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芸人ごっこ    第6話 (創作大賞エンタメ原作部門)

授業の際、ネタの発表の枠を確保するために、教室のホワイトボードに名前を書こうとした時に、今さらながら、我々は正式なコンビ名を決めてないことに気がついた。

今まではネタの授業で発表することもなかったし、コント演技の授業は1人、1人だったから、コンビ名が必要になる場面がなかった。

1回の授業でネタの発表ができるのは、20組くらいだったので、とりあえず仮でも何でも良いからコンビ名をホワイトボードに書かないと枠が埋まってしまう。

私はとりあえずホワイトボードに 馬選抜 という名前を書いた。

なんにも意味がない、ただネタ発表の枠を確保するためだけに書いた名前だったが、咄嗟で出たにしてはいい名前だと思っていた。

「次、馬選抜」

我々は講師の横に座っている助手みたいな若手作家に名前を呼ばれてネタを発表した。

コント演技の授業で何度も人前で演技をしていたはずなのに、私は今まで経験したことがないくらい緊張していた。

今までは講師が考えた基本の台本や、誰かが考えた自由演技の台本を演じていただけだったから、ウケようがスベろうが他人事だったが、イチから全て作ったこの台本がスベったら、自分が否定されることになるし、せっかく取り戻した細井の尊敬も失うことになる。

そんなことをネタ発表前に考えてしまって、極度の緊張がおそってきた私は、ギリギリセリフは飛ばなかったが、演技中に不自然に手が震えてしまっていた。

ネタ自体は、もともと明確なボケとツッコミで笑いどころを提示していくネタではなかったので、爆笑が起こることはなかったが、終始クスクスとした笑いと最後のオチで大きめな笑いが起こった。

その日の講師である有名な演出家の萩谷さんに

「君たち、今までどこにいたの?ネタは立本エージェンシーには珍しいタイプのネタですが、よかったです。ただ、彼氏役の子はなんとか空気感をだそうという演技ができていたけど、彼女役の子の方の演技が中途半端だったから、そこを詰めていったほうが良い」

と言われた。

完全に言われた通りだった。  

極度に緊張をしていた私に対して、ネタを考えてない、どこか他人事の細井はきっちりと私が要求した抑揚ない演技をこなしていた。

萩谷さんは講評の途中で

「ネタはどっちが考えてる?」

と聞いてきたので、私は

「はい、僕です」

と手をあげながら言った。

萩谷さんは

「君の方なんだ。今、立本ではこのタイプのネタやる芸人少ないから、突き詰めていったら面白くなると思うよ」

と言った。

あの萩谷さんに褒められた。

絶賛というわけではなかったけど、今までずっとネタの授業を見てきた中で、萩谷さんが褒めているのはあまり見たことがなかった。

私は演技のダメ出しをされたことを忘れそうになるほど、台本が褒めらたことに胸が高鳴っていた。

授業が終わると出席していた人間が次々と話かけてきて、ネタや萩谷さんに褒めらたことを称賛してきた。

たった1回、ネタの授業で講師に褒められただけなのに、私は売れっ子芸人にでもなったような達成感を得ていた。

授業が終わってから2人で喫茶店にいくと、細井は

「やっぱり伴くんはすげーな。コント演技もネタも評価されて、さすがだよ」

と言った。  

私は

「まあ、ネタの授業で手応えをつかんだのは良かったよな。お前も演技を褒められていたし、これからこのパターンのネタを書いていくわ」

と言うと、細井は

「俺の演技なんて伴くんに言われた通りやっただけだし、ネタは書けないし、コント演技の授業も1番下だし…」

と言って言葉につまったので、私は

「まあ、コンビだから、片方がまず結果を出して道を作って、その道を一緒にいけばいいんじゃない?」

と言った。

養成所の授業で1回褒められただけなのに、1丁前の芸人になったような言葉をはいた私に細井は

「そうだね」

とだけ言って黙り込んでしまったので、その日はすぐに解散した。

私は家に帰ってからも興奮が収まらなくて、なかなか寝付けなかったので、そのまま新しいネタを考えていた。

アドレナリンがでていたからだろうか。

その日に湧いてきたアイディアは、イスのネタ以上の手応えを感じていた。

朝までにネタを書き上げて、すぐに細井の携帯に連絡をした。

細井、すごいぞ‼ もしかしたら、俺はネタを書く才能があるかもしれない‼

ネタも伝えたかったが、そんな他愛もないことを細井に伝えたくて、朝早くから電話をしたが繋がらなかった。

早く細井に伝えたくて何度も電話したが、養成所の授業の時間になっても繋がらなかった。

その日から細井は電話が繋がらなくなり、せっかく新しく出来た台本も次のネタの授業には間に合わなかった。

細井と連絡がとれなくなってから一週間、留守番電話にメッセージを入れても何も折り返しがなかったので、心配になった私は細井の家を訪ねた。

実家に住んでいた細井の家のインターホンを押すと、母親が出てきて、ちょっと待ってて、と言われたまま15分くらい待たされた。

やっと出てきた細井は暗く、細長い顔をしていた。

家の前で話すのも気まずいので、近くの公園に移動した。 

公園に着いた私が

「どうしたんだ?体調悪かったのか?」

と言うと、細井は

「いや、もうちょっと無理かなって」

と言った。 

私が

「どういうこと?」

と言うと細井は

「いや、もうさ、伴くんに迷惑かけちゃうから無理かなって。俺が思った通り、伴くんはやっぱり面白くて…演技もネタも養成所のトップクラスになっていって…でも、俺は500人いる養成所の中でも1番面白くなくて…」

と言ったので私は

「いやいやいや、お前、お笑い芸人 か 死 か じゃなかったのかよ?たかが養成所でちょっとスタート出遅れたくらいで逃げんのか?俺、就職の内定蹴ってきてんだぞ?」

と言った。 

細井は

「本当にごめん」

と言って走っていってしまった。

それから、そのまま細井は養成所にこなくなった。


つづく

第7話


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