腎盤
| 腎盤/腎盂 | |
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腎臓の断面図。主要な構造に英名を付けている。画像中央に腎盤があり、腎杯へ集められた尿がさらに集まる。 | |
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腎臓の大部分を除去し、腎盤および腎杯のみにしたもの。左はウシ(Cow)の、右はアザラシ(Seal)の標本を参考にした図である。種によって大きさ・数ともにかなり異なっている。 | |
| 概要 | |
| 由来 | 尿管芽 |
| 器官 | 泌尿器系 |
| 表記・識別 | |
| 英語 | renal pelvis |
| ラテン語 | pelvis renalis |
| MeSH | D007682 |
| グレイ解剖学 | p.1221 |
| TA | A08.1.05.001 |
| FMA | 15575 |
| 解剖学用語 | |
腎盤(じんばん、英語: renal pelvis、ラテン語: pelvis renalis)または腎盂(じんう)は腎臓にある解剖学的構造の一つである。腎実質を取り囲む腎洞の部分にある。腎臓から出た尿はまず腎杯へ送られるが、この腎杯が集合して腎盤を形成し、腎盤から尿管へ尿が送り出される。臨床的にはがんや炎症、結石の発生部位として重要であり、結石による腎盂・尿管の閉塞と炎症の併発は致死性の敗血症性ショックにもつながりうる。
日本解剖学会においては当用語を腎盤または腎盂[1]、日本泌尿器科学会においては腎盂[2]として用語集に掲載している。これらに倣って、以下では解剖学に関する記述においては腎盤を、臨床医学に関する記述においては腎盂を用いる。
解剖・組織・発生
[編集]腎臓は栄養および老廃物還流のための動静脈と尿を出すための尿管が同様の位置から出入りしており、ここを腎門という[3]。腎門に存在する腎臓がくぼんだ部分を腎洞といい、ここに腎盤がある[3]。腎門においては前方から腎静脈、腎動脈、腎盤および尿管の順番で並んでいる[4]。腎盤は10個程度の腎杯が集まったもので、腎杯で受けた尿を更に集める役割を担っている[5]。腎盤と尿管が移行する部分は腎盂尿管移行部(ureteropelvic junction、UPJ)と呼ばれ、尿管の三つの生理的狭窄部位の一つである[6]。
腎盤は腎杯、尿管、膀胱などと同様に尿路上皮(組織分類的には移行上皮)に覆われている[6]。尿管と組織学的に異なる点としては、尿管では3-10層で構成される移行上皮が薄いこと、尿管では尿を膀胱へ送るために重要な平滑筋が比較的発達していないことが挙げられる[7]。
腎盤は腎臓の一部と認識されることもあるが発生学的には尿管と同様であり、尿管芽を由来とする[注釈 1][6]。それを示唆するものとして先天異常である重複腎盂尿管がある。重複腎盂尿管では早期に尿管芽が分裂して2つになることで結果として腎盂・尿管も2つになる先天異常である[9]。尿管芽は将来の腎実質を形成する後腎芽組織に接近すると先端の分枝が起こる。この初めて分枝したところは膨大部となり、ここが腎盤になる[10]。尿管芽と後腎芽組織の接近のためには相互誘導作用が必要なことが明らかになっている[11]。
臨床上の関連
[編集]腎盂・尿管がん
[編集]腎盤(腎盂)は腎盂・尿管がんの発生母地となる。腎盂にできるがんは同じ腎臓内ではあるものの腎実質からできる腎細胞癌とは異なり、どちらかというと尿路上皮である膀胱癌に近い[12]。一方でまれに扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌、未分化癌のような尿路上皮癌以外の癌も起こり得る[13]。喫煙が発症リスクになることが知られており、喫煙者は非喫煙者よりも3倍腎盂・尿管がんになりやすいと報告されている[12]。症状として尿路障害による血尿や側腹部痛がよく認められる[14]。治療は転移がなければ腎臓も尿管[注釈 2]も取り去る腎尿管全摘術が外科的に行われる[14]。しかし、腎臓を摘出すると慢性腎臓病に伴う腎機能の悪化のような摘出に伴う合併症を起こしうるため、低リスク症例では尿管鏡で内腔から腫瘍のみを切除する腎温存手術が行われることがある[15]。
尿路結石
[編集]尿路結石は腎盂に起こることもあり、腎杯や尿管に生じる尿路結石と総じて上部尿路結石と呼ばれる[16]。非常に激しい疼痛を引き起こし、更に尿路結石が原因で下記の腎盂腎炎という尿路感染症を引き起こす場合もある[16]。
