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寿司マン    第7話 《最終話》 (創作大賞2026エンタメ原作部門)

「山中、お前、八重桜に睡眠薬をいれたな」

と僕が言うと、山中は

「相変わらず、すぐ騙されるやつだな」

と言った。 

僕が

「いつから僕が高橋だと気がついていたんだ」

と言うと山中は

「いつから気がついただと?こっちは最初から全部わかってたんだよ。お前が高校辞めたことも、名前や顔を変えたことも、俺に復讐をしようと思っていたことも、全部最初からわかってたんだよ」

と言った。 

僕が

「なぜだ⁉」

と問うと山中は

「目だよ、目。俺はお前の目がずっと気にくわなかった。普通のやつはあれだけイジメられると卑屈になったり、俺を恐れる目つきになる。だけど、お前は口では何も言わないけど、ずっと反抗的な目をしていた。だから、俺は県会議員のオヤジの力で担任の教師にも圧力をかけてイジメに加担させたんだが、お前はずっと変わらなかった。いや、むしろ、お前の目が言ってたよ。いつか必ず復讐してやるってな」

と言った。

そうか…だから先生まで加担したのか…

山中はつづけた。

「だから、お前のことはオヤジの部下に監視させていた。名前を変えて整形をしたときには、復讐にくる予感が確信に変わったよ。案の上、お前は自分の女を 女体盛り にもぐりこませてオヤジの事を探りにきやがった」

違う、誤解だ、と言おうとしたときに、ガサガサッと僕の背後で物音がした。

後ろを振り返ると、そこには手を縛られた彼女がいた。  
 
どうやら、彼女も睡眠薬で眠らされていたようだ。

気がついた彼女は

「だから、私はなんにも知らないっていってるじゃない」

と泣きながら言った。  

山中は

「うるさい、お前は黙ってろ‼ しかし、まあ、この女もすぐにお前を裏切った割には肝心なことは全然口を割らねえ。裏切ったふりをさせて俺から情報引き出すつもりだったのか?」

とドスの効いた声で言った。 

僕は山中に

「情報?一体なんのことだ?」

と言うと、山中は

「とぼけるんじゃねえ‼オヤジと滝野建設のことを嗅ぎ回っていたんだろうが」

と言った。 

僕は

「滝野建設?そんなものは知らない。お前を恨んていたのは事実だが、それも彼女をお前に奪われるまでは忘れていた。僕はすべてを忘れて彼女と幸せになろうとしていたんだ。お前への復讐より彼女への愛のほうが大きくなっていたんだ。だから、彼女は復讐になんか関わっていない。本当に何も知らないんだ。女体盛りの仕事でお前と知り合ったのも偶然だ。彼女は純粋にお前に惚れたんだ…だから、僕はどうなってもいいから、彼女だけは助けてくれ」

と言った。 

そして、そこまで言った所で僕の目から涙があふれた。  

「なんで…あなたのこと裏切った私をそこまで」

と彼女が泣きながら言うのを山中が遮って

「そんな話信じられるかよ‼まあ、本当にオヤジのスキャンダルをつかんでないなら、それでいい。こうなった以上は2人とも死んでもらうだけだ」

と言って僕の方に歩いてきた。

僕は無防備に近づいてきた山中の顔面を全力で殴った。

山中がひるんだ隙にもう一発殴り、僕の手を縛っていたロープで山中の首をしめた。

僕は山中と話をしている間に、後ろで縛られていたロープをほどいていた。 

なぜ、ロープをほどくことが出来たかって?


手が濡れているからだ‼


手のひらのミチルアミノ酸を手首に滴らせたのだ‼

僕は必死で山中の首をロープでしめた。

彼女が

「やめて‼あなたとやり直したいから山中を殺さないで‼殺人犯にならないで‼」

と叫んだ。 

僕はその声で我に返った。

彼女が僕に問いかけた。

「殺してしまったの?」

僕は

[いや、殴った衝撃で気絶しているだけだよ。ロープに手が滑って殺せやしなかったよ]

と言って、彼女のロープをほどいて警察に通報した。

警察では、山中がすべて自分の非を認めたので僕が過剰防衛の罪に問われることはなかった。 

山中が警察に僕をイジメた理由を話したらしい。

山中が僕をいじめた理由は、勉強もスポーツも誰にも負けたことがなかった山中が、家庭科の授業の調理実習で誰の作ったおにぎりが美味しかったかという課題で僕にボロ負けしたのがきっかけだそうだ。

ささいなことだ。 

だが、プライドの高い山中にとっては許せないことだったのだろう。

皮肉なものだ。    

人生を狂わせたイジメの原因は、手がミチルアミノ酸で濡れていることによっておにぎりが美味しかったことだったが、一流の寿司職人になれたのも、ロープに手が滑って山中を殺さないで済んだのも全部、手が濡れているからだった。

警察署から帰る途中で隣にいた彼女が口を開いた。

「裏切った私の事、許してくれるの?私とやり直してくれるの?」

僕は言った。

「ああ、やり直そう、ただ…」

「ただ?」

「今夜、最初で最後でいい。君に僕の寿司を置かせてくれないか?」

彼女はゆっくりと頷いた。   

  


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