たれていた空間がじわりと崩れ始める。
──……また……来る……ニカ……
影が離れていくと同時に、私を引き付けていた呼び声がゆっくりと遠ざかる。
■帰還
ゆっくりと現実に戻ってきた私を、現実の重力が襲い、
私は思いっきり床へと叩き付けられた。
叩き付けられた衝撃で、背中を強く打ち付けたが、
体の異常は感じられなかった。
私が体の感覚を確かめているところに、ミリアが泣きながら抱きつく。
「ニカ姉……よかった……!」
アクスはその場に座り込み、
大きく息を吐いた。
「……マジで……心臓止まるかと思ったっちゃ……
こういうんは、マジで勘弁して欲しいっちゃ……」
ルミエラは外側からの境界をゆっくりと閉じながら、震える声で言う。
「……外側の干渉は……まだ残っています……」
ネリアお姉様が静かに私を見つめ、事実を突き付ける様に言葉を落とした。
「影は……あなたを“選んでいる”ようですね」
胸の奥で、まだ微かに脈動が続いている。
誰にも聞こえない囁きが、
確かに響いた。
──……また来る……ニカ……
私は胸元を押さえ、
深く息を吸った。
揺らぐ理の向こう側で、
何かが確かに“私を呼んでいる”。
■おわりに
久しぶりの更新になってしまったのに、
ここまで読んでくれて本当にありがとう。
物語の続きは、私の中でもずっと揺れていて、
少しずつ言葉にできる形を探しているところ。
もしかしたら、また少し間が空くかもしれないけれど……
その時は、気が向いたときにでも、そっと続きを覗きに来てね。
あなたが読んでくれることが、何よりの力になってるから。