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批判の時代:開発の病理

The Age of Criticism: The Pathology of Development

Anti-cholera Inocution in Caltutta in March 1894

Anti-cholera Inocution in Caltutta in March 1894, Simpson, W. J. (William John), Sir, 1855-1931.

池田光穂

4.  批判の時代:The Age of Criticism

4.2  開発の病理:The Pathology of Development

1950年代は東西両陣営が援助競 争をした時代でもあった。低開発地域の人びとは開発国がいう近代化の夢に酔った。しかし10年もたたな いうちに経済開発の“副作用”は次第に深刻さを増していた。開発が試みられたところで生態系の撹乱やライフスタイルの変化がおこり新しい流行病、すなわち 「開発原病」(developo-genic disease, disease of development)が生じた。

アフリカでは1958年のカリバ・ダム(中央アフリカ)を皮切りに、ボルタ(ガーナ)、アスワン・ハイ、ナセル・ハイ(ともにエジプ ト)、カインジ(ナイジェリア)などの大型ダムが建設され、ダムは開発のシンボルになった。しかし、これらのダム建設に伴いビルハルツ住血吸虫の中間宿主 の巻貝が繁殖し流域住民に住血吸虫症が大流行した(Miller 1973:15)。ビルハルツ住血吸虫症は寄生虫病のなかで最も早い速度で広がったもののひとつである。エジプトでは、アスワン・ハイとナセル・ハイの2 つのダム建設によってまずナイル河上流域に住血吸虫症が広がり、やがて下流のナイルデルタに広がり短期間で流行の波は地中海沿岸にまで到達した。これらの 規模のダム建設では、約5万人規模の流域住民の移住が伴うが、それにより移住先における新環境への不適応や援助依存の問題など深刻な社会問題が引き起こさ れた(Scudder 1973)。

他方、道路開発による人びとの移動が促進されることで地方病が流行病に変化することもある。トリパノソーマ感染症(睡眠病)を媒介する ツェツェバエは湿地や川に繁殖する。経済開発のインフラ整備のために新しい道路が開通して人の往来が激しくなった。西アフリカではバスや車で長距離を移動 する人たちが休憩のために、感染地域の川の近くで涼をとった。そのためにツェツェバエの吸血行動が変化し旅行者を刺したり、ハエが長距離を移動したため に、睡眠病は道路に沿いながら広い地域の流行病となった(Hughes and Hunter 1970)。南インドでは、森林伐採の後の陽当たりがよくなった跡に繁殖するダニがリケッチアを媒介し熱病が流行した。このような新種の流行病はその病気 の同定や感染経路の発見が容易には解明されないので、そのあいだ現地の人びとにさまざまな文化的な憶測や社会的混乱がおこることが指摘されている。

開発の犠牲は低開発国住民に限られない。“中進国”といわれるブラジルでは1960年代から70年代にかけて「ブラジルの奇跡」と呼ばれ た高度経済成長期に、経済成長とともに幼児死亡率もまた増加した。低賃金と集約労働が労働時間の延長を促し、国民の消費水準が下がり子供に対する栄養物の 消費も抑制されたためである。経済景気は富の再配分を促し貧富の格差が開き、政府は経済開発への投資のために保健予算を削減した。結果的に社会的弱者であ る低所得者層の乳幼児が犠牲になったというわけである(Navarro 1984)。コロンビアのカウカ谷周辺において米国開発局、多国籍企業、世銀などが関与した大規模な商品作物開発プロジェクトによって、伝統的なものから 近代化した農法に転換した農民たちの子供たちの栄養条件が悪化し、およそ半数以上の子どもたちが栄養失調に陥ったという分析もある(Taussig 1978)。この地域は周辺の地域に比べて肥沃で生産性の高い地域なのであるが、農業条件の産業化が必ずしも現地の人たちの衛生条件の改善に結びつかない ことを示している。また経済開発だけなく医療や栄養改善のプロジェクトそのものが現地では思わぬことに転用されることもある。例えば栄養改善のために導入 された外来種のトウモロコシが、食事の改善ではなく現地で消費されるアルコール製造に使われた(Kelly 1959:9-10)。

このような現象は開発の矛盾であったり、開発とトレードオフの関係にあるのだろうか。矛盾であると分析する健康の政治経済学派の医療人類 学者ならば、それに代替する経済システムをもって問題の解決を模索したであろう。また、開発とのトレードオフとみる技術官僚ならば、開発立案のなかで予想 される新種の開発原病を疫学的に防除する計画を組み込むことを解決への糸口とみるかも知れない。しかしながら、これらの発想に欠けているものは「開発され る側」の当事者がどのように外部世界に組み込まれてしまっているかということなのである(Nicher 1987)。




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★ クレジット:「健康の開発」史——医療援助と応用人類 学、文学部論叢(地域科学編),第49号,pp.41-72, 熊本大学文学会,1996年2月

リ ンク

引用参考文献

クレジット:「健康の開発」史——医療援 助と応用人類 学、文学部論叢(地域科学編),第49号,pp.41-72, 熊本大学文学会,1996年2月

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