NPBはなぜ「ガバナンス」が働かないのか?
「ピッチクロック」について書いたが、コメント欄で韓国プロ野球(KBO)や台湾プロ野球(CPBL)が導入した「ピッチクロック」についてご教示いただいた。私は導入後(試験導入の時期も含め)、韓国、台湾で野球を見たが、遅延でボール、ストライクを宣せられる投手、打者もなくスムースに導入されていると思った。
何もしないという選択肢はあり得ない
私は、NPBやKBO、CPBLなどがMLBの方針を盲従して追随せよ、と言いたいのではない。
東アジアにある3つのプロリーグは、中米のカリビアンリーグや、オーストラリアのリーグとは異なり、MLBの影響下にあるプロリーグではない。
それぞれに別個の歴史を有するプロリーグだ。そしてMLBを除けば、経済的に成功しているリーグは東アジアの3リーグだけだ。
ただ、MLBがマーケットを求めて東アジアに食指を伸ばしている今、NPBもKBOもCPBLをMLBのルール改定を「我関せず」と放置するわけにはいかなくなっている。
それぞれのリーグには別個の事情がある。だから右へ倣えでMLBのルール改定に従う必要はないが、何もしないという選択肢もあり得ない。是々非々で一つ一つのルール改定の内容を吟味して、導入するか否かを決めるべきだと思うのだ。

ガバナンスが利くコミッショナー
KBO、CPBLが「ピッチクロック」「ピッチコム」を導入したのは、一つには「時短」というこのスポーツの世界的なトレンドに同調したということがある。日本では「試合時間が短くなったらビールの売り上げが減る」という情けない意見が時短に反対する根拠の一つになっているが、KBO、CPBLはそうではなかった。さらに「世界に雄飛する選手たちに、格差を感じさせない」という意向もあっただろう。ピッチクロックの秒数の差は、実際の試合の実情に合わせたものだろう。
こうした決断ができたのは、KBOもCPBLも、コミッショナーのトップダウンで物事を決める体制ができているからだ。
KBOのコミッショナー(総裁)は75歳の許龜淵。社会人野球の名選手で引退後は解説者、指導者として活躍してきた。
CPBLのコミッショナー(会長)は56歳の蔡其昌。立法院副議長という有力政治家だ。CPBLは、八百長問題などで経営危機を迎えたが、この際に当時の蔡英文政権が立て直しを支援し、これを機にCPBLは与党民進党の後ろ盾を得た。蔡其昌会長は、民進党から送り込まれたトップだといえる。
KBO、CPBLのトップはともに最高権力者として重要な問題について大所高所から英断を下してきた。
「非常勤」のコミッショナー
これに対してNPBのコミッショナーは3月に83歳を迎えた榊󠄀原定征。東レや関西電力の会長を歴任した財界人だが、野球界とはかかわりがない。そもそもNPBのコミッショナーは「非常勤」で、週に1回事務所で茶飲み話をするだけの名誉職だ。
実際の決め事は、NPB12球団の合議制で決まる。12球団の理事会、実行委員会などで各球団が協議して決まるのだ。しかし12球団の社長はプロ野球上がりではなく、親会社から出向や転籍などでやってきたサラリーマンだ。経営者と言っても本社の顔色を窺わずに決定はできない。
コミッショナーはお飾り、12球団の経営陣は実質的な権限を持たないサラリーマンという「残念なキャビネット」が、NPBの重要な決定を行っている。

家に帰るのも遅くなる
このキャビネットは「プロ野球の将来」よりも「自分たちの球団」のことを第一に考えている。もっと言えば「自分たちの立場」を考えている。任期中無事に勤め上げて、退職金をもらいたい。次の役職にありつきたい。
トップダウンどころか、まともな組織としての「ガバナンス」も危ういような組織なのだ。
「ピッチクロック」「ピッチコム」など新しいルール、システムを導入するという課題に際しては、このキャビネットがまず考えるのは「先送り」だ。ややこしいことには首を突っ込みたくない。新たなルール、システムは新たなトラブル、問題を生む。責任問題も発生する。家に帰るのも遅くなる。それは御免蒙りたい。
また、球団の営業からは「時短すればビールの売り上げが減る」との苦情も入っている。渡りに舟とばかりに「棚上げ」「先送り」をしようとしたのだ。彼らには「国際大会で苦労するNPB選手」などは眼中にはなかった。
検討は続けていきます
今回のWBCでの敗退の一因が「ピッチクロック」「ピッチコム」への対応のまずさであり、大谷翔平もそのことに言及したことで、日本にも「ピッチクロック」導入の機運が高まりつつあるが、4月6日のプロ野球実行委員会では議題に上がらなかった。例によって「検討は続けていきます」ということになっている。要するに新しいことを導入することの責任を、誰もとりたくないのだ。
エキスパンションなど大きな問題に関しても、NPBは全く動く気配はない。自分たちの小さな利権にきゅうきゅうとして、プロ野球全体のことなど考えていないのだ。
トップダウンの出来るコミッショナーが出てくる可能性は限りなく低いが、そうでない限りNPBの今の繁栄は、後年から見れば「バブル」ということになるのではないか。
