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寿司マン     第1話 (創作大賞2026エンタメ原作部門)

あらすじ


高橋は幼少期より、ある身体的コンプレックスを抱えていて中学生のときにその事が原因でいじめが始まってしまう。
いじめの首謀者、山中の無茶苦茶な理屈で高橋には 寿司マン という蔑みを込めたあだ名がつけられていた。
寿司マン、寿司マンと蔑みを受け続けた上に、担任の先生までいじめに加担したり、生まれて初めての恋心を踏みにじられた高橋は復讐を決意する。
復讐のための人生を歩みだした高橋につきまとう身体的コンプレックスの本当の意味、徐々に明らかになるいじめの首謀者、山中との知り得なかった因縁、そして新たに見つけた恋は真実の愛になり得るのか…


この物語は寿司マンの寿司マンによる寿司マンのための寿司マンである。

______




僕はいじめられています。


原因は何かって? 頭が悪いから?それとも運動神経が悪いから?


いや、そんなんじゃない‼


手が濡れているからだ‼


小さな頃からちょい濡れで、15で手のひら濡れていた。 ナイフみたいに尖っては、触るものみな濡れていた。


僕に対するイジメは突然はじまった。


ある朝、僕が学校にいくと、机の上には菊の花束と遺影に見立てた僕の写真が……


と思いきや、置いてあるのはシュールな絵だった。

その絵は 背中に 

寿司マン

と書いてある全身黄色い男が夕日をバックに砂浜に立っている絵だった。

「なんだよ、これは、いったいなんなんだよ⁉」

と僕が言うと、クラスの中心人物である山中という生徒が

「お前は手が濡れているから寿司を握るのに便利だ‼ だからお前の夢は寿司屋だ‼ いや、いっそ寿司マンだ‼」


と言い放った。

そして、この絵は毎日机に置かれた。 

イジメはさらにエスカレート あんなに信頼していた担任の先生まで…

「はい、みんな、ちょっと目をつむってください。はい、みんな、つむりましたね…今日、このクラスで給食費が盗まれました。先生はこのクラスに犯人がいるとは思っていません。だけど、もしも…もしも、盗んでしまった人がいるならば、正直に…正直に手を濡らしてください」

みんなが一斉に僕を見た。 

慌てて手を拭いている僕に、先生は…あいつはこう言い放ったんだ。


「悪かったですね、濡れ衣でしたか」

 
爆笑…場内爆笑…爆笑につぐ爆笑…そしてスタンディングオベーション…まるでマイケルジャクソン…

もうこんな世界はまっぴらだ。

僕なんて消えてしまおう。

その夜、僕はひとけのない森に入り、ロープを輪っかにして枝にかけ、それを首に通して世の中から消えてしまおうとした瞬間、手が濡れているために滑って上手く輪っかに首をいれられずに落下した。


ロープに手が滑って死ねやしない。

手が濡れていると、こんなことすらできないのか。

その瞬間にそれまでの絶望は激しい怒りに変わっていた。

いつかあいつらに…世の中に復讐してやる。

それから僕は、毎日机に置かれる寿司マンの絵と菊の花束のなかで必死に存在を消し中学校を卒業した。


中学校の卒業式の次の日に家のチャイムが鳴り、母がニヤニヤしながら僕を呼びにきた。

「お客さんよ。中学で同じクラスだった人だって。女の子よ」

女の子? 誰だ?

僕はいじめが始まってからほとんど女の子と話をしてなかったので、家に女の子が訪ねてくる心当たりがなかった。

母の冷やかすような視線を感じながら玄関にいくと、そこには確かに昨日までクラスメイトだった田中さんがいた。

「ど、どうしたの?」

あまりの突然の女子の訪問に僕は声が裏返りながら言った。

「ごめんね、急に家に来ちゃって。高橋くんに話があるって娘がいるんだけど、高橋くんのLINE知らなくて」

と田中さんは言った。

僕が

「話がある人?」

と聞くと田中さんは

「うん、瞳が高橋くんにお話したいことがあって…あっ、その前に、高橋くんって好きな人いたりとか、つきあってる人いたりとかする?」

と言った。

なんだ、これは⁈ どういうことだ⁉ と思いながら

「瞳って 佐藤瞳さん?」

と聞き返すと

「そうだよ、瞳だよ。高橋くん、好きな人いるの?」

と田中さんに言われたので

「いや、いないけど」

と答えた。

毎日毎日、寿司マンと書いた絵を置かれていじめられてた僕は当然、呑気に誰かを好きになる気持ちの余裕などなかった。 まして、そんな僕に彼女などいるはずがなかった。

佐藤瞳さんはクラスの中でも一番人気のある女子で、端正な顔立ちと優しい性格をしていた。

僕もいじめが始まる前までは、たまに会話もしていた。

いじめが始まってからは、ほぼ全員が話しかけてくれなくなったのもあるが、僕の方からも誰にも話しかけないで日々存在感を消して過ごしていたので、彼女と最後に話をしたのも随分前だった。