尿路結石の中でも腎盂と腎杯で結石が連続し、摘出した結石がサンゴのように見えるものをサンゴ状結石(または鋳型結石[17])と呼ぶ[18]。
腎盂腎炎
[編集]腎盂は腎盂腎炎と呼ばれる尿路感染症の発生部位となる[19]。多くは逆行性感染(膀胱など尿路の出口側から感染が進む)であり、発熱を伴う[19]。発熱のほかにも倦怠感や悪心・嘔吐のような消化器症状を引き起こし、原因となる細菌は主に大腸菌である[19]。
尿路結石によって尿管が閉塞して起こる腎盂腎炎は特に閉塞性腎盂腎炎と呼ばれる[20]。腎盂内圧の上昇により腎静脈を経て血液中を細菌がめぐり、敗血症やそれを原因としてショック症状を起こす敗血症性ショックの原因となる[19]。
水腎症
[編集]腎臓で生成された尿が何らかの原因で腎盂や腎杯に滞留する状態を水腎症という[21]。水腎症においては腎盂の拡張が原因で腎被膜が引き延ばされることでその位置に対応する肋骨脊柱角(背中の肋骨と背骨と間の部分)の疼痛を訴える[22]。
水腎症の治療の一つに尿管ステントの留置がある。これは膀胱から腎盂にかけて留置するもので、末端の膀胱側・腎盂側で丸めておくことで器具が脱出せずに尿流を保つことができる[23]。場合によっては尿管ステントではなく皮膚から腎臓へ向けて針を刺し、腎盂から直接溜まった液体を抜く方法がとられることがある。これを(経皮的)腎瘻造設術という[18]。経皮的なカテーテル留置による出血やQOLの低下といった欠点はあるものの、重症度や死亡率の低下が実証されている[24]。
その他
[編集]腎盂が尿管に移行する部分は正常でも尿管の三大狭窄部位の一つである[25]が、これが何らかの原因により更に狭くなることがある。このような病態を腎盂尿管移行部通過障害という[注釈 3][27]。通過障害が起こると尿路結石が生成されやすく、結石を単に除去するだけでは姑息的なので腎盂形成術により治療を行う[28]。
動物による違い
[編集]腎臓は動物によって異なる様相をしており、そもそも発生の由来が魚類や両生類では中腎[29]、有羊膜類(爬虫類・鳥類・哺乳類)では後腎であるという違いがある[30]。そして有羊膜類の中でも爬虫類や鳥類では腎臓を構成する多くの小葉構造に対してそれぞれ尿管が枝を伸ばしており、腎盤と呼べる構造を持たない[31]。これが哺乳類では尿管の腎臓へ入り込む所が1か所大きく膨大部を形成して腎盤と呼ばれている[31]。なお、哺乳類においてもウシやクジラのように見た目では腎臓が葉で分かれているように見える場合もあるが、集合管は最終的には腎盤に集まる[31]。
語源
[編集]近世で解剖学が発展すると解剖学者により腎盤を表す用語も作られるようになった。当初はlacunae(小腔)、sinus(洞)など用語が統一されていなかったが、エウスタキウスが著書"Tractatio de renibus"で初めてpelvisを腎盤に対して使って以降、広く使われるようになった[32]。このpelvisとはたらいや水盤を意味するラテン語であり、ギリシア語ではpyelosに相当する[32]。国際的に正式な解剖学用語として認められたのは初めて国際解剖学用語として定められた1895年出版のB.N.A.(Basle Nomina Anatomica)のときで、それ以来renal pelvis(ラテン語: pelvis renalis)として用いられている[32]。ギリシア語のpyelosも腎盂炎を意味するpyelitisの形では現在まで残っている[32]。
日本語で初めて腎盤・腎盂に相当する構造が記述されたのは杉田玄白・前野良沢らの解体新書であり、その際は白建(ペツケン)と訳されていた[33]。その後、宇田川玄真が新たに腎盂としたのが現代でも使われる用語の始まりである[33]。腎盤という用語は1960年に一部改訂されたP.N.A.(Paris Nomina Anatomica)に対応して定められた昭和37年(1962年)の日本学名で生まれたもので、同様にpelvisの語が使われる骨盤に合わせて腎盤とも呼ぶようになった[34]。
ギャラリー
[編集]- 腎盤の発生過程を描いたもの。
- ヒトの腎臓の解剖断面図。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ↑ 解剖学用語委員会『解剖学用語』(改訂13版)日本解剖学会、2007年3月1日、113頁。ISBN 978-4-260-00073-4。
- ↑ “泌尿器科用語集 renal_pevis”. 日本泌尿器科学会. 2026年5月15日閲覧。
- 1 2 岩永ら 2022, p. 190.
