墓と人
両親を連れて車で墓参りに行った。
うちの墓は瀬戸内の島にあり、以前は橋を渡っていくつかの町を通って行ったけれど、市町村合併のおかげで抜けて行くのは二つの市にまとまった。もっとも、まとまったからと云って距離は変わらない。ただ何だか近いような心持ちがするだけである。
幾分渋滞していたのと、車の中に親指の爪くらいの蜘蛛が紛れ込んで娘が大騒ぎするのとで少々まいった。
墓所には親戚の墓が数基まとまって建っている。その全部に線香を供えて盆灯籠を立てた。
盆灯籠は郷里の風習で、竹の棒の先に三角の色紙を四枚、ピラミッドをひっくり返した形に貼り合わせてある。昔はその内側に蝋燭を灯していたけれど、近頃は立てて飾るだけだ。
既に誰か来ていたようで、どの墓にも灯籠が飾られていた。その内の一基に、白い灯籠が立っている。白い灯籠はその年に亡くなった人の墓に飾るものである。
「誰か亡くなったんかいね?」
父に問うたら、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした。
「え? 知らんぞ?」
墓碑を見ると、百明さんがつい先月亡くなっている。
「令和七年七月、七十七歳か。えらい縁起のいいタイミングじゃのぉ」
「明さんが亡くなったんか……。知らんかったのぉ……」
父はしみじみ云うけれど、明さんと聞いても自分はあんまり釈然としない。
「明さんいうたら、わしから見てどういう関係ね?」
「うーん……、わからん」
わからんではわからない。よくよく訊いたら、父の従弟なのだそうである。
「親戚にアキラさんが二人おるんかいね?」
「いいや、この亡くなった明さんしかおらん」
「祖母さんの通夜に来とった若い人もアキラさんじゃったろ?」
「若い人?」
「若いっていうか、多分わしよりちょっと下ぐらいの人」
「そんな人はおらん」
「ほいじゃ、あれは誰ね?」
「そんな人は知らん」
「自分がアキラ君じゃ云うて紹介してくれたじゃん」
「えぇ? 知らんで」
どうも面妖な話である。片付かない心持ちで遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
どうやら自分は異世界に来ていたらしいと、この時初めて気が付いた。
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