【連載小説④‐1】 春に成る/波音の珈琲
< 前回までのあらすじ >
マスターの喫茶店『ベル』が拠り所になり、ずっと避けてきた結婚について考えてみようと、両親が提案するお見合いを受けてみることにした遥。
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波音の珈琲(1)
父が紹介してくれたのは、高橋涼さんという、三十五歳の銀行の営業をしている人だった。父を通じて連絡先を交換し、何度か連絡を取り、夕食を一緒にする約束をした。オススメの店があるらしく、近くの駅で待ち合わせて向かうことになっている。
仕事終わりの人々で溢れる、駅の時計前。写真でしか見たことがない人と、ちゃんと会えるかドキドキしてきた。顔を思い出してみよう。えっと、髪は短くって、清潔感あったな。目がクリっとしてて……だから若く見えるのかって思って、今日、アイメイク頑張った……じゃなくて。写真では、銀行員っぽくスーツをきっちり着てたな。今日も仕事帰りだし、スーツで来るはず。
すると、写真からそのまま出てきたかのような涼さんが現れ、周囲を見渡した。目が合い、軽く会釈すると、笑顔で走って来てくれた。本当に年齢より若く見える人だ。
「佐藤遥さんですよね? 写真とは髪型が違ったので、すぐに気がつけなくてすみませんでした。実物の方がより素敵ですね」
さらりとそういうことが言える方なんだなと感心すると同時に、そういえば、私の写真って父が勝手に見せたんだと思い出し、ドキっとした。どの写真見せたんだろ……いや違うよ! ここは、涼さんにドキっとするところだよね?
選んでくれたお店は、デートに来る人に特に人気がありそうな、雰囲気のあるお店だった。大きなシャンデリアと、窓の外の夜景に照らされたオシャレな店内。席に通される途中で見かけたテラス席には、プールもあり、まるでリゾート地のようだった。そのテラス席を眺めることができるカウンターに通されて、席に着いた。
普段来ないようなお店で、人見知りな私は更に緊張し、結婚を強く意識していないのに来てしまった後ろめたさもあってうまく話せない。だけど、涼さんは人見知りなんて言葉は知らないのではないかというくらい、よく話し、よく笑う人だった。
「ここに初めて来た時、オシャレだし、お店の中にプールもあって、リゾート地に来たみたいで、テンション上がったんですよね」
あまりに嬉しそうに話すから、その時の様子が想像できる気がして、少し笑う。
「当時、忙しくて旅行に行く余裕もなかったので、ココで旅行気分でご飯食べるのが、一番の楽しみだったんです」
こんな風に表情豊かに話せたら、楽しいだろうなと羨ましく思った。涼さんの笑顔につられて、いつの間にか、笑顔になっていた。運ばれてくるお酒やジュースは、綺麗に装飾され、触っても良いのか躊躇うくらいに、キラキラしていた。
別れ際、意外な言葉を聞いた。
「今日、緊張しちゃって、僕ばかり話してしまってすみません。今度は遥さんのことを、色々知りたいと思うので、次は遥さんが行きたいお店に連れて行ってもらえませんか?」
えっ、涼さんも緊張してたんだ! 全然分からなかった。明るく爽やかな涼さんは、素敵でキラキラしていたけど、どこか別の世界の人を遠くで見ているようだった。でも、そっか。別の世界ではなく、案外近くにいるのかもしれない。あまり自分のことを話すのは得意じゃないけれど、知りたいと言ってくれたことは、素直に嬉しかった。
行きたいお店かぁ……一番に思い浮かぶのは『ベル』だけど……。息を吸い込んで夜空を見上げた。夜空には星があるって知ってたのに、ずっと見てなかった気がする。
やっぱり『私』を知ってもらうなら、動くきっかけをもらったマスターのいる『ベル』へ、一緒に行きたいと思った。
※「波音の珈琲」が途中である為、絵は次回掲載します。
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※見出し画像は、a様の画像です。素敵な画像を使わせていただき、ありがとうございました。
