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前回の記事で、カメラ構成を決める5要件(照度・撮影距離と画角・許容できる遅延・保存期間・回線条件)を整理しました。最初の要件「照度」で「夜も撮る」と出たとき、次に来るのが暗視の設計です。

このとき「IR(赤外)付きのカメラを買えばいい」で済ませると、夜だけ使い物にならないことがあります。四隅が真っ暗、遠くの対象が沈む、そもそも波長がセンサに合っていない — どれも「IRを足す」だけでは防げません。暗視は、照らす側を距離と画角から設計して初めて成立します。

この記事では、その暗視照明を、感覚ではなく計算で決める手順を、前回と同じく実例まで通して説明します。

暗視照明を決める4つの変数

変数 何を決めるか 見落としがちな点
① 波長 見えるか光るか、センサ感度 「不可視だから940nm」で感度を捨てる
② 距離(光量) どこまで届くか 距離が2倍で必要光量は4倍(逆二乗則)
③ 画角との整合 四隅まで照らせるか 照射角がカメラより狭くスポット化
④ カメラのIR感度 + 点灯制御 そのセンサで写るか、電力は持つか カメラと照明を別々に選ぶ

順に見ます。

① 波長 — 850nm か 940nm か

IR照明の波長は、実質この2択です。nm(ナノメートル、光の波長。人が見える光は約400〜700nm、その外側が赤外)で表します。

波長 見え方 センサ感度 向く用途
850nm LEDがうっすら赤く光る 高い 感度・到達距離が欲しい
940nm 人の目には光らない(不可視) 850nmよりおよそ3割低い 光らせたくない(防犯・目立たせたくない)

多くのカメラ用センサ(シリコン)は、波長が長くなるほど感度が落ちます。940nmは「光らない」という強い利点がある一方、同じ明るさを得るのに850nmより多くの光量が要る。「不可視だから940nm」と反射的に選ぶと、感度と到達距離を捨てることになります。 盗撮抑止で光を見せたくないなら940nm、少しでも遠くを写したい・光源を増やしたくないなら850nm、というのが判断軸です。

② 距離 — 光量は逆二乗則で決まる

暗視で最も効いてくる物理がこれです。点光源から出た光の明るさ(照度)は、距離の2乗に反比例して弱くなります。逆二乗則と呼びます。

点光源とみなせる距離では、照度 E は距離 d の2乗に反比例する:

    E ∝ 1 / d²

2つの距離を比べると:

    E₂ / E₁ = (d₁ / d₂)²

具体的に。ある照明が3mでちょうど良い明るさだったとして、同じ照明で6mを照らすと:

E₂ / E₁ = (3m / 6m)² = 1/4

明るさは4分の1に落ちます。 逆に言えば、6mで3mと同じ明るさを保つには、光量を4倍にしなければならない。距離が2倍で光量4倍、3倍なら9倍。市販のIR照明が「至5m」「至15m」と到達距離を明記するのは、この急な減衰があるからです。必要な距離を先に決めないと、光量は決まりません。 ここも前回のDORIと同じで、感覚ではなく計算で出せます。

なお、カタログの「至○m」は対象の反射率を前提にした値です。白い壁と黒い獣の毛では反射して返ってくる光がまるで違い、暗い対象は同じ距離でも暗く写ります。カタログ値はそのまま信じず、暗い対象を狙うなら一段余裕を見るのが安全です。

③ 画角 — 照射角がカメラより狭いと四隅が暗くなる

次に、その光をどれだけ広げるか。カメラが写す範囲(画角)より、IRの照射角が狭いと、中心だけ明るく四隅が沈みます(スポット化)。 カメラの画角に、照明の照射角を合わせるのが原則です。

ここにトレードオフがあります。同じ総光量を広い角度に散らせば、中心の強さは下がる。結果として到達距離は縮みます。つまり**「広く照らす」と「遠くまで照らす」は両立しにくい**。市販のIR照明が「60°で15m / 90°で10m」のように角度と距離をセットで示すのは、このためです。

判断は単純です。まず必要な画角を②の撮影距離と画角から決め、その画角を覆える照射角の照明を選ぶ。そのうえで到達距離が足りなければ、光量(LEDの数)を増やす。広角で遠距離が必要なら、素直に光源を厚くするしかありません。

④ カメラのIR感度と、点灯制御

見落とされがちですが、同じLEDを当てても、カメラのセンサによって写りが変わります。 シリコンセンサのIR感度(量子効率)は機種差が大きく、安価なCMOSはIR効率が低いものがあります。加えて、昼用にIRカットフィルタが常時入っているカメラは、そのままではIRがほとんど届きません。暗視をやるなら、IRカットを外せる(または最初から無い)カメラを選び、カメラと照明をペアで決める必要があります。

点灯制御も設計に入れます。IRを常時点灯すると、電力を食い、LEDが発熱し、夜間は虫を呼び寄せます。定石は人感(PIR)センサで動きを検知したときだけ点灯する方式です。電力と発熱を必要な瞬間に絞れ、屋外では放熱設計も楽になります。電源が潤沢でない構成(電池・ソーラー)では、この点灯制御が成立するかどうかが死活問題になります。

