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本書が取り組む問いは極めてシンプルである。
「なぜアメリカ大陸、オーストラリア、ニュージーランドといった地域には、ヨーロッパ人がマジョリティとして定住することに成功したか」
これに対して本書は「生態学的な移植」が行われたことにそのカギを見出している。
本書の前半はしかし、入植以前の時代が取り扱われている。
十字軍でなぜアラブ圏への定住は失敗したか(在来の諸生物は現地のアラブ人の味方だった)、なぜノルマン人によるグリーンランドやヴィンランド入植はうまくいかなかったか(気候が違いすぎた)、といった「失敗の歴史」をまず概観する。
そして、アメリカ大陸やオーストラリアへの入植の先行実験の役割を果たしたのがカナリア諸島であり、ここへはヨーロッパ原産の生物を一緒に持ち込み、そして現地の人々をほぼ絶滅させる勢いでヨーロッパ人は入植した。
間に挟まっている航海の話が意外と面白い。
風の向きを知らない時代の、経験をもとにした航海が、どのように確立されたものになっていくか、というのは、偏西風や貿易風を当たり前に知っている現在の視点からすると非常に興味深い。
一見遠回りに見えるルートが風に乗っていて最も素早く航海できるというのは、確かに難しいし、「喜望峰周りならアフリカ大陸沿いに行けばいいじゃないか」というのは今でも錯覚しやすそうである。
後半では、入植者が引き連れていた雑草、家畜、疫病の三つにフォーカスを当てる。
入植に成功した地域は、温帯でヨーロッパの気候に似ているか肥沃な大地であり、現地動植物の空白にこれらがうまく割り込み他を圧倒した。
なんといっても疫病の猛威は恐るべきであり、罹患者の半数が死亡などという恐ろしい事態を処女地ではもたらしていった。
現地の人間がいなくなることは、動植物のヨーロッパ化にさらに役立った。
こうした記録がきれいに残っている例として、最後の部分でニュージーランドの歴史が触れられている。
本書は1493――世界を変えた大陸間の「交換」で強調されていたので、コロンブス以降の(動植物含む)グローバリゼーション的な動きとコロンブス交換が主眼の本かと思っていたが、1000年間の白人の入植・定住がメインテーマの本であり、上記マン書とは趣向が割と異なると感じた。
また「帝国主義」と出てきているのでアフリカやアジアの植民地支配を思い浮かべる人も多そうだが、こうした地域は「ついに入植に失敗した熱帯地域」の扱いで、本書では主対象とはされていない。
本書はグローバル・ヒストリーの先駆的著作であり、初版は1986年だがある意味で「現代の古典」と呼べるべき位置を占めていく本だと思う。
いささか古さや読みにくさはあるものの、こうした生態学的な視点を持ち込んだことはやはり高く評価されてしかるべき本だと思う。
領土を侵略される前兆として、細菌やウイルスが先遣隊のように猛威を振るったという過去の大航海時代が描かれる本書は、現在の中国から広がった新型コロナウイルスが変異を繰り返して、とどまることを知らない底知れぬ怖さを想起させる。
1998年翻訳本の文庫化である。原著第一版刊行は1984年で、”銃・病原菌・鉄”よりもずいぶん前に既にこのような著作が出版されていたのだ。著者の問題関心は、なぜ、ヨーロッパの植民は南北アメリカ、オーストラリアでは大規模に成功したのか、にある。アジアではインドなどで、拠点都市を押さえる事で植民地化したが、最終的には前からの住民が独立を取り戻した。それに対して、前記のネオ・ヨーロッパと著者が言う地域では、新世界人はその人口を大幅に減らし先住民として細々と暮らしている。アメリカはインディオの国ではないし、オーストラリアはアボリジニ、ニュージーランドはマオリの国ではない。
ヨーロッパ人の最初の植民はノルマン人のアイスランドやグリーンランドへのものだったが、結果的にはうまく行かなかった。気候が寒冷すぎたのだ。十字軍のエルサレム占領も長くは続かなかった。イスラム文明を持つ大量の人口に囲まれては持続できなかった。次の試みは、スペインやポルトガル人によるアフリカ大陸近くのカナリア諸島やアゾレス諸島に対するアタックで、結果的には成功した。気候がヨーロッパ人向きだったのだ。もうひとつの大きな理由は、先住民が植民者の持ち込んだ病原菌による病気で絶滅した事と、家畜の持ち込みで生態系がヨーロッパのものに変えられたからだ。これは、次の成功である南北アメリカなどでの事態と基本的には同じだった。もちろん彼らにとっての成功は、先住民にとっての敗北である。ただ、アメリカに行くには航海術の進歩が必要だった。当時の帆船でアメリカへ往復するためには、貿易風と偏西風という違う緯度帯で吹く風を利用するというイノベーションが必要だった。この辺りの叙述は非常に面白かった。
なぜ新世界住民は、ヨーロッパ人の持つ病原菌にひとたまりもなかったのか?それは、端的にいえば、新世界には馬や牛・豚などの家畜がおらず、多くの人畜共通感染症に対する免疫がなかったからだ。またなぜ、新世界の生態系はヨーロッパ人の持ち込んだ生態系の侵入に対して脆弱だったのか。著者の答えは、旧世界ではいわゆる新石器革命での農耕、家畜の利用に伴う病気に対して人間は適応しながら(実際はもっと大変つらい出来事だったのだが)暮らして来たが、新世界には少数の人間がベーリング海峡を渡って来たから、そのような病気は振り捨ててしまったのだ(旧世界の家畜や植生も持ち込まなかった)。その上、新世界の大型獣を狩猟で絶滅させてしまったから、その生態的ニッチを埋めた生物は大した競争をへておらず、人間ともどもヨーロッパの家畜や植生の侵入に対して抵抗力が低かったからだという。
細かい点で同意できないと思われる所はありつつも、大枠では古い著作でありながら、その着眼点は十分学ぶに値する。大部の著作なので、具体的細部の量が多く、そこもまた読みどころである。