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「今のままでいい」というビジネスモデルは存在しない。

NPBのエクスパンションの話をすると、多くの人から「私は今のままでいい」というコメントをもらう。また「日本は人口減少しているのだから、エクスパンションは無理だ」との声もある。「拡張したってお客が入らないから失敗する」という声もある。
コメントを寄せる人は、今どきのビジネスについて何も知らないのだな、と思っている。

世界基準でいう「会社」とは

企業は、市場に進出してそのシェアを奪い、そのビジネス分野でのステイタスを高めていくという形で成長する。事業計画は中長期的な「成長戦略」のもとに建てられるわけだ。企業を託された経営者は、常により多くの売り上げ、利益を生み出し、シェアの拡大を目指すことを義務付けられる。
それができなければ会社の実質的なオーナーである「株主」によって解任される。
企業、会社とは「世界基準」でいえばこういうものだ。マーケットで常に競争しながら「成長」を目指すものなのだ。

日本企業は?

しかし日本の「企業」は、少し違っていた。もちろん「売り上げ」「利益」「シェアの拡大」は目指すが、ある程度の大きさになると「業界内の秩序」を気にし始める。同業他社とは競争するが、同時に「業界団体」などを作って、政府に共同で働きかけて支援を求めたり、自分たちに有利な法案を作ってもらったりする。「仲良しクラブ」を作るのだ。
そしてリスクを犯して冒険をしなくなり、会社としての「維持」を第一に考える。そういう経営者が口にするのは「従業員の生活を守るため」ということだ。
日本企業では「株主」は、あまり経営に口を出さなかった。銀行や系列企業などが「安定株主」になって、経営者の意向を容認してきた。「株主総会」が、「しゃんしゃん総会」といわれるように形骸化し、事実上経営者が会社のオーナーのようにふるまってきたのだ。

江戸時代から続く体制

その背景にあるのは260年も続いた「江戸幕府」の統治体制までさかのぼることができるだろう。戦国時代の最終勝者になった徳川家康が開いた江戸幕府はとにかく「社会の安定」を第一に考えた。
「士農工商」の身分制を敷くとともに、武士も百姓も職人も商人も「家代々の稼業」をつないでいくのが一番大事だとした。大名にとって一番大事だったのは「藩の存続」だった。そのためにひたすら「お家大事」を考えてきた。商人は「暖簾=信用」を大事にし、昔から変わらぬ商売を続けることを基本にしてきた。「商=飽きない」と言われたものだ。
もちろん、それでも技術の進歩や社会の進化で、新たな商品や商習慣も生まれたが、彼らもその世界で「認知」されると体制維持の側にまわった。

維新後も変わらず

明治維新は「四民平等」など、日本社会の大変革であり、日本政府は欧米列強に追いつくために、社会を変革した。しかしながら、それは個々の日本人が自由市場で自由に競争して経済発展をしたのではなく、国家、官僚が主導して産業を興し、技術力を高め、国力を増強したのだ。特に「軍事」という極めて高コストな分野に国力を注入する中で、重工業などを発展させた。
国家主導での経済発展の下「財閥」という企業グループがいくつか生まれた。当時の若者は、刻苦勉励して大学に入り、官僚になるか、大企業に入ることを目指した。
終戦によって、戦前の体制は崩壊し「財閥解体」も行われたが、戦後の経済の急発展、いわゆる「高度成長期」は、民間の発意で行われたのではない。国家、官僚が主導して産業を振興したのだ。銀行の「護送船団方式」などその典型だが、各産業分野で有力企業を国が優遇して成長させた。為替も固定相場制だったから、輸出も非常にうまくいった。
高度成長期が終わり、バブルも崩壊して、日本経済は長い停滞期に入ったが、結局、ここまで日本経済は「本当の競争社会」を知らなかったのだ。
もちろん多くの新興企業が業界に参入していったが、こうした「ベンチャー企業」を当時の財界は「まともな企業」とは思わず、蔑んできた。
21世紀に入って、経済にもグローバリズムの波が襲い、多くの企業が国際的な「会計基準」へと改訂を余儀なくされた。同時に外国資本が日本企業にも入ってき始めた。
これとともに、従来の日本企業は主として外国の株主から「なぜ冒険しないのだ」「従業員を優遇して株主を冷遇するのはなぜか」などと責められるようになった。
企業の体質変換が立ち遅れる中で、日本経済のステイタスは急速に下落していったのだ。

プロ野球の参入障壁

プロ野球は保守的な「日本経済」の象徴のようなものだ。
球団の親会社はかつては、電鉄会社、新聞社だけ。交通と情報のインフラ企業だった。その後、映画会社、食品会社などが参入したが、12球団体制が固まった1958年以降、新規球団が参入できないように60億円の「加盟金」という「参入障壁」を設けた。今は多少緩和されたが、今の連盟加盟の条件は
 法人格:日本法に基づく株式会社であること。
 資本金:資本金が1億円以上であること。
 外国人持株比率:外国人の持株比率が49%を超えないこと。
 新規参入の費用:保証金25億円、野球振興協力金4億円、加盟手数料1億円。

となっている。そのうえで12球団の承認を得なければ、参入はできない。
事実上、新規参入は不可能なのだ。
昔の日本企業と同様「気心の知れた球団だけで、日本プロ野球のマーケットを支配する」体制ができているのだ。
「人口が減っているから」とか「地方に作ったって客など入らない」という小理屈はこうした保守的なNPBの態勢を容認する旧弊な日本人が口にしている。

窮地にあるMLBが着目したもの

日本とは全く違う経済環境にあるMLBは、最初にできたプロスポーツだけに、絶えず新興勢力の浸食を受けてきた。その結果、MLBは、シェア的にはNFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)に続く3位に転落。さらに近年はサッカー人気がMLBに迫っている。ファンの関心度ではすでにMLBを上回っているという見方もある。
劣勢に回るMLBは、日本市場に着目した。この度のWBCで3100万人もの日本人がNetflixで有料視聴した、というニュースはMLB関係者を驚かせた。
すでに、MLBのNPB市場への浸食は始まっている。具体的には、プロ野球の唯一の「商品」である選手を高額で引き抜いている。絶対的な経済格差がある中、NPBのコンテンツの「魅力」を目減りさせているのだ。
こういう形で、NPBとMLBの「格差」を日本のファンに認識させ、シェアの拡大を狙っている。今や、日本国内でMLBの人気、注目度は、Jリーグを抜いてNPBに次ぐ2位になっているという調査も出ている。もちろん大谷翔平の存在が大きいが。
ソフトバンクなど一部の球団はこのことに危機感を抱き、MLBとの提携を企図し始めた。またプロ野球ファンの拡大と、魅力アップを目指して「エキスパンション」を考え始めている。
しかし、親会社の顔色を窺うNPBの他の経営者は「今のままでいい」という態度のままだ。リスクを冒すのが怖いし、失敗すれば退職金が減ってしまう。少なくとも自分の在任中は「何も変えたくない」が彼らの本音だ。

日本進出を考えるMLBの姿勢は、世界のビジネスの「常識」で考えれば、ごくまっとうなものだ。「今のままでいい」と考えるNPBの経営者の方が、世界基準に照らせば「異常」だ。
「現状維持」というビジネスモデルは、今の世界には存在しないのだ。

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