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「さい帯血保管」という魔法のビジネス──ステムセル研究所は「研究所」にあらず? 47万円の「お守り」を選ぶ前に知るべきこと

さい帯血保管」って知ってますか?

いま、多くの産院でパンフレットが配られるんです。何なら、母親学級にさい帯血保管をやっている民間企業の人が来て、説明(というか勧誘?)までしてます。

この前、看護協会のセミナーに行ったときにも、企業の人が「情報提供」として話す時間が設けられてました。

子どものために、やるべきか、やらないべきか、いろいろ調べて考えてみました。

「さい帯」は、へその緒のこと。へその緒には、造血幹細胞というすごい細胞が入ってます。白血病などの血液疾患の治療に用いられるほか、さまざまな疾患の治療に応用される可能性が期待されてるそうです。

さい帯血バンクには、公的バンクと民間バンクがあります。これは、役割がまったく違います!

公的さい帯血バンク」は、妊婦さんから無償提供された臍帯血を保管し、白血病など難病患者さんの移植治療に役立てる、社会貢献を目的とした事業。

民間さい帯血バンク」は、費用を支払うことで、自分自身の子どもや家族のためにさい帯血を保管するサービスです。

つまり、公的さい帯血バンクは公のための仕組み、民間さい帯血バンクは自分たちのためのサービス。まったくの別物です。

で、民間さい帯血バンクの国内シェアの99.9%を占めているのが「ステムセル研究所」です。

その料金はと言うと、
さい帯血のみ…月額2,980円(10年間で総額357,600円)
さい帯血とさい帯の両方…月額3,980円(10年で総額477,600円)

高い……。

でも、2024年のさい帯血検体数は8,559本。年間の出生数が68.5万人なので、1%以上の人が利用している計算です。

なお、月額といっても途中解約は不可。かなり高額なサービスです。ただ、問題は値段そのものより、それに見合った価値があるのかということでしょう。

産婦人科医・やっきーさんによれば、「10年で数十万円という決して安くない出費に見合う価値があるかというと、現時点では全く見合っていないと言わざるを得ません」とのこと……。

要するに、民間臍帯血バンクが役に立つ場面というのは、

・本人か兄弟姉妹が白血病などの血液疾患に罹患し、造血幹細胞移植が必要な状況になった場合(※白血病の有病率は約1万人に1人、かつその7割が60歳以上での発症。しかも品質が不確かなので日本国内で民間臍帯血バンクの血液を使って治療した例は無い)

・本人か兄弟姉妹が脳性麻痺や自閉症スペクトラム障害などを発症し、かつそれに対する臍帯血を利用した治療方法が見つかった場合(※現状は効果があるというエビデンスほぼ無し)

上記のどちらかに限られますし、

加えてその過程がすべて臍帯血の保管期間である10年か、せいぜい20年というごく短い間に全て行われなければならないという、あまりにも低い確率に賭ける必要があるわけです。

こういった実情を全て把握した上で、なおも27万円とか44万円とかのお金を払いたいのであればそれは個人の自由ですが、私自身は全く出す気は無いかな🐻‍❄️

やっきー「全力解説 vol.9『民間の臍帯血バンクって意味あるの?』やっきーが民間の臍帯血バンクを絶対に使わない理由」

(theLetterに登録すれば無料で読めるので、ぜひ全文を読んで! 9月刊行の単行本にもこの記事は収録されるそうです)

ステムセル研究所研究所自身がさい帯血を「お守り」と表現しているほど、実用化までは遠いと言わざるをえないようです。

やっきーさんの記事を読んでもらって、もう解散でもいいんですが……。

これは1年前の記事で、ステムセル研究所によれば、その後もさい帯血を用いた治療の実績がいくつか出ているというし……。

もう少し、別の観点からも考えてみます。ステムセル研究所という会社を知るために、決算資料を読んでみました。

ステムセル研究所は上場企業なので、誰でも決算資料にアクセスできるのです(https://www.stemcell.co.jp/corporate/ir/library/)。

25年3月期は売上26.8億円に対し、営業利益が4.2億円。営業利益率は15.6%です。かなりの高収益企業ですね。

株式会社ステムセル研究所2025年3月期 決算説明資料より

この資料でとくにアピールされているのが「客単価の上昇」。新プラン「HOPECELL」によって、平均単価は21.9万円から28.7万円にアップ。実に29.7%の上昇です。新プランで、さい帯血とさい帯のセットプランを選ぶ人が増えたことが大きいようです。

株式会社ステムセル研究所2025年3月期 決算説明資料より

だんだんと、ステムセル研究所の「正体」が見えてきました。

要するに、この企業は「研究所」を名乗っているものの、研究がメインではない。あくまで「さい帯血保管ビジネス」の会社なのです。

ステムセル研究所の業績は、シンプルに「客単価×客数」で決まっています。より多くの人に、より高額なプランを契約してもらえればそれで成り立つビジネスなわけです。

つまり、さい帯血医療の研究に資金を投じるよりも、プロモーションにお金をかけるほうが賢い。となると、顧客が支払った料金のうち、相当な割合が広告宣伝費に使われているのでは――。

