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1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、多摩美術大学芸術人類学研究所所長。思想家。著書に『チベットのモーツァルト』(サ ントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)、『フィロソフィア・ヤポニカ』(伊藤整文学賞)など多数ある(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『カイエ・ソバージュ』(ISBN-10:4062159104)が刊行された当時に掲載されていたものです)

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読まなきゃ損です。宗教・神話・民俗学といった分野のアカデミックな本ですが、講義録形式でそんなに読みにくいわけではないし。とはいえ愛と経済のロゴスの巻は、難しくて何言っているかわからないところが多かったですが・・・。癒されます。視野が広くなるというか、懐が広くなるというか。そんな気になります。本がかなり厚いんですが、僕は通勤電車で読みましたが大変なので普通の人にはおすすめしません。愛蔵版ですね。
第一部の、特にシンデレラを論じた部分には肯かされ読み進めたが、第二部でつまずいた。かつて人間と動物の間に対称的な関係が成り立っていたのなら、著者は熊に比べシャチをなぜ差別するのか? シャチは技術に取り込まれる危険を示すというなら、熊だって逆の意味での恣意的寓話にすぎなくなる。対称性世界を掲げるなら、動物同士にも(価値付けされた序列ではなく)対称的関係がなければ片手落ちだ。著者は熊がお気に入りゆえ、こんな論理の初歩的綻びに気づかないのだろうか?
著者は現代数学も多分気に入っている。話題が幾つか出てくる。神話的な思考に見られるとレヴィ=ストロースが抑制的に述べる『二項操作』を、著者は神話の一番基本な原理とまで言い切る。レヴィ=ストロースが引用され、当然のことのように著者に主張されると、読者は疑問を抱かず素通りする。で、この二項操作が現代のコンピュータを作動させている原理と同じと述べられ、「科学の思考と神話の思考とのあいだには、どうやら根本的な違いなど存在しないようなのです。どちらの思考も+と−との組み合わせからなる二項操作を駆使して、自分たちを取り囲んでいる世界を理解しようとしている」と論理が飛翔する。だが、確かなのは二項操作が神話的な思考のある部分に見られることだけだ。また、二項操作はコンピュータの作動原理ではあるが、コンピュータの(ましてや科学の)思考原理などではない。だから、たったこれだけから著者のように科学と神話の思考の根本的同質性を言えるはずはない。
著者は『超準解析』を取り上げる。名称自体が魅惑的だし、そこで示される『無限小』を数として含めた『超実数』という新概念にも飛びつきたいかもしれない。純粋贈与を組み込んだ新たな経済学のために、原初的抑圧の働きをする実数ではなく、この超実数の体系が必要と著者はいい、これに度外れな意味を持たせて「無限小はまるで精霊や天使のような数」、「ユニコーンのような、天使のような、超薄で、超細密で、極小な、無限小の概念」と記す。この乱発された修飾語(それは数学が遠ざけてきたものだ)に読者が幻惑されなければ、アナロジー自体が成立するのか分からないし、冷静に考えればかなり奇怪な論理だ。また、著者が贈与の場面で実際に記すのは、単に多次元的に表示した数で贈与関係を表すことにすぎず、超実数を持ち出す必要などない。
三カ所の疑問を挙げてみた。本書には神話、宗教、人類学、経済学、心理学等から多くの博識が示され、著者の主張の裏付けとされる。が、上に記したような欠陥があちこちにあるように思える。真に鋭い指摘も散在するが、ダイヤとゴミ(ダイヤもどき)からまっとうなものの選り分けはかなりの手間で、残念なことである。