不良少女〜バカヤロウって言って、ひっぱたいて、抱きしめて、更生させる〜 後編 (創作 フィクション)
あの日から、毎日、僕に挑戦してくるレイコの体が密着するたびに、僕は胸の奥のじんわりとした熱が大きくなっていくのを感じていた
正直に言うと、体も熱くなっていた
[オイ、岩男、今日も挑戦するから、昼休みにいつもの校舎裏来いよな]
毎日、レイコにそう声をかけられるたびに喜びが湧いて、笑顔になりそうになるけど
[また、今日もかよ、面倒くさいな、いい加減にしてよ]
と返事していた
もう、認めざるを得ない
僕はレイコのことが好きだ
あの、口元の汚い不良少女が好きだ
一度、自分の気持ちを自分で認めると想いはつのるばかりになった
そんな日々が続いたある日、僕は1つの決意を持っていた
レイコに 純トロ をやめさせたい
レイコは不良仲間と一緒に 純トロ と呼ばれるシンナーを吸引していた
シンナーを吸うと、脳みそがトリップして麻薬をやったときみたいになるらしい
レイコは教室でも目の焦点が定まってないことがあった
あの状態になるのは シンナーを吸ってきた後だ
シンナーを吸うと健康被害がすごいらしい
確かに、あんな目の焦点が定まらないようなものを吸っていたら、おかしくなるよ
いつもは校舎裏で僕に挑戦してくるレイコに投げられそうになるフリをしてあげているのだけど、今日はすぐにレイコを投げて、地面に倒れているレイコに
[そんなんじゃいつまでたっても僕に勝てないよ、少なくとも、シンナーをやってヘロヘロの体じゃ一生僕に勝てない 僕に勝ちたければシンナーやめなよ]
と言った
レイコは一度目を見開いて僕を見たけれど、下を向きながら、小さい声で言った
[お前みたいな坊っちゃんにはわからねえんだよ…]
レイコはそのまま走り去った
ハンマーで頭を殴られた気分だった
そうだ、僕はレイコのことを何も知らない
知っているのは僕を投げようとするときに触れる体の弾力と、いまやチャームポイントにすら見えている 汚い口元 だけだった
教室に戻るとレイコはいなかった…
見渡すとレイコといつもツルんでいる赤い髪の不良少女がいたので放課後、彼女に声をかけた
[な、なんのようだよ、テメエ]
少し怯えた目で僕を見るのは、番長の頸動脈を絞めて落としたのを目の当たりにしていたからだろう
[レイコのこと、聞きたいんだ]
と、僕がいうと彼女は静かに話はじめた
レイコの家は父親がいなくて、母親は病気がちであまり働けないみたいだった
だからレイコはシンナーの密売でお金を稼いでいて、それだけでお金が足りないときは 売春 までしていると
しかも、母親は全部をわかった上でレイコが稼いでくるお金を当てにしているとのことだった
母親思いのレイコは、本来やりたくない密売や売春を生活費のためにやっていて、そのツラさから逃げるためにシンナーをやっているという話だった
[レイコはアタイ達と違うんだ‼ やりたくてシンナーをやっているわけじゃないの]
と、赤い髪の不良少女がいった…口元は汚かった…歯があまりなかった…そして
[レイコは岩男に挑戦しにいくとき、本当に楽しそうなんだ]
と言った
言葉がでなかった…
僕には朝起きるとトーストを焼いてくれる母親と何不自由なく暮らせるお金を稼いでくれる父親がいる
そんな僕に軽々しく シンナーやめろ と偽善的に言われたレイコはどんな気持ちがしただろうか
レイコはどれだけのツライ気持ちを抱えて生きてきたのだろうか
明日、レイコが学校にきたら、僕の方から昼休み誘おう
明日は、レイコに投げられよう
___
翌朝、レイコは学校にこなかった
主のいないレイコの机を眺めていたら、赤い髪の不良少女が
[岩男、大変‼レイコがっ‼レイコがっ‼]
と血相を変えて教室に入ってきた
レイコは高校の番長のタカシを通じて集会にいくようになった、暴走族の総長からシンナーを仕入れていて、売春をするときもその暴走族の総長から紹介された客を相手にしていたのだけど、昨日のうちにもう密売人をやめる事と売春をしないことを告げにいったという
逆上した総長はレイコをメタメタに殴りヤクザに売り飛ばすために監禁しているとタカシに連絡があったらしい
タカシのところにいくと
[岩男どうしたらいいんだよ、あの人本当に恐ろしい人だから、レイコはマジで売り飛ばされちまう]
泣いているタカシに
[そいつはどこにいる?]
と、言うとタカシは
[岩男、無茶だよ、今日は集会だから20〜30人は集まっている、殺されちゃうよ‼]
と言った
居場所を聞いた僕は思わず1人言がでた
ふっ…1人で立ち向かうには、相手が多すぎるかもな…
本当に…死んじまうかもな…
______
勝負は意外なほどあっけなくついた…
僕の通報により突入した警察の完全勝利だった
1人で立ち向かうには相手が多すぎた
僕はタカシから事情を聞くと真っ先に駐在所にいき、そこにいた駐在のおまわりさんに、
1人でいかない方がいいですよ
と言った
1人で立ち向かうには相手が多すぎだから
結果は応援を呼んだ警察の大勝利だった
レイコの救出を最優先に考えるなら、自分で助けにいくなんてナンセンスだ
法治国家舐めんなよ
と思っていたら、警察に抱き抱えられた汚い口元が見えた
[レイコ‼]
と、僕が叫んで駆け寄ると、レイコは僕に抱きついてきた、そしてその汚い口元を開き
[あたし、ウリとかクスリとか、今まで、殺し以外の悪いこと全部やってきたけど
岩男のことだけは、本気(マジ)だから]
と言った
僕は バカヤロウ って言って ひっぱたいて、抱きしめた そして
[僕が君を更生させる…一生かけて]
と言って、その汚い口元にキスをした
その後レイコは児童相談所から施設に送られた
施設にいる間も手紙のやり取りをしていた
18歳で施設を出たレイコは
2年だけ待ってください 岩男の20歳の誕生日に会いにくるから
という手紙を残して消息を絶った
今日は、その約束の日だ
家のインターホンがなる
インターホンにうつるレイコは大人びていて、あの頃とは別人のようだった
ドアを開けた
[久しぶりだね]
と、はにかみながら開いた口元は2本だけ歯が治っていた
[2年でお金ためて、全部 歯を治して岩男のとなりに来たかったけど、2本しか無理だった]
と言った、レイコのまだ汚さの残っている口元にキスをして
[一緒に、矯正と更生をしていこう]
と言った
レイコは静かにうなずいて、油断していた僕を投げた
[約束の一万円]
といたずらっぽく笑うレイコを抱きしめて、もう一度キスをした
(終わり)
