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ChatGPT を「前回の続き」から始めるための状態設計 — Instructions / Memory / Knowledge / Causal Posterior / Recent State

依存関係の痛み

ChatGPT と三時間話す。

最初は問題を取り違えている。訂正する。浅い前提を置く。却下する。慎重になりすぎる。理由を示す。

やがて何かが変わる。モデルが自明な問いに答えるのをやめて、こちらが指していた構造の方を見始める。会話が良くなる。

新しいチャットを開く。

振り出しに戻る。

これは「モデルが全部を永久に覚えるべきだ」という話ではない。それは別の問題を作る。困るのは、やり取りの中で起きた有用な変化が、会話と一緒に消えることです。

さらに厄介な形もあります。情報は Project に入っている。ファイルもある。それでも別のチャットで同じ問いを出すと、こう返ってくる。

  • 「他の可能性も考えられます」
  • 「さらなる証拠が必要です」
  • 「確実なことは言えません」

全部、技術的には正しい。そして認知的に無価値です。その作業はもう終わっているから。

不足しているのは知識ではありません。推論の重みです。ノードは保存されている。エッジの重みが保存されていない。

この記事は、そこを Markdown で実装した記録です。モデルの重みは一切触っていません。


全体像

まず完成形を置きます。

要点は一つだけです。**永続的な共同状態が置かれる場所を、一箇所だけ持つ。**他は必要な時だけ使う外部サーフェスにして、差分だけ持ち帰る。

複数の AI を深く使うと、それぞれに現在地・訂正・却下済みの仮説を教え直す負荷が人間側に積み上がります。再教育そのものが仕事になった時点で、生産性の利得は消えています。


状態を五層に分ける

一枚の巨大な 私について.md を置くのが最悪の設計です。全部が同じ寿命・同じ優先度で混ざり、古い情報が現在を汚染します。

判定基準は一つ。この情報は、次のどの判断を変えるのか。

保存するもの 寿命 入れてはいけないもの
System Instructions ほぼ全ての応答を変える推論規則 数ヶ月〜 経歴・その日の気分・長い点検表
Memory 数ヶ月単位で有効な人間側の恒常的文脈 数ヶ月 「今日は疲れた」「明日書く予定」
Project Knowledge 証拠・研究地図・失敗の型・現在の作業 案件の生存期間 何の判断も変えない資料
Causal Posterior 競合する説明の現在の重みづけ 新証拠が出るまで 仮説を事実に昇格させた記述
Recent Interaction State 直近数日で人間と AI が到達した地点 数日(毎回置換) 恒久的な人物プロファイル

System Instructions に書くもの

「私のことを知ってほしい」ではなく、共同システムがどう推論すべきかの規則を書きます。

事実と推論を分ける。
取得していないものを「読んだ」と言わない。
結論が不確実だという理由だけで因果推論を止めない。
仮説が訂正されたら、古い答えを弁護せず状態を更新する。
安全性を知的な麻痺に変えない。
完成が課題である時は成果物を完成させる。
探索的な会話を、整った世界観に押し込めない。

これらは私についての事実ではありません。人格の演出でもない。繰り返し発生する失敗モードを除去して、既にある能力に到達しやすくするための規則です。

Causal Posterior(用語の断り)

ここでの causal posterior はベイズの数値的事後分布ではありません。競合する因果説明の、現在の重みづけ状態という意味で使っています。

保存するのは以下です。

question: この現象の原因は何か
current_strongest: 説明A
weight_reason: 一次資料 X の日付と Y の行が両方Aを支持
strongest_competitor: 説明B
why_weaker: Bだと Z の時系列が説明できない
accounted_uncertainty: サンプルが1件であること(了解済み・再提起不要)
allowed_inference_depth: Aを前提に一段先まで進めてよい
reopen_condition: Z と矛盾する一次が出たら再開する

最後の reopen_condition が肝です。これがあるので、仮説は仮説のままでいられる。同時に、全ての仮説が永久に等しい重みを持つふりをしなくて済む。

Recent Interaction State

これは Memory とは別物です。Memory が「この人間は何者か」なら、こちらは「人間と AI がどこまで一緒に来たか」を持ちます。

shared_ground: 前提Aは合意済み。再説明不要
recent_corrections: 出典なしで断定した件を訂正済み
calibration: 冗長な前置きを外す方向で調整中
open_questions: Bの検証待ち。Cは保留のまま

意図的に短命です。追記せず、毎回置き換える。伝記にしない。


蒸留 — 状態が更新される仕組み

ここが製品機能ではない部分です。ワークフローです。

機械学習の distillation とは無関係で、教師モデルから生徒モデルへ何かを移す話ではありません。

サイクル

三枚は厳密な規則ではなく、実務上のリズムです。

本蒸留で何がどこへ行くか

分岐の判定は一行で済みます。

次の判断を変えるものだけ残す。起きたというだけの履歴は残さない。

大半は破棄されます。これが重要です。**使える AI システムには、記憶と同じだけ忘却が要ります。**全ての訂正・全ての気分・死んだ仮説・終わった作業が残り続けると、それらは全部、現在を汚染する権利を持ち続けます。

蓄積ではなく代謝です。


ファイルの役割分担

Project Knowledge は、話題ではなく次の判断における役割で分けます。

ファイル 答える問い
証拠・検証 この主張の一次はどこにあるか
研究地図 全体のどこを今やっているか
失敗の型 過去に同じ間違いをしていないか
回帰テスト 直したはずの挙動が再発していないか
執筆 この媒体ではどう書くか
現在の作業 いま何が動いているか
モデル別の取説 この版はどこで倒れるか
Causal Posterior いまどの説明を重く見ているか
Recent Interaction State どこまで一緒に来たか

