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デジタル時計と遺書【掌編小説】

今年は2通目の遺書を開封する年。

君は僕宛てに、15通もの遺書を残していた。

1通目は亡くなったときに、残りの14通は3年ごとに開封するよう指示されていた。

そして、君が亡くなってから3年が経過した今日、2通目の遺書を開封する。

僕は遺書とペーパーナイフを食卓テーブルの上に置き、少しだけ落ち着きのない鼓動を自覚しながら、椅子に深く腰掛けた。
慎重に封を開け、綺麗に折りたたんであった便箋を丁寧に広げた。


 * * *


1通目の遺書を開封したのは、君が亡くなってから半年後のことだった。

遺書には、感謝の気持ちや僕を心配する言葉、そして、どれほど僕のことが好きで、どれほど大事な存在であったかが書き綴ってあった。

何度も何度も読み返したよ。

最後はこんな言葉で結んでいたね。

「悲しいときに時間の経過を遅く感じるのは、人は悲しみを薄めるために、必要な時間を感覚的に作り出すからだと思います。あなたも、しばらくは一日が長く感じられるかもしれません。でもいつか、悲しみは癒えます。あなたなら大丈夫。そう信じています」と。

僕は君を失って、一生分の涙を使い切ったと思っていた。けれど、そう簡単に枯れないものだね。
僕は空っぽになったのに、涙はどこからか湧き出て、瞳という出口をいとも簡単に見つけては溢れ出してくる。
悲しみだけでなく、寂しさを埋める方法もおしえてほしかったよ。


テーブルの上にある、白い横型の「デジタル時計」は、言われたとおり大事に使い続けているよ。
今はその横に、君の写真と一輪挿しを置いている。
でもなぜ、思い出の品はほかにもありそうなのに君はこの時計にこだわったのか、僕はさっきまで……、つまり、2通目の遺書を読み終えるまでわからなかった。

それにしても、2通目の遺書の冒頭にこんなことが書かれているとは、思いもよらなかった。拍子抜けしたよ。

「デジタル時計の電池を交換してくださいね。そろそろ電池が切れる頃ですから」

僕は間違った封筒を開けてしまったのかと、表書きを見直した。けれど、「遺書」没3年後に開封すべし、とある。

まさか、電池交換の依頼が遺書の1行目に書かれているとはね。
たしかに僕は忘れっぽい。
しかし、遺書にそんなことまで書かなくても、と思わず笑ってしまった。
同時に何かがほどけていくような感覚が、僕の中で起こったんだ。
君の思考はいつも僕の想像を遥かに超えていて、ケンカもしたけれど、僕たちはくだらないことを言い合って、笑いながら過ごしてきた。そうだったね。
いろんなことを思い出すのが怖くて、心を閉ざしたままだったことに、やっと気がついた。


このデジタル時計を買いに行った日のことも思い出したよ。

数字に弱い君は、数字を毎日見ていたら数字に強くなれる、というような独自の理論で僕を説得し、このデジタル時計を選び、なぜか僕にプレゼントしてくれたね。誕生日でもないのにメッセージカードを添えて。

カードには、「人間にとって時間は平等に存在するけれど、人間の寿命は不平等に有限で、不安定さが伴う。だから私は未来に向けて、今という時間をあなたと大切に過ごしたい。そして何十年先の、あなたが生きている最後の日まで、あなたの一番そばで、あなたと楽しい時を共に刻みたい」と書いてあった。

自分には叶えられないと知り、代わりにデジタル時計を僕にプレゼントしてくれたんだね。
だから、ずっと使い続けてほしい、と書き残した。君らしいよ。

でも、数字に弱いのは変わらなかったようだ。
残り13通の遺書を3年ごとに読むとなると、読み終える時、僕は108歳だ。
そんなに長くは生きられないと思うよ。

でも君が、未来の僕を想って、遺書を書いてくれたことに感謝している。


追記

君が残してくれたのは、「遺書」という名の恋文だね。たぶんそうなのだろう。
だから、今回から君に返事を書くことにした。この先、あと13回、遺書の開封時に合わせて。
3年に一度というのは、寿命を考えると無理だろうけれど、2年か1年に一度。そのタイミングは僕に任せてほしい。
生きている間にすべて読み終えたいからね。

それと、電池の交換も忘れないように気をつけるよ。


 * * *


書き終えた僕は、すぐにデジタル時計の電池を交換した。
一瞬、君がそばにいるような気がした。

〇〇さん、ありがとう。



©️2022 ume15

お読みくださりありがとうございます。
いつかあなたに届きますように。

拙作ではございますが、#創作大賞2022 に応募いたします。

Instagram:@15ume15

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