「踊りつかれて」~SNSと芸能界の闇と弁護士の光~
序章を読んだとき、その蔑むような文章にびっくりし、嫌になりかけましたが、新年会で話題になり、次の日、ひとりのママ友さんが届けてくれたこともあり(感謝!)新年早々、いっきに読みましたた。
ある面、現代のSNSの脆さを克明に記してくれ、名誉棄損裁判などの情報としても読みごたえありました。そして、かなこさんも書かれているように、終盤で天童と美月と瀬尾の繋がりがわかったとき、人との繋がりの尊さに温かい気持ちにもなり、情報だけでなく、読み物としても面白かったです。
「踊りつかれて」塩田武士著 文藝春秋 2200円+税
1・あらすじ
不倫報道でSNSで誹謗中傷を受けたお笑い芸人天童が自殺したことから、「枯葉」を名乗る人物が自身の「踊りつかれて」というブログで「宣戦布告」します。
「枯葉」は自死した天童、週刊誌報道で芸能界を去った歌手・美月が好きで、その二人を死や引退に追い詰めたSNSや週刊誌の匿名記事の作者83人を特定し、個人情報(氏名・年齢・住所・勤務先など)をネットで公開し、攻撃します。
「枯葉」の正体は瀬尾政夫という音楽プロデユ―サーで、彼に名前をさらされた藤島一幸から名誉棄損で訴えられます。瀬尾の弁護をしたのが久代奏で、物語は奏が瀬尾と天童、美月との関係を追う形で展開します。そして、見えてきたのは、美月の壮絶な幼少時代と、天童と瀬尾との関係が偶然の出会いでなく、意図した出会いであったこと。
2、主な登場人物
久代奏・・・弁護士。天童、藤島とは中学校の同級生
瀬尾政夫・・・音楽プロデュ―サー。1980年代に美月を育てる。天童も中野の小劇場時代から応援する。「枯葉」と名乗り「踊りつかれて」というブログの執筆者。
天童ジョージ・・・お笑い芸人。妻子あり。不倫報道でネットで匿名の多数からバッシング受け、自殺する。
奥田美月・・・1980年、バブルの頃、人気・実力とも秀でいたけれど、週刊誌のガセ報道により失脚。不遇の幼少期を大分で過ごしていたことが奏の調査で判明する。
藤島一幸・・・奏、天童と中学校の同級生。妬みから、匿名で天童のすべった動画を張り付けたりする。天童が自殺したことにより、瀬尾に名前や個人情報を公開され、名誉棄損で瀬尾を訴える。
3.感想
美月の幼少時代は読んでいて辛く、過酷な生活環境に絶句しましたし、
藤島の妬みからくる匿名性での書き込みなど、気分の良いものではなかったです。妬みであったり、衝動から人を貶めるような匿名性の書き込みの文章は読んでいて嫌になるものでありましたが、その対処の仕方はなるほど、とも。
名誉棄損の裁判では、奏の奮闘ぶりとともに、弁護士という職業に光があたります。誰でも受験でき、2.3%しか合格しなかった昔の司法試験が今は法科大学院を卒業しなければならず、40パーセント近くの合格率になることもあるという現在。裁判後、奏は暴漢に襲われます。刑事事件の裁判では起こることもあると既知の事実にびっくりしました。終盤に出てくる柴原弁護士とともに、弁護士という存在は、人を助け、この本の中では、奏のエピソードとともに光の部分でした。
「踊りつかれて」というのが瀬尾のブログの名前であると同時に、美月が歌っていた曲名でもあり、何度も出てきます。日ごろ、馴染みのなかった芸能界の闇の部分、ヤクザとの関係など、バブルの頃のことなどがなまなましくも克明に描かれています。そして、瀬尾は、音楽プロデユ―サーでは珍しい音大卒のインテリだそうで(音楽プロデユ―サーに音大卒が少ないのにびっくりしました)そんな彼が守りたかった天童と美月への思いは切なくなります。
読みごたえありました。バブル時の景気の良い話などは時として懐かしく、週刊誌報道の在り方なども書かれています。SNSでの匿名性による書き込みの怖さ、書き込んでいる方はノリであったり、ストレスの解消であり、勢いで書いてしまっているのが、受け取る方には物凄い負のエネルギーになってしまう現実。前半の圧巻は、裁判での奏の最終弁論と最後の瀬尾の言葉で、恐らく作者の思いの丈もあって、心に響きました。
「一瞬で広まり、永遠に残る」ことの深刻さと向き合わない限り、社会はより殺伐として、人々は相互監視に委縮していく一方です。
後半の圧巻は、瀬尾と天童と美月の繋がりがわかったとき、かなこさんも引用している部分だと思いました。
男女を超え、人として深く結びつくことの尊さ。人生の中で心から認め合う人がいることの喜び。
SNSの発達によって、誰でも発信できるようになり、今までは絶対的だったマスコミの力すら検証できるようになりました。だからこそ、そんな今だからこそ、節度ある対応は必要で、その対処方法の例も記されておりました。それだけでなく、本作品には、瀬尾が自身の人生を捨ててまで匿名者に復讐したかった気持ち、天童と美月との関係が終盤描かれ、物語としても心に残る作品となりました。第173回直木賞候補作品。(この回は受賞作なし)
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