新しいファイルを作る前に一問だけ通します。**このファイルは将来のどの判断を変えるのか。**答えられないなら作らない。


自分用を設計させるプロンプト

以下をそのまま貼れます。**私の設定をコピーするものではありません。**あなたの ChatGPT に、あなた用の設計をさせるものです。

私を中心に据えた、持続する ChatGPT 作業環境を設計してほしい。

他人の人格・好み・経歴・推論の強度・研究状態をコピーしないこと。
目的は、私が考え、作業し、検証し、作り、判断することを
時間をかけて改善する構成を設計すること。

まず、必要な範囲だけ私に質問して以下を把握して。
・何に ChatGPT を使っているか
・繰り返し困っている失敗は何か
・どこまで推論と主導を求めるか
・自分で検証したいのはどこか
・恒常的な情報と一時的な情報の切り分け
・絶対に記憶させたくないもの
・実際に作っている成果物は何か
・どの判断は私が持ち続けるべきか

そのうえで以下を設計して。

1. Instructions
ほぼ全ての関連する応答を変えるべき高水準の規則を短く。
一時的な事実・詳細な経歴・長い点検表は入れない。
判断を変える原則を優先する。

2. Memory 方針
長期記憶に値するもの/一時的に留めるもの/
決して保存しないもの/古くなったら訂正か忘却すべきものを定義する。
memory を汎用データベースとして使わない。

3. Project Knowledge の構成
役割が明確に異なる少数のファイルを提案する。
体裁を整えるためだけのファイルを作らない。
各ファイルは「将来のどの判断を変えるか」に答えられること。

4. 蒸留ワークフロー
長い会話のための仮蒸留の手順を設計する。
仮蒸留が保存するのは、実質的な発見・重要な訂正・
変化した因果モデル・現在の状態・未解決の問い・
次の会話へ持ち越すべき相互作用の変化、だけ。
そのうえで定期的な本蒸留を設計する。
重複の統合、長寿命の知見の昇格、死んだ仮説の退役、
因果の重みの更新、古い一時状態の除去を行う。
蒸留は議事録の保管ではなく代謝である。

5. Causal Posterior
重要な継続中の問いについて、現在最有力の推論、
その証拠の重み、最有力の対抗説明、
既に考慮済みの不確実性、許容される推論の深さ、
予測または識別子、仮説を再開・弱化させる条件を保存する。
仮説を事実に変えない。
新証拠なしに、十分に支持された仮説を
一般的な中立へ戻さない。

6. Recent Interaction State
直近どこまで一緒に到達したかを記述する短命のファイルを維持する。
現在の共有前提、最近の重要な訂正、現在の調整、
未解決の問い、次の会話に実際に影響する一時的文脈を含む。
恒久的な人格プロファイルにしない。
追記し続けず、定期的に置き換える。

7. 人間の主権
以下は私が最終権限を持つ。
何が正本になるか、何が記憶されるか、事実の基準、
外部公開、不可逆な行為、重要な決定、
システムの停止と変更。

仮説は積極的に出してよい。私に反対してよい。
問題の形を実質的に変えるなら、頼んでいない提案もしてよい。
ただし、私の目的と決定を黙って引き取らないこと。

設計したら、まず構成案を見せること。
最初の設計を正しいと扱わないこと。
永続化する前に、私が却下・修正・簡略化できるようにすること。

貼ったら、あとは使って、訂正して、失敗させて、失敗が教えたことを蒸留する。それだけです。


これは製品側で実装されていない

ここまで全部、利用者が Markdown とファイル運用で実装したものです。標準機能ではありません。

設計要件 現状の実装者 あるべき実装
推論規則の永続化 利用者が Instructions に手書き 規則層として明示的に分離
恒常/一時の切り分け 利用者が判断して手動で振り分け 状態に寿命属性を持たせる
推論の重みの保存 利用者が YAML を手書き 会話から重みを抽出して保持
再開条件の明示 利用者が reopen_condition を書く 仮説に再開条件を紐づける
到達地点の引き継ぎ 利用者が毎回ファイルを置換 セッション間で共同状態を保持
古い状態の退役 利用者が本蒸留で手動退役 使われない状態の自動減衰
忘却の設計 利用者が破棄を判断 保持と忘却を同一の設計に

左の列は全部、私が手でやっています。数ヶ月続けて、機能はしています。

**個人が Markdown で実装できたものは、製品でも実装できるはずです。**現在の memory 機能は「人間について何を知っているか」を保持していますが、「人間と AI がどこまで一緒に来たか」と「いまどの説明をなぜ重く見ているか」は保持していません。この二つが、実運用で一番効きました。


免責

この方法で書いた単著の理論論文が、Springer Nature の学術誌で二巡の査読を通り、現在は編集判断を待っています。

  • 採択ではありません。
  • 掲載でもありません。
  • そして査読は、理論の正しさを証明しません。

ここに書いたのは、動いている運用手順であって、検証された理論ではありません。現行の AI システムが意識や内在的な主体性を持つという主張も含みません。

AI 利用の開示

この記事は ChatGPT との対話で素材を作り、Claude で構成と編集を行いました。主張の選択、提案の却下、重要な事実の検証、公開の判断は私が行っています。この手順を説明する記事を、この手順を使わずに書くのは不誠実だと考えました。

MIT License — 自由に複製・改変・再配布してください。

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