「儲かる根拠」が技術を殺す!研究者への丸投げ組織を壊し、不確実性に挑む技術マーケティングと正しい責任分界点、そして経営陣が知るべき翻訳人材の育成で日本企業のイノベーション三すくみ
この議論は、表面的には「研究者はビジネスを理解すべきか」「営業・マーケの仕事ではないか」という対立ですが、本質は新規技術を事業化するときの責任分界点をどこに置くかという組織設計の問題だと思います。
結論から言うと、両方の意見に一理あります。ただし、問題は「研究者が売上予測をできるか」ではなく、誰が不確実性を潰す責任を負うのかです。
1. 上層部の「いくら儲かるの?」は正しい部分がある
企業の研究開発は大学研究とは違い、最終的には資本配分の問題になります。
経営者からすると、
5億円かけて10年後に何になるのか
既存事業とのシナジーはあるのか
顧客課題は存在するのか
競合技術との差別化は何か
を確認するのは当然です。
「すごい技術です」
「世界初です」
「論文になります」
だけでは企業投資の判断材料になりません。
むしろ博士研究者ほど、本来は仮説検証能力を持っているので、
「この技術が刺さる可能性がある市場はここ」
「この顧客課題なら解決価値がある」
「この前提が崩れると事業化は難しい」
くらいは説明できる方が強いです。
2. しかし「売れるか証明してから研究しろ」は新規事業では無理がある
一方で、経営側が要求しすぎるケースもあります。
本当に未知の技術の場合、
「顧客ヒアリングしましたか?」
「売上予測はいくらですか?」
という問いに答えられるなら、それはもう新規研究ではなく、既存市場向けの商品開発です。
例えば、
半導体材料
新薬候補
次世代電池
新素材
AI基盤技術
などは、初期段階で顧客自身も価値を認識していません。
ウォークマンもiPhoneも、「顧客に何が欲しいか聞いた結果」ではありません。
顧客は往々にして「今あるものの改善」は説明できますが、「存在しないものの価値」は説明できません。
3. 日本企業で起きやすい悲劇
日本企業の問題は、研究者にビジネス感覚を求めること自体ではなく、
研究者に事業責任者の仕事まで押し付けるのに、権限も予算も与えないこと
だと思います。
理想的には、
研究者:
技術的可能性を探索する
技術リスクを潰す
何が可能か示す
マーケ:
顧客課題を探索する
市場規模を見る
顧客候補を探す
事業責任者:
技術と市場を接続する
投資判断する
失敗責任を負う
という役割分担になります。
しかし現実には、
「研究者が新技術を考えろ」
↓
「でも市場調査も営業も自分でやれ」
↓
「ただし意思決定権はありません」
という状態になり、優秀な博士ほど嫌気が差します。
4. ただし研究者側にも改善余地はある
「私は研究者だから市場は知りません」
「営業がやる仕事です」
だけでは、企業研究者として弱い面もあります。
企業研究の価値は、
技術を作ることではなく、技術によって会社の未来を作ること
だからです。
優秀な企業研究者は、
「この技術なら年間100億円市場があります」
まで断言できなくても、
「この業界ではこの課題があり、現在の方法ではここが限界です。私たちの技術ならこの部分を変えられる可能性があります。その検証のために半年ください」
と言えます。
5. 本当に必要なのは「翻訳者」
多くの企業に足りないのは、研究者でも営業でもなく、
技術と市場を翻訳する人材
です。
海外企業ではCTO、プロダクトマネージャー、技術マーケティング、Corporate Ventureなどがその役割を担うことがあります。
日本企業では研究者と営業の間に空白地帯があり、
研究者「技術はできた」
営業「売れるものを持ってきて」
経営「儲かる根拠を出して」
という三すくみになりやすい。
総括すると、
「儲かるのか?」という問い自体は経営として正しい
しかし「研究者だけに答えさせる」のは組織設計の失敗
企業研究者は市場を見る姿勢は必要
ただし未知技術の価値発見まで営業プロセスで測ると革新は死ぬ
という話だと思います。
最も危険なのは、研究者がビジネスを知らないことよりも、経営者が未知技術の価値創造プロセスを理解していないことです。新規事業は「売れるものを探す」だけではなく、「まだ存在しない価値を作り、その価値を市場に理解させる」仕事だからです。

痛みを伴う本質―全員が「保身」
日本企業が直面しているのは、単なるコミュニケーション不足ではない。全員が「保身」というゲームをプレイした結果、イノベーションが構造的に窒息しているという冷酷な現実である。
「100%売れる確証」を求める経営陣の怠慢 予測可能な市場しか承認しない経営姿勢は、「イノベーションを起こす気がない」と同義である。前例のない技術に「確実な売上予測」を求めるのは、思考停止であり、自らの不確実性リスクを現場に押し付けているに過ぎない。
「技術が良ければ売れる」という研究者の傲慢 「私は研究者だから市場は知らない、売るのは営業の仕事」という態度は、企業人としての職務放棄である。市場の課題や顧客のペイン(痛み)に背を向けた技術は、ただの「自己満足の玩具」に成り下がる。
誰も失敗の責任を取らない「三すくみ」の構造 「技術はできた」と突き返す研究者、「売れるものを持ってこい」と動かない営業、「儲かる根拠を出せ」と迫る経営。この膠着状態の本質は、誰も「不確実性を引き受けて失敗の責任を負う」という覚悟を持っていないことにある。
「何でも屋」を求められて潰れる優秀な博士 専門性を極めた博士人材に、事業開発から営業まですべてを背負わせ、手柄は組織が回収する。権限も予算も与えられない「名ばかり責任者」にされた優秀な頭脳は、やがて静かに組織を去る。
国民が知るべき本当に大切なこと
新しい価値とは、最初は誰にも理解できない「得体の知れないもの」である。それを既存のExcelシートの計算式に無理やり当てはめ、予測可能な果実だけを収穫しようとする姿勢こそが、この国の産業を衰退させている最大の要因である。技術を市場へ翻訳する「橋渡し役」に投資し、不確実性を許容する器を上に作る。これができなければ、日本から破壊的イノベーションが生まれることは二度とない。
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