【連載小説⑤‐2】 春に成る/星屑の珈琲
< 前回までのあらすじ >
親友の柚奈と喫茶店『ベル』で久々に話す。カフェオレを飲んだ柚奈が好きだった人を思い出し、失恋、新しい恋、結婚の話になり、祝福する遥。
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星屑の珈琲(2)
「また、式とか、色々詳しく決まったら連絡するね。来てくれると嬉しい」
「そんなの、絶対絶対行くよ! 決まったら教えて……ねぇ、同期の写真とかない?」
「ふふ、あるよ。ちょっと待ってね」
携帯を触りながら、ふと零す。
「……でも、ちょっと意外だったな」
「意外?」
「なんとなくだけど、もっと寂しがるかなって思ってた」
確かに。一番の親友の結婚なんて、今までなら絶対喜びと同時に、寂しさを感じていたはず。コンディションが悪い時だったら、誰でも良いから私も結婚する〜なんて思ってもおかしくなかったかもしれない。こんなに純粋に祝福できるなんて、思わなかった。
「あ、この人だよ」
「めっちゃ色白だね! 羨ましい」
「ははっ、私も初めて会った時思った」
「あと、身長高っ。柚奈もスタイル良いから式で並んだ時、めちゃ画になりそう」
「あはは、またまた〜」
「さっきの話、聞いたのもあると思うけど、優しさ滲み出てるよね」
「そうそう。ホントに優しいんだよね。ミルクみたいに」
「あはは、なるほど。彼はミルクか」
しっかりと珈琲の味を残したカフェオレを飲みながら、携帯をしまう柚奈を見ていた。カフェオレの彼の話をしている時、すごくキラキラして見えた。恋バナをしていて、こんなに羨ましいって思ったこと、ない。それこそ、ミルクの彼との話だって素敵で。だけど羨ましいとは思わなかった。ただ、祝福でいっぱいだっただけ。
「遥はさ、最近どうなの?」
カップから口を離すと、自然と口が動く。
「うーん、お父さんから紹介された人がいるんだけどね……多分その人、早く結婚したいんだと思う」
「ええ、そんなことになってたんだ。その人とは結婚、考えられないの?」
「完全に好きって思う前に、結婚に繋がる話が出てくると、なんか、進めなくて」
「んー……っていうか、本当にしたい? 結婚」
「え、う〜ん……いつかは」
「あはは、じゃあ、少なくても今じゃないんじゃない?」
今じゃない? 今はしたくないってこと? 確かに、会おうと思ったのは、両親を安心させたかった……それだけ、なのかもしれない。私がどうしたいかが欠けていた。だから進めなかったんだ。
柚奈に電話が入り、職場に行かないといけなくなったと慌てて出ていった。席を立ってカウンターへ向かった。
「マスター、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
「あの、もう一杯だけ、飲んで行っても良いですか?」
「もちろん。良かったらカウンターへ移りますか?」
いつもの席で、お任せの珈琲を待つ。
「マスター、私、この前紹介された方、お断りしようと思うんです。マスターに色々聞いていただいたのに、何か、すみません」
「いいえ、それは気にすることではありませんよ。周りが何を言ったとしても、自分で決めることが、大切ですからね」
「ありがとうございます。結局、踏ん張ってもダメでしたけど、何か、自分のことがちょっと分かった気がしました」
「ふふ、それは踏ん張った甲斐がありましたね。大収穫ですね」
ええ、それって良い事だったんだ。結局ダメだったってことばかり気にしてた。
「ふふ、大収穫かぁ……ただ、両親には申し訳無いなって思うんですよね。きっとガッカリすると思うので」
「そうですねぇ……ですが、親にとっての一番の幸せは、子どもが幸せでいることだと思いますよ」
大きく開かれた目から、透明な何かが落ちた気がした。食器の音と珈琲の香りで視線が目の前に置かれたカップに移った。
「さて、どうぞ」
珈琲を一口飲んで、目を閉じた。真っ黒な夜空に、星空が広がっていた。
「え! 断ったのか?」
「うん、良い人だったんだけど、ごめん」
想像通り、呆然とする両親と、鼻で笑う義妹。誰がどう反応をしても、もう関係ない。
「あとね、色々心配して紹介してくれてるんだと思うんだけど、もう紹介は大丈夫。ありがとね」
納得できない様子の父が何か話そうとした時、静かだった部屋に笑い声が響いた。
「那津……?」
珍しく笑い声を上げたのは、弟の那津。
「そういう姉ちゃん久しぶりだな。いいんじゃねぇの。姉ちゃんがそう決めたなら」
「お前までそんな」
言いかけた父の言葉を制して続ける。
「親父たちだって、姉ちゃんが本当に出てくことになっても良いわけ? 喧嘩の仲裁役、いなくなるよ?」
ぐっと言葉に詰まる両親。笑う那津を不満気に見つめる義妹。
「ありがとね」
「別に」
そう言って微かに笑った那津に、少しだけ幼い頃の面影が見えた気がした。
***
仄暗い中で『連絡用』と書かれたノートを捲る手は重く、まるで紙と紙が貼り付いてしまったのを剥がすような動きになってしまう。
余白が目立つページにただ一言「特になし」と乱雑に書かれているのを確認して、周りの仄暗さと同じ色になった瞳を閉じる。
「一番の幸せ……」
痛みと愛おしさが広がっていく気持ちを、奥にしまい込む。
ゆっくり目を開いて、いつもの『ベル』のマスターに戻る。

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※見出し画像は、青木 優 | MATCHA Inc.様の画像です。素敵な画像を使わせていただき、ありがとうございました。