現場で効く注意点(よくある失敗)

計算どおりに光量を積んでも、屋外の暗視は次の理由で崩れます。どれも実際にハマる箇所です。

  • 可視光の混入 — 近くの街灯や、カメラ自身の白色LED(ステータス表示など)が、IR画を白く飛ばします。夜間は対象付近の余計な光源を消すか、画角から外す。
  • レンズ窓とIR窓を分ける — 同じ窓の内側にレンズとIR LEDを並べると、窓の内面でIRが反射してレンズに回り込み、画面全体が白く濁ります(ベーリンググレア)。窓を別々に開けるか、あいだに遮光の隔壁を入れる。これは筐体設計の段階で決めておかないと、後から直せません。
  • 近接物のホットスポット — 支柱・壁・雨粒にIRが強く反射すると、その一部だけ白飛びして周りが潰れます。照明をレンズから離し、近接物を画角から外す。
  • 結露 — 氷点下がある屋外では、窓の結露がIRを散乱させて画を曇らせます。密閉+乾燥剤、下向きの通気、必要ならヒーターで対処。
  • — IR近傍の波長や熱に虫が集まり、レンズの前を横切ります。PIRトリガ点灯と、光源をレンズから離す配置で軽減できます。

「暗視が写らない」の多くは、光量不足ではなく、この5つのどれかです。 光を積む前に、まずこれらを潰しておく。

そのまま使えるチェックリスト

暗視を設計するとき、この4つを埋めてください。

  • ① 波長:光らせて良いか(850nm)/ 光らせたくないか(940nm、感度は下がる)
  • ② 距離:最も遠い対象までの距離は。→ 逆二乗則で必要光量を見積もる(距離2倍=光量4倍)
  • ③ 画角:カメラの画角を覆える照射角か。広角と遠距離を両立させるなら光源を厚くする
  • ④ 感度・制御:そのカメラはIRが届くか(IRカットの有無)。常時点灯かPIRトリガか。電力と放熱は足りるか

ワークショップ:圃場カメラの暗視を設計する

前回の圃場カメラ(3×5m、支柱1m水平、対象は夜行性の獣)の暗視を、実際に設計します。照度の要件は前回「夜あり=IR必須」と出ています。ここから先を4変数で決めます。

① 波長 — 自分の畑で、目的は獣の検知。光源が薄赤く光っても支障はなく(むしろ軽い忌避効果も期待できる)、感度と到達距離が欲しい。→ 850nm を選びます。防犯で人に気づかれたくない用途なら940nmですが、今回は該当しません。

② 距離 — 支柱から畑の最奥まで、水平で約6m。IR照明を「3mでちょうど良い」小型のもので考えると、6mでは逆二乗則で明るさが1/4に落ちる。

E₂ / E₁ = (3m / 6m)² = 1/4  → 6mで同等の明るさには光量4倍

したがって、3m級の単発LEDでは足りず、**同等品を数個束ねる(=光量を数倍にする)**方向で見積もります。

③ 画角 — 前回、標準レンズで5m先を横幅いっぱいに写す構図でした。標準的な水平画角はおよそ60〜70°。IRの照射角もこの60〜70°に合わせます。 広角ぶん光は散るので、②で見積もった光量にさらに余裕を持たせる。狭角の高出力スポットを1個ではなく、60°級のLEDを複数、が正解です。

④ 感度・制御 — 手持ちの XIAO ESP32-S3 Sense のカメラ(OV2640)は、多くの個体でIRカットフィルタ付きです。そのままでは850nmが届かないので、IRカットを外す(NoIR化)必要があります。ここはカメラと照明をペアで決める、の実例です。点灯は、この畑は商用電源が引けるので常時でも回りますが、虫寄せと発熱を避けてPIRトリガにします。将来リモート圃場(電源が細い)へ展開するなら、PIRトリガは必須になります。

そして筐体。3Dプリンタで作りますが、ここで前節の「レンズ窓とIR窓を分ける」が効きます。同じ窓にレンズと850nm LEDを並べると内面反射で画が濁るので、レンズの窓とIRの窓を別に開け、あいだに遮光の壁を入れる設計にします。氷点下対策の乾燥剤と通気も、この段階で筐体に織り込む。光量は、3m級の60°LEDを4個前後から始め、実写を見て増減させる — 逆二乗則の4倍は「まず4個」の出発点になります。

まとめると、この畑の暗視は「850nmのLEDを照射角60°級で4個前後、IRカットを外したカメラに合わせ、レンズ窓とIR窓を分けた筐体に収め、PIRで点灯させる」— 4変数と現場の注意点から、ここまで具体的に落ちました。

まとめ

暗視は「IRを足す」ではなく「距離・画角・感度から光を設計する」ものです。波長で見え方と感度を選び、距離から逆二乗則で光量を見積もり、画角に照射角を合わせ、カメラのIR感度と点灯制御をペアで決める。

前回の「照度という要件を見極める」と、今回の「その照度に応える暗視を設計する」を続けて押さえれば、夜間カメラは、買った後でも自分で構成を見直せます。「IR付きだから大丈夫」の前に、この4つ。夜のカメラで迷ったら、ここから始めてみてください。

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