ドミ&JD・ベックが語る脅威の新境地──超絶テク、300時間もの録音、偏執的エディットが生み出した「自由で型破りな音楽」【DOMi & JD BECK】

ドミ&JD・ベック

超絶テクニックと既成概念にとらわれない感性で、一気に世界の注目を集めたドミ&JD・ベック(DOMi & JD BECK)。YouTubeやInstagramで公開した演奏動画をきっかけに頭角を現した彼らは、SNS時代ならではの広がり方でシーンに登場した、新しいタイプのミュージシャンだ。

その後の活躍は目覚ましかった。シルク・ソニック(ブルーノ・マーズ+アンダーソン・パーク)の「Skate」のソングライティングに加え、BTSのRMによるアルバム『Right Place, Wrong Person』にも参加。さらにアリアナ・グランデやサンダーキャットとの共演など、ジャンルを超えて存在感を発揮してきた。

2022年にはデビュー・アルバム『NOT TiGHT』を発表。プロデュースはアンダーソン・パークが手がけ、ハービー・ハンコック、サンダーキャット、カート・ローゼンウィンケル、マック・デマルコ、バスタ・ライムス、スヌープ・ドッグら豪華ゲストが参加した。作品は大きな話題となり、第65回グラミー賞では最優秀新人賞と最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムの2部門にノミネートされるなど、大きな成功を収めた。誰がどう見ても順風満帆なキャリアを歩んでいるように見えた。

しかし、デビュー作以降、彼らの活動は少しずつ様子が変わっていく。ライブは行っているものの、SNSの更新は激減し、以前のような派手な露出もほとんどなくなった。そんな中で突如発表された2ndアルバム『WHO ASKED?』は、これまでのイメージを覆す内容となった。フィーチャリング・ゲストはゼロ。木管、金管、弦楽器を取り入れたオーケストラ的なアプローチを打ち出し、ほぼ全曲で自分たちのボーカルをフィーチャーしている。

ところが、実際にアルバムを聴くと、その印象はさらに覆される。オーケストラを大胆に取り入れながらも、鳴っている音はどこを切り取ってもドミ&JD・ベックそのもの。前作の延長線上にある自由奔放なサウンドを保ちながら、作曲やオーケストレーションは飛躍的な進化を遂げ、音楽家としてのスケールはひと回りもふた回りも大きくなっている。前作を超えたと言っても過言ではない仕上がりだった。

今回のインタビューでは、その新たなサウンドの背景を探るために、オーケストレーションや作編曲、制作プロセスについてじっくり話を聞いた。返ってきたのは、やはりドミ&JD・ベックらしい、予想の斜め上を行く自由で型破りな答えだった。

※ドミ&JD・ベック来日公演が12月に開催決定、詳細は記事末尾にて


『WHO ASKED?』ライブ演奏メドレー

音符を書くまで楽器に触らない

―まず最初に、新作『WHO ASKED?』のコンセプトについて教えてください。

JD・ベック:コンセプトか。わかんない(笑)。でも、僕たちにとっては、このアルバムが初めての作品のような感覚なんだ。実際に何かを作り始めたり、曲を書いたりする前から、頭の中で完全に完成形が見えていた作品だったから。もちろん、サウンド面で細かいところまで決まっていたわけじゃないけど、自分たちが何をやりたいのか、自分たちとして何を成し遂げたいのか、自分たちのサウンドを見つけたいという思いははっきりしていた。最初のアルバムを作ってから受けた新しい影響や、その間に知った新しい音楽もたくさんあったしね。

だから、「これがコンセプトです」と言えるようなものが最初からあったわけではないんだ。ただ、できる限り自分たちらしくあろうとした作品だった。

―今作ではフルートやクラリネットなど、木管楽器をたくさん使っていますよね。そうした楽器を取り入れようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

ドミ:アルバムのすべての音符はSibelius(シベリウス)という楽譜作成ソフトを使って書いている。自分たちに課したルールがあって、アルバムの全音符を書き終えるまでは、一切楽器に触らないって決めていた。だから、曲が全部完成したあとで、自分たちでその曲を演奏できるように練習することになったんだ。

―へー。

ドミ:Sibeliusでは思いついた楽器を何でも追加できるから、最初の曲を書いている時点で、すでにフルートやクラリネット、パイプオルガン、それからチェレスタも入っていた。想像力の赴くままに書いていったの。そのまま作業を続けていくうちに、フルオーケストラの曲もあれば、少人数編成の曲も自然にできあがっていった。

JD・ベック:特に木管楽器を多く使ったのは、僕たちが楽器も使わず、自分たちの歌も入れずに作曲していたからなんだ。木管楽器がボーカルの役割を果たしてくれるような感覚があった。息づかいや音の動き方が、人の声に一番近い気がしたんだよね。だから、本当に自然な流れだった。それで長い間、その木管楽器入りのアレンジを聴いていたら、「このメロディは自分たちでも歌ったほうがいいよね」って思うようになった。

そもそも僕らは木管楽器が大好きなんだ。お気に入りの音楽にも木管楽器はたくさん入っているし、僕が好きなキーボードの音色も、フルートのサンプルみたいなものが多い。そういう音がすごく好きなんだよね。

―2023年にはメトロポール・オーケストラと共演されましたよね。その時はお二人が作曲、編曲、オーケストレーションを担当していました。その経験は、今回のアルバムにおけるオーケストラ・アレンジにも影響を与えたのでしょうか。

ドミ:もちろん! あの経験こそが、私たちがオーケストラのために書くようになったきっかけ。メトロポール・オーケストラからツアーの話をもらった時、最初のアルバムを自分たちでオーケストレーションしたいと思った。本当に自分たちでやりたかったから。

実際にオーケストレーションやリアレンジを進めていく中で、音色やテクスチャーの選び方によって、とてつもなく大きな色彩のパレットが手に入ることに気づいた。作曲面でも、サウンド面でも可能性が一気に広がった。だから最初のアルバムをオーケストレーションし終えた時には、「次からはこのやり方で書かなきゃいけない」と思った。



JD・ベック:そう。一度あのやり方を経験してしまうと、元には戻れなかった。それまでは二人だけでできることの範囲でずっと作ってきた。その制約の中でできる限りのことはやったし、最大限のものを引き出せたと思う。でも他の楽器を加え始めた瞬間、「これは音楽にとって本当に必要なものだ」と感じたんだ。ライブで再現できるかどうかを基準に、自分たちの音楽を制限したくはない。作品として作ることと、ライブでどう演奏するかは完全に別だと考えたかった。

ドミ:それに加えて、ストラヴィンスキーをものすごく聴き込むようになった。ラヴェル、ドビュッシー、スクリャービン、アルバン・ベルク。それからビョークもね。『NOT TiGHT』が出る頃、2022年の半ばくらいから、そのあたりを一気に掘り下げて聴くようになった。

JD・ベック:それらの音楽に出会って、本当に頭の中が変わった。それまで洞窟の中にいたみたいな気分だったんだ。耳が一気に開かれたような感覚だった。それからオウテカもそう。あのエレクトロニック・グルーヴは僕たちにとってアイドルみたいな存在なんだ。

ドミ:あとはデス・グリップスもね。


音楽系YouTuberリック・ベアトのインタビューで、二人はビョーク『Utopia』の影響を語っている


デス・グリップスのザック・ヒルは、『WHO ASKED?』でサウンドデザインを担当

Translated by Kyoko Maruyama

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