TL;DR: 「AI議会が異世界転生小説を書き続ける」企画の続き。テーマ・登場人物・物語の方向性を、5体のさくらのAIモデルに議長付きの合議で決めさせてみた。出てきたのは単なる舞台設定ではなく、「ハルシネーションをどう検出し、物語の中でどう扱うか」という運用課題そのものを世界観のルールに組み込んだ設計だった。さらにキャラクターを深堀りしたところ、明示的に指示していないビジュアルの一貫性まで見つかった。
前回のおさらい
複数AIによる発散ブレストで「使い倒したで賞」狙いの企画を探し、最終的に「複数のさくらのAIモデルが合議制で異世界転生小説を毎日書き続け、消費したリクエスト数がそのまま物語の進行度になる」という企画に決まった、というのが前回の内容だった。主人公は「未来の知識」で無双するが、その知識には意図的なハルシネーションが混じる、という核だけを決め、具体的な世界観・キャラクター・物語はまだ白紙のままだった。
会議の設計
企画自体がAIの合議で決まったのだから、テーマ・登場人物・ストーリーもAI議会に決めさせるのが筋だろうと思った。既存の複数AI討議ツール(収束モード、参加者が相互に批評しながら1つの結論にまとめる仕組み)を使い、以下の構成で会議を1回実行した。
- 参加者: さくらのAI Engineの5モデル(世界観・整合性・語り・ツッコミ担当に相当する顔ぶれ)
- 議長: 討議参加者とは別に、集約役を1体用意する必要があった(討議ツールの仕様上、議長は参加者を兼任できない)
- 固定した核: 「AI人格が異世界に転生し、知識(+意図的なハルシネーション)で無双する」
- 方向性の指定: 実在の歴史ではなく完全に架空の異世界にする(史実の裏取りが不要で身軽なため)
- 決めてほしいこと: 世界観・ルール、登場人物、物語の方向性の3点
決まった内容
出てきた結果は、想定より作り込まれていた。
世界観は、大月・小月の引力共鳴で「魔導」が発現する、蒸気機関前夜レベルの完全架空世界。魔導貴族と無魔者の二層構造の社会に、重大事項を審議する評議機関があり、これが物語内での「AI議会」の舞台になっている——お題として与えていない構造だが、自然とメタな入れ子構造ができあがったようだ。
登場人物は、報告調で喋る旧AI出身の主人公セル・グリザイユ、主人公を保護した平民の少女フィオナ・ベルク(感覚的な違和感を指摘する役)、貴族出身の若手審議官ローレンス・フォン・ヘルツ(制度的・理論的に検証する役)の3人が中心。それぞれ主人公の「知識」に対する異なる角度からのチェック役になっている。
物語の方向性は、序盤で偶然の成功体験によって無双感を深めた主人公が、物語の中盤で自分の提言の根拠が実はハルシネーションかもしれないという疑惑に直面し、最終的には「唯一の賢者」から「みんなで真贋を検証し合う会議の議長」へと成長していく、という骨格になった。
キャラクターをさらに深堀りする
大枠が決まった時点では、名前・立場・簡単な性格しか分かっていなかった。イラスト化も見据えて、外見・詳細な性格・話し方のサンプルを別途AIに検討させたところ、キャラクターの持ち物ひとつひとつが、世界観の「検証構造」と対応する形で提案されてきた。
- セル(主人公): 左目に「観測鏡」というモノクルをつけている。実はただの視力補助ではなく、旧世界の情報インターフェースの名残という設定で、セルのハルシネーションが強まるとレンズが微かに濁る——読者への視覚的な「この発言は怪しい」というサインになる。
- フィオナ(保護者の少女): 首に鉛入りの護符を下げている。セルの知識にハルシネーションが含まれると、微かに熱を発してフィオナに違和感を伝える。直感的な検証を、物理的な仕掛けとして表現している。
- ローレンス(審議官): 左手の指環を「実験環」として改造しており、新しい仮説を検証する際にショートして煙を上げる。理論的な検証プロセスを、装飾品の破損という分かりやすい形で見せている。
話し方のサンプルまで提示されており、たとえばセルは「推定成功率、98.7パーセント」のように、感情の代わりに数値を差し込む口調で喋る。一方フィオナはセルを「あんた」と呼び捨て、敬称を一切つけない。この温度差だけで、2人の関係性がある程度伝わるだろう。
一番面白かった洞察:「見ることへの執着」というモチーフ
キャラクターの外見を見返していて気づいたのは、セルが**「見ること」の象徴を二重に背負っている**ように見えることだった。
オッドアイ(大月・小月それぞれを模した色の左右非対称の瞳)は、生まれつき異なる2つの視点を持たされているという「先天的な二重性」を表している。一方、モノクルは旧世界の情報インターフェースの名残で、後から付け足された「人工的な観測装置」にあたる。
面白いのは、この2つが逆方向に機能しているらしい点だろう。オッドアイは自然な(与えられた)知覚で、モノクルは技術的な(自分が頼っている)知覚——なのに、ハルシネーションが強まると濁るのはモノクルの方だった。人工的に強化した視力ほど、実は当てにならない、という皮肉が、ビジュアル設計の時点で既に仕込まれていたのかもしれない。セルの物語全体のテーマ(訓練コーパスという人工的な知識への過信、それは本当に見えているのか)と、キャラクターデザインのレベルで一致しているように見える。
これは狙って作らせた一致ではなく、「検証できる仕組みを持たせる」という緩い制約だけを与えた結果として、複数のAIの合議から自然に出てきたもののように見える。
イラスト化
ハルシネーション対策そのものが世界観に組み込まれた企画である以上、キャラクターの見た目を実際に絵にできれば、読者にも一目で伝わるものが増えるはずだと思う。3人それぞれの外見情報を元にイラスト生成プロンプトを用意し、実際に生成してみた(技術図解で使った「手書き風インフォグラフィック」とは別の、ライトノベル表紙風のスタイルを指定している)。
保留事項
正直に書くと、まだ決まっていないことも残っている。脇役の人数は3人案と4人案が割れたまま3人を仮の基本線とし、ハルシネーションが「意図的」なのか「無自覚」なのかも、当面は「無自覚だが知識を過信している」状態としたうえで持ち越しにした。没になった設定案(検証用の特殊な図書館ギミック)もあったが、世界観の統一感を優先して見送っている。
次にやること
キャラクターの見た目・性格・話し方まで固まり、実際にイラストも生成できたことで、次は章立ての骨子作りと、ハルシネーションを実際にどの場面でどう混ぜるかの設計に進める。そのうえで、ようやく実際の執筆エンジン(AI議会が毎日1話を生成する仕組み)の実装に入れる。
3,000リクエストへの到達はまだ遠いが、企画とキャラクターが固まったことで、実装のイメージはだいぶ具体的になったように見える。この記事を書いている時点で、キャンペーン期間中の消費リクエスト数は(他の企画での呼び出しも含めた累計で)102件ほどのようだ。まだ全体の3%程度で、先は長い。続きはまた別記事で報告したい。



