夏目漱石のバレンタイン
こんにちは、岩男です
唐突ですが、私は子供の頃、めちゃくちゃ可愛い顔をしていました
後から写真を見ても目がくりくりしていて、親戚や近所のおばちゃん達、幼稚園の先生達にチヤホヤされていました
そんな私が異変に気づいたのは10才くらいの時でした
その頃からなぜか母親が私の顔を見てため息をつく回数が増えていきました
私自身も
最近、どうもチヤホヤされないな
と、子供心にも思っていたある日、自分の幼稚園の時の写真と鏡に映っている顔が全然違っているのに気がつきました
わずか4〜5年前の写真なのに全く顔が違っていたのです
原因は2つありました
1つ目は 目 でした
私は小さい頃、顔の大きさに対して目が大きくてそれが可愛さを演出していたのですが、成長に伴って顔が大きくなっていったのに対して目の大きさが据え置かれていました
10才くらいの頃には、もはや私の目は くりくり していませんでした
その当時から現在にいたるまで私の目の大きさは、不人気店のパチスロのように低設定が据え置かれています
その結果、私の顔は設定1 のジャグラーみたいな顔になりました
2つ目は、うぶ毛 でした
私は子供の頃から毛深かったのですが、小学校に入学する頃から口のまわりにうぶ毛が生えるようになりました
そのうぶ毛は少し生えてきたのがわかる程度の頃に理容室の顔剃りでキレイにされていたのですが、私の毛深さを知っていた両親はとても心配しました
この類まれなる毛深さを持つ我が子についに、ヒゲのうぶ毛まで生えはじめた
ヒゲは剃れば剃るほど濃くなる
今、この子の負の連鎖を止めてやらなければこの子は小学生で電気シェーバーを使うモンスターになる
そう、心配した両親は私に理容室での顔剃り禁止令を出しました
私は理容室にいく度に
[すいません、顔は剃らないでください]
という注文をすることになりました
その結果、うぶ毛だったはずのものは徐々にちゃんとしたヒゲとしての存在感を示すようになっていきました
想像できますでしょうか?
ドッジボールをしている小学生の中に1人だけ夏目漱石のような口ヒゲをたくわえた少年がいる光景を…
私の毎日はとても恥ずかしいものになりました
日々の恥ずかしさに耐えかねた私は、次に理容室にいった時に
[今日は顔を剃ってください]
と言いました
その結果、剃毛された私は夏目漱石から市井の人に戻りました
文豪から市井の人に戻ったことを理容室の鏡で確認した私は、心底喜びを感じました
吾輩は小学生である 口ヒゲはまだいらない
私は文豪ではなく普通の小学生でありたかった
私は喜びながら帰宅しました
口ヒゲがなくなった私を見て両親は烈火のごとく怒りました
今からヒゲを剃っていては、小学生で電気シェーバーを使うようになるぞ‼
顔じゅうヒゲだらけになるぞ‼
今、考えたら顔じゅうがヒゲだらけになるわけはないというのはわかるのですが、小学生の私にはその言葉はあまりにもインパクトのある言葉でした
私は文豪に戻りました
余談ですが、丁度その頃に千円札は伊藤博文から夏目漱石に変わりました
私の見た目は設定1のジャグラーに夏目漱石(千円札)をつぎ込んでいくような、そんな姿になりました
ああ、表現が文学すぎてごめんなさい…平たく言うと
負け組
という事です
私が文豪に戻った小学校3、4年くらいの頃から、色気づき始めた女子達によって、そのイベントは始められました
いつものように口ヒゲをたくわえながらドッジボールをしていた私達のもとに、モジモジしていた女子達が話かけてきました
[ねえ、りゅうへい君、ちょっといい?]
りゅうへい君が呼びだされました
帰ってきたりゅうへい君は少し誇らしげな顔をして近くのベンチに女子から渡されたらしいたくさんの小箱を置いてドッジボールに戻ってきました
[義理チョコだよ]
誰も何も言っていないのに、りゅうへい君は照れくさそうに言いました
その年から毎年、運動神経の良いりゅうへい君や顔の作りが良いひろし君が
[ちょっといい?]
と言って呼びだされて小箱を貰って帰ってくるのを私は呆然と立ち尽くして待っていました
待っている間、何もすることがなかった私は無言で遠くを見つめていました
そんな私の姿は、他の人から見たら
綺麗な月を見つめている夏目漱石
に見えていたかもしれません…昼間でしたが…
月を見つめながら待っていた私のもとに帰ってきたりゅうへい君やひろし君は毎回必ず
[義理チョコだよ]
と言って微笑みました
義理…義理とは、物事の正しい筋道や人として守るべき道、社会生活において立場上行うべきこと、血縁のない親族関係などを指す言葉です
義理…人として守るべき道…
そうか、私は人として守るべき道である、親のいいつけを守るという事を怠り、理容室で顔を剃ってしまったから義理のチョコが貰えなかったのか…
義理のゆうこちゃんに義理のみきちゃん、義理のみゆきちゃんに義理のまりちゃん…義理のりゅうへい君と義理のひろし君…
義理の同級生達と義理のチョコ、義理の月を見ている私…
毎年、そんなギリギリの2月14日でした
月日は流れて…モテる人とモテない人の {明暗} の 別れた {坊っちゃん} 時代を終えた私は {それから} 何年も人生の{道草}をくったあと、人間としての{こゝろ}を教えてくれた妻と綺麗な月を見ながら暮らしています
では、失敬🌊🌊🌊