- ↑ 小川鼎三、山田英智、養老孟司『分担解剖学 第11版 第3巻』金原出版株式会社、1982年2月20日、285-287頁。ISBN 978-4-307-00343-8。
- ↑ 岩永ら 2022, pp. 190–191.
- 1 2 3 並木ら 2021, p. 16.
- ↑ 岩永ら 2022, pp. 215–216.
- ↑ 仲村ら 2013, p. 409.
- ↑ 並木ら 2021, p. 118.
- ↑ 仲村ら 2013, p. 411.
- ↑ Moore, Keith L.; Persaud, T. V. N.; Torchia, Mark G. 大谷浩訳 (2022-03-25). The Developing Human Clinically Oriented Embryology 11th edition [ムーア人体発生学 原著大第11版]. 医歯薬出版株式会社. p. 223. ISBN 978-4-263-73201-4
- 1 2 日本泌尿器科学会 2023, p. 50.
- ↑ 並木ら 2021, p. 218.
- 1 2 日本泌尿器科学会 2023, p. 58.
- ↑ 日本泌尿器科学会 2023, pp. 77, 83.
- 1 2 日本泌尿器科学会ら 2023, p. 22.
- ↑ 並木ら 2021, p. 196.
- 1 2 日本泌尿器科学会ら 2023, p. 16.
- 1 2 3 4 日本泌尿器科学会ら 2023, p. 82.
- ↑ 日本泌尿器科学会ら 2023, p. 18.
- ↑ “水腎症”. 島根大学医学部泌尿器科学講座. 2026年5月15日閲覧。
- ↑ 並木ら 2021, p. 41.
- ↑ 並木ら 2021, p. 58.
- ↑ 日本泌尿器科学会ら 2023, pp. 62–63.
- ↑ 坂井建雄『標準解剖学』(第1版)医学書院、2017年3月、145頁。ISBN 978-4-260-02473-0。
- ↑ 日本泌尿器科学会ら 2023, p. 47.
- ↑ “腎盂尿管移行部通過障害(腎盂尿管移行部狭窄症)”. 筑波大学附属病院 腎泌尿器外科診療グループ (2025年2月25日). 2026年5月5日閲覧。
- ↑ 日本泌尿器科学会ら 2023, p. 146.
- ↑ 阿形ら 2025, p. 939.
- ↑ 阿形ら 2025, p. 694.
- 1 2 3 平光 1983, p. 339.
- 1 2 3 4 Simon, František (2013). “History of the term "pelvis renalis"” (pdf). Journal of Nephrology 26(Sup.22): 156-158. doi:10.5301/jn.5000366. PMID 24375361.
- 1 2 井上清恒 (1972). “宇田川榛斎の「医範提綱」攷” (pdf). 昭和医学会雑誌 32 (6): 271-277. doi:10.14930/jsma1939.32.271.
- ↑ 日本解剖学会 (1987-09-30). 解剖学用語 (改訂12版 ed.). 丸善株式会社. pp. x-xii,103. ISBN 4-621-03200-3
参考文献
[編集]- Romer, Alfred Sherwood; Parsons, Thomas S. 平光厲司訳 (1983-08-05), The Vertebrate Body fifth edition [脊椎動物のからだ<その比較解剖学> 第5版], 法政大学出版局
- Schoenwolf, Gary C.; Bleyl, Steven B.; Brauer, Philip R.; Francis-West, Philippa H. 仲村春和、大谷浩訳 (2013-05-11), Larsen's Human Embryology 4e [カラー版 ラーセン人体発生学 第4版], 西村書店, ISBN 978-4-89013-431-1
- 並木幹夫 監修、市川智彦・久米春喜 編集『標準泌尿器科学』(第10版)医学書院株式会社、2021年3月15日。ISBN 978-4-260-04353-3。
- 岩永敏彦、渡辺剛『標準組織学 各論』(第6版)医学書院株式会社、2022年3月15日。ISBN 978-4-260-64132-6。
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- 日本泌尿器科学会、日本尿路結石症学会、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会『尿路結石症診療ガイドライン』(第3版(2023年版))医学図書出版株式会社、2023年8月30日。ISBN 978-4-86517-543-1。
- Barresi, Michael J. F.; Gilbert, Scott F. 阿形清和、高橋淑子訳 (2025-03-25), Developmental Biology Thirteenth edition [ギルバート発生生物学 第2版], メディカル・サイエンス・インターナショナル, ISBN 978-4-8157-3126-7