【連載小説⑬‐2】 春に成る/ミルク ~完~
< 前回までのあらすじ >
最後にマスターに会うことができ「出会えて良かった」と言ってもらった遥。
どんなに願っても時間を止めることはできず、ついにその瞬間は訪れた。
※先に絵と詩をご覧いただく場合はコチラ
※『春に成る』は今回で完結ですが、最後に次回の番外編に繋がる小話(瑛二視点)を載せています。
ミルク(2)
「この辺りじゃない? 珈琲とサンドイッチが美味しいレトロ喫茶」
「そこ、たまにメニューにある、ビーフシチューと珈琲のお酒も美味しいって聞いたよ」
「夜のバーの店長がいる時に出るらしいな。ここ、メニューとかテイクアウトのデザインに、俺の好きなフリーのデザイナーが関わってるんだよなぁ。店の常連でもあるって聞いたんだけど、もしかしたら会えるかな〜」
画面に、いくつかの画像を映した三人。
「とりあえず、行ってみようか」
今日も色々な音色で、ベルが鳴る。
「いらっしゃいませ!」
温かくなった風が、新しく芽吹く緑を、応援するように柔らかく吹く。
ジワジワと空いた穴が拡がり
新しい世界が瞬く、チカチカと
ザンザンと突き刺す雨が緩まり
柔らかく包み込んでいく、パラパラと
グルグルと渦巻いていた空が走り
刻々と色を取り戻していく、クルクルと
また廻ってくる春、少しずつ色めき重なる

★「ミルク」の絵と詩の記事はコチラ
※「ミルク」は絵が2枚あります。
※見出し画像は、ソエジマケイタ(キャラ・写真・似顔絵)様の画像です。素敵な画像を使わせていただき、ありがとうございました。
***
カッコイイでもカワイイでもなく、綺麗。
そう形容するのがピッタリな親友の流果が、俺を見つけて微笑む。
「瑛二、お疲れ。ハルはあと10分くらいかかるって」
敬のことが心配だという二人に呼び出され、流果とハルと俺の三人で飲む約束が急遽決まった。仕事が早めに終わった俺は、時々飲みに行くBARの人目につきにくい席を取りつつ、飲んで待っていた。
「敬とハルは仲直りできたん?」
「うん、すぐ仲直りさせたよ。あの二人喧嘩すると、お互いのこと意識しすぎて見てらんないんだよね。しかも本人たちは無自覚だし」
確かに、敬もハルも喧嘩すると、すごく気にしてチラ見し合ってて、片思いしてる中学生……いや、子どもを心配する親っぽくもある。
それを思い出して、ちょっとムスっとした親友を見ながら、ヤキモチっぽくも見えるし、自分のことも構ってほしい子どもっぽくも見えて、笑ってしまった。
「はは、三人見てると、おもしれぇ」
じとっとした目が、俺から横に動いて不思議に思った時、後ろで声がした。
「あのぉ……」
入口で流果を見かけたんだろうキラキラした女性が、一緒に飲もうと声を掛けてきた。淡々と断っているのを見ながら、どこかヒヤリとするのを感じて、今までのことを思い出す。女性が去って、もう一度俺を捉えた目に問う。
「たまにハルに冷たいのも、やっぱ女だから? 嫌われたかもとか、しょげてるからさ」
最近の流果は、前とは違うとは思う。前みたいに酷いことはしてなさそうだけど、やっぱ女にはどこか冷たさを感じた。ハルにすら時々あるのも、やっぱ……。
真っ直ぐ向き合った俺らのピンとした空気を破るように、流果の注文した酒が置かれた。一度酒に向けられた目が空を仰いだ。
「バカだなぁ、ハルは」
再び目と目が合うと、空気を抜くように、ゆるく笑った。
「ハルに冷たい時は、全部理由がある。気づくか気づかないか分からないけど、ハルの為だと思ってる……男とか女とか性別は関係なくて、ハルだから。敬もそうだけど、二人のことは性別がどうであっても、きっと好きになるんだと思う」
分かるような気もするけど……やっぱりあんまり分からない。
だけど、今までのこと思ったら、これはすごい変化なんだと思う。悪いことでもないんだってことも。
「んー、二人を大切に思ってんならヨシ!」
「ふふ、瑛二ってさぁ……。瑛二のことも好きだよ、僕は」
「ん、ありがとな!」
軽くグラスを合わせてお酒を流し込む。
さっきまでの子どもっぽさは消えて、アンニュイな顔になって零す。
「今回の喧嘩さ、ハルが敬を心配して、それが拗れたんだけど、その気持ちは分かるんだよね。今の敬は……」
「あー……ちょっと暴走気味だよな」
大切な人を失くす度、苦しんで突っ走る敬を見てきた。
力になろうと思ったけど、離されないようにするので精一杯だった。
次々に流れ始める過去の映像、酒の苦味を急に感じ始めた時、高い声が消し去った。
「遅くなって、ごめんね!」
急いできたのが、一発で伝わる息遣い、乱れた髪に、頬が緩んだ。
敬、ずっと心配してんだぞ。流果もハルも俺も。
***
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回ですが、上記から繋がる、敬視点の「空に成る」(物語終了後の話)を掲載させていただいた後に、あとがきを書かせていただく予定です。
この物語は、今まで関わってきた方々からいただいた言葉、教えていただいたことを織り交ぜながらできあがりました。
感謝を込めたこの物語から、何か感じてもらうことができたら幸いです。
もう少しお付き合いいただけたら嬉しく思います。
