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【連載小説⑦‐2】 春に成る/ドリップ珈琲(星屑の珈琲)

< 前回までのあらすじ >

喫茶店『ベル』のマスターに、夜のバーへ行った報告に来た遥。マスターに急用が入り、敬に渡すものを託された。敬と流果が現れ、ドリップ珈琲のパッケージのデザイン案を提案され、取引を持ちかけられる。

春に成る/ドリップ珈琲(星屑の珈琲)

※先に絵と詩をご覧いただく場合はコチラ

ドリップ珈琲(星屑の珈琲)(2)



「取引……?」

元の綺麗な笑顔に戻って肯定しながら、滑らかに流果るかが席に座った。

「そう。この前会った時、帰り際にはるかちゃんがぶつかった人がいたでしょう?」

急な話題転換に困惑しながらも、ぶつかった人がいた事は覚えていたので、短く頷く。

「その人、僕らの親友なんだ。瑛二えいじっていうんだけどね。ここでは仲間内で集まることが多いから、初めて見る遥ちゃんが気になったみたいで、遥ちゃんとのこと、色々話したんだよね」

スリープモードに入ったPCを、細長い指が軽く突いて起こしながら続ける。

「そこから、ノンアルの提案されたって話をした時に、瑛二から彼女がお酒が飲めないから、けいの店に連れて来れなくて、実は悲しかったって言われてさ。今、ノンアルドリンクを考えてる最中なんだよね」

ココに来る人は、本当に仲が良いんだなと感心していると、フワリと目の前に赤色のドリンクが置かれた。ゴツゴツしているけど、その手には優しさがある気がして、敬さんを見上げた。その目は相変わらず鋭く、手と目のギャップに混乱する。

「そこでね。遥ちゃんに一緒にノンアルドリンクを考えてもらいたいなって思って」

明るいトーンで提案する流果さんと対照的な、低く淡々とした声が降ってきた。

「あんなこと言って出てったんだから、もちろん、やるよな?」

「怖いよ、敬。選ぶのは、遥ちゃんだから」

「あの時は偉そうなこと言って、すみませんでした。でも、お役に立てるかどうか」

正直、まだ怖いと思ってる二人と一緒に何かできるのか、不安しかない。

「あ、敬。喉乾いたからレッドアイお願い」

注文を終え、今まで緩やかな動きだった流果さんが、素早く私に向き直った。

「僕らさ、みんなお酒好きだから、ノンアルドリンクのこと、あんまり良く分からないんだよね。だから、遥ちゃんの意見が必要なんだ。協力してくれたら、僕らもドリップ珈琲の件は、協力するからさ」

PCに映るパッケージを改めて見る。このパッケージで絶対ドリップ珈琲を作りたい。そういえば、肝心の敬さんからは、何の返事ももらってないけど、取引するなら良いってこと? でも、ただお酒が苦手だっていうだけで、協力なんてできるのかな。

思考は彼方此方へフラフラしていた。

「それ、僕らが考えたノンアルドリンクだから、もし良かったら感想聞かせてほしい」

目の前のこのドリンクを飲んだら、協力することになりそうで、躊躇っていたら、流果さんが注文したレッドアイが出てきた。白い泡を纏った赤いお酒は、この間飲んだグラスより、大きいグラスに入っていた。

さらりとジュースのように飲んで行く流果さんが、視線に気づき、口角を上げた。

「これ、お酒好きな僕専用サイズじゃないからね?」

そういえば、メニューの写真のグラスは、この大きさだったような。あれ、そういえば値段も違ったような気がする。

「余計なこと言ってんな」

敬さんはゴツゴツした手で、宝物を扱うように優しく、使った道具を片付けながら諌めた。手から感じたこと、勘違いじゃないのかもしれない。

「ねぇ、遥ちゃんはどうして、ノンアルの提案してくれたの? 正直、敬の顔怖かっただろうし、態度も良くなかったよね。それなのにどうして?」

流果さんが、どこか面白そうに、探る目で覗き込んだ。カウンターの中で手を止めた敬さんと目が合い、何となく、迷惑かけないように、マスターの名前は出さないで話そうと決めた。

「『ベル』が好きだから、です。もしかしたら、それで『ベル』に来てくれる人や、好きになってくれる人が増えるきっかけになるかもしれないって思ったら……思わず」

「……僕はね、だから遥ちゃんと一緒に協力したいって思ったんだ。敬の優しさって分かりにくいから最初は敬遠する、女の人は特にね。あの状況で自分の気持ちを言えて、しかも、その理由が『ベル』が好きだから、なんて僕らにとって最高でしょ?」

敬さんに意見を求めるように、柔らかく視線を投げた。

「……まぁ、あのノート見れば、店のこと考えてるってのは分かるしな。ドリップ珈琲、協力してやるよ」

「本当⁉ あ……すみません。タメ口で」

慌てて訂正しようとすると、微かに笑った敬さんが、作業を終え近づいて来る。

「いや、いい。これから敬語はナシだ。俺らのことをさん付けするのもやめろ。思ったことは何でも言え、ハル」

ハルが自分のことだと認識するのに、少し時間がかかった。ああ、二人と協力していくんだと実感した途端、体が熱くなった。

マスターが言ってたの、これだよね? 失敗したって思ってた事、流果さんは違う視点で受け止めて、手を引いてくれた。

「ハルかぁ、呼びやすくていいね。じゃあ、敬もハルも、取引成立ってことで大丈夫?」

「はい……じゃなくて、うん、よろしく」

敬さんも、声には出さないものの、大きく一度頷いた。

***

僕は、この取引が成功するって分かってた。

きっと、ハルは微塵も感じていないだろうけど、初めて店に入って来た時から、敬はハルを心配していた。敬はそういう人だから。

ハルはわざわざ慣れない場所に一人で来るくらい、このドリップ珈琲を実現させたがっていた。

そして、僕は僕で、この取引をしたい理由がある。

だから、成功するように運んでいった。

⑦drip bag(stardust coffee)


★「ドリップ珈琲(星屑の珈琲)」の絵と詩の記事はコチラ

☆次の話はコチラ

※見出し画像は、わたなべ - 渡辺 健一郎 // VOICE PHOTOGRAPH OFFICE様の画像です。素敵な画像を使わせていただき、ありがとうございました。

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