そんな佐藤さんが僕に話があって、好きな人がいるのか知りたがっている?どういうこと?もしかして僕のこと…

「聞いてる⁉高橋くん⁉ねえ‼」

頭の中をぐるぐると思考が駆け巡っているうちにうわの空になってしまっていた。

「ごめん、なんだっけ?」

と僕が言うと、田中さんは

「だから、瞳が話があるから公園で待ってるんだけど、今から来れる?」

と言った。

今から⁈まじかよ⁈ 

僕は浮かれた心を見透かされないように努めて冷静に

「大丈夫だよ」

と言った。

僕の家から5分くらい歩いたところにある公園のベンチに佐藤さんは座っていた。

佐藤さんは下を向いたまま

「ごめんね、急に呼びだして」

と言った。

照れているのだろうか?全然目をみて話をしてこない。

僕が

「大丈夫だよ どうしたの?」

と言うと、佐藤さんは

「ずっと好きでした。私と付き合ってくれませんか?」

と言った。 

嬉しくて心臓が破裂するんじゃないかと思ったけれど、何で僕なんかを好きになってくれたのだろうか? 

その疑問をそのまま彼女にぶつけてみた。

「なんで僕なんかのことを好きになってくれたの?」

と僕が言うと、佐藤さんは

「小学校の時の家庭科の授業のおにぎり大会覚えてる?」

と言った。

その事はよく覚えていた。

小学校の家庭科の授業の課題で、誰が作るおにぎりが一番おいしいのか競うというイベントがあったときのことだ。

クラスは6つの班に別れていて、各班の代表者が小さい一口サイズのおにぎりを作り、それを皆で食べて誰のおにぎりが一番おいしいかを投票で決めるというものだった。

僕は班の代表でおにぎりを作って、投票の結果、ダントツトップで優勝したのだった。

あのときの僕の手のひらはまだ、ちょい濡れだった。

「ああ、覚えているよ」

と僕が言うと彼女は

「あのときに、皆が適当に鮭フレークやふりかけでおにぎりを作っていたのに、高橋くん、1人だけ、鮭をちゃんと焼いて、皆の喉に骨が刺さらないように真剣に取り除いてる姿をみて、皆が手を抜くような事でも一生懸命にやる人ってすごくカッコいいなって思ったの。おにぎりもすごく美味しかった」

と言って、初めて目を見てくれた。 

今にも泣きそうなまなざしで真剣に伝えてくれて、またすぐに下を向いた。

なんて、可愛いいんだ。 

下を向いて恥じらいながら想いを伝えてくれる姿を見て僕は

「僕でよかったら、是非付き合ってください」

と言った。 

すると彼女はもう一度僕の目を見て、泣きそうな顔で

「ごめんね」

と言って立ち去ってしまった。

その瞬間に《バシャバシャッ》と言う音が響き、僕の全身はびしょ濡れになった。

「ウェーイ」

振り返るとバケツを持った山中と、ほとんどのクラスメイトがいた。

その中の1人は、まだホースを持って僕に水をかけ続けていた。

呆然と立ちつくす僕に山中は

「バ~カ‼瞳がお前なんか好きなわけないだろ‼瞳は俺の彼女なんだよ‼夢みてんじゃねえよ」

と言った。

無言のままの僕に山中は

「おい、寿司マン‼今、お前の手が濡れているのはどっちだ?水か手汗か、はっきりしろよ。まあ、今さら言っても水かけ論か」

と言った。

爆笑…屋外爆笑…爆笑につぐ爆笑…そしてスタンディングオベーション…濡れたマイケルジャクソン…

狂ったように笑っている山中と、クラスメイトを眼前にして、漠然と思っていただけの復讐が人生の目的になった瞬間だった。



つづく

寿司マン  第2話

第3話

第4話

第5話

第6話

第7話 《最終話》


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