そこで、有価証券報告書を見てみました(https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS04906/a8603ab8/13e3/4ce1/abb7/83f6c7b41238/S100W2VG.pdf)。

まず原価率をみると、売上26.8億円に対して、売上原価は9.87億円なので、原価率は36.8%です。

広告宣伝費は2.2億円。さらに、1.8億円が計上されている支払手数料というのは、契約している産院に支払うお金のようです。産院の母親学級でのプロモーション費なんかも、ここに入っているのかもしれません。

2025年3月期 ステムセル研究所 有価証券報告書

一方、研究開発費は、たったの1854万円でした。広告宣伝費の10分の1以下です。

2025年3月期 ステムセル研究所 有価証券報告書

当社の研究開発活動における当事業年度の研究開発費は、18,538千円となっております。主な内訳は、大阪大学 との運動器スポーツバイオメカニクス学共同研究5,454千円、東京大学医科学研究所とのさい帯間葉系細胞に関する 共同研究、東京大学医科学研究所及び東京大学医学部附属病院との小児形態異常等の先天性疾患に対する「さい帯」を用いた治療法の開発等3,621千円、大阪公立大学医学部附属病院とのさい帯血及びさい帯由来間葉系細胞治療 に関する研究等8,996千円であります。

2025年3月期 ステムセル研究所 有価証券報告書

売上が26.8億円で、研究開発費は1854万円。

売上のわずか0.7%しか研究開発に使っていない企業が、「研究所」を名乗っていいの?

少し古いんですが、2021年6月の、証券リサーチセンターによる分析レポートも見つけました。

研究開発費については、20/3期が3百万円、21/3期が8百万円と低水準にとどまっており、現時点においては大きな負担とはなっていない。同社は再生医療関連企業であるが、研究開発費が利益を圧迫していない点がユニークである。

同社は、将来、中枢神経系疾患に対するさい帯血を用いた再生医療・細胞治療が日本において本格的に実施されることを想定して細胞バンク事業を展開しているが、自らが研究開発の主体とはならず、臨床研究を主導する医療機関のサポート役に徹している。結果、さい帯血による再生医療・細胞治療が開始される前の段階で、事業の収益基盤が既に確立されていることを証券リサーチセンターでは評価している。

一般社団法人 証券リサーチセンター「ホリスティック企業レポート ステムセル研究所 7096 東証マザーズ 」(https://holistic-r.org/adm/wp-content/uploads/2021/06/7096210629.pdf

バイオベンチャーというと、研究が成就するまで多額の研究開発費を投じて赤字が続くのが普通ですが、ステムセル研究所はそうではない。要するに、研究してないのに儲かってるから、投資家目線で見れば優良企業ということですね。

でも、それってユーザー目線からもいい企業って言えるんでしょうか?

私自身、数十万円の費用も、今後のさい帯血医療の発展に用いられるなら、払ってもいいかという気持ちもありました。でも、ほとんど研究には使われないのです。ステムセル研究所にお金を払っても、医療の発展にはほとんど貢献しません

でも、ほんとにビジネスとしてはうまい。天才的にすごいビジネスだと思います。

さい帯血医療の研究が進まなかったとしても、世の中の母親・父親たちにさい帯血保管をしたほうがいいと思い込ませることさえできれば、このビジネスは成り立つからです。

さい帯血を用いた医療の研究が、これからどれだけ発展するかはわかりません。だから、さい帯血保管の価値は確定していません。今後、急激に価値が高まる可能性は、ないわけではないです。

そして、さい帯血もさい帯も、出産時にしか採取できません。あとでほしいと思っても手に入らない。だから、さい帯血保管にはプライスレスな価値があるとも言えます。

冷静に考えれば、期待値は低いと言わざるをえないけれど、やらないのが正解とは言い切れない。未来はわからないから。保管を選ばないと、ものすごく後悔しそうな気がしてきてしまう……。

人間には、「小さな確率ほど大きく見積り、大きな確率ほど小さく見積ってしまう」「得をした嬉しさよりも、損をしたガッカリ感を強く感じる」という習性があるそうです。

まさにこの、プロスペクト理論を見事に応用したビジネスでは?

ほんと、知らさないでほしかった。選択肢がある以上、考えざるをえないし、やらないという選択にもしこりが残る。踏み絵を踏まされてる気分です。産院としても、それなりのお金が入ってくるからやらざるをえないんでしょうが、心からこのサービスを勧めたいと思ってるんでしょうか?

そして、公的さい帯血バンクへの提供に対応している病院や産院はとても少ないのに、民間のさい帯血バンクがこんなに流行ってるのって、やっぱりおかしくないですか?

(追記)続編です。アメリカにおける「民間さい帯血バンク」の状況について調べました。

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