見出し画像

CMで聞くのに何の会社?──『がっちりマンデー!!』で知る、化学・エネルギー企業の「認知度戦略」(元教授、定年退職852日目)

親は知らないが、学生は就職したい化学メーカー

先日、日曜朝のお気に入り番組、TBS『がっちりマンデー!!』を視聴しました。今回のテーマは「CM でよく見るけど、よくわからない会社」。どのような企業が登場するのか、楽しみにしていました。番組では、最近テレビ CM でよく耳にする三つの会社が取り上げられました。確かに、どの CM も会社名を何度も繰り返しているにもかかわらず、何をしている企業なのか、私はほとんど知りませんでした。解説の森永康平さんからは、こうした CM は採用活動などで重要な意味を持つ、という説明がありました。実は、化学の教員だった現役時代、私はまさに同じ問題に何度も直面しました。最近でこそ化学メーカーの CM も増えましたが、以前はほとんど見かけませんでした。学生たちはさまざまな化学企業を調べ、自分に合った会社を選んで就職活動をします。そして、優良企業から内定をもらって喜んで親に報告すると、「そんな会社は聞いたことがない」と文句を言われたりすることが何度もあったのです。

<追記1> 日本の化学産業は、素材や中間原料、高機能材料を中心に、世界屈指の技術力を有しています。しかし、その製品の多くは最終消費者の目に直接触れにくいため、一般社会での企業名の認知度向上や、就職活動中の学生へのアピールが長年の課題とされてきました。現在、いくつかの化学メーカーは、テレビ CM をはじめとする広報戦略を展開しています。ただし、製造している化学物質や高分子材料は、構造式や機能をそのまま説明しても難解で、一般消費者の印象には残りにくいものです。そのため、覚えやすいキャッチコピーや親しみやすいキャラクターを採用する必要があるようです。


「イヒ!」とアルパカが切り拓いた──化学メーカーのブランド戦略

化学分野でも、繊維や化粧品の業界では以前から多くの広告がありました。しかし、総合化学メーカーのCMとして私が最初に意識したのは、1997 年から 2007 年まで展開された旭化成の「イヒ!」でした。「イ」と「ヒ」という二つのカタカナを横に組み合わせると、漢字の「化」に見えます。つまり、「化ける」「化学」を事業の核とする旭化成のアイデンティティを、わずか二文字で表現したものでした。一方、クラレは 2007 年から、「未来に化ける新素材」というスローガンを縮めた造語「ミラバケッソ」の CM を展開しました。CM の核に「ミラバケッソ」という「誰も知らない言葉」を据えるというのは、ずいぶん思い切った戦略だったと思いますが、多くの視聴者に「何だろう?」とひっかかりを抱かせた時点で成功だったと思います。そして、その象徴として登場したのが、CM キャラクター「アルパカのクラレちゃん」です。モコモコとした愛らしい姿が、「明るい未来への期待感」や「未知の新素材」のイメージに合うと判断されたようです。また、女優の成海璃子さんとクラレちゃんが繰り広げる、ほのぼのとした世界観が、瞬く間に全国的な人気を集めました。(下写真もどうぞ)

クラレの「アルパカのクラレちゃん」。上は当時、下は最近のもの(注1)


『がっちりマンデー!!』 が明かした「謎の会社」

今回の『がっちりマンデー!!』には、渡辺パイプ、INPEX、NGK の三社が登場しました。渡辺パイプについては社名から何となく事業内容を想像できましたので、今回は後者の二社をご紹介します。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注2)

『がっちりマンデー』で「CM でよく見るけど、よくわからない会社」特集(注2)


INPEX が支える日本のエネルギー事情

まず INPEX は、エネルギー資源を探査し、生産・供給する大手総合エネルギー企業です。エネルギーを「見つけ、作り、届ける」ことを事業の中核とし、日本の安定したエネルギー供給を支えています。国内事業では、秋田県の八橋油田などで、普通の住宅街の地下約 1500 メートルから、ポンピングユニットを使って原油を採掘しています。埋蔵場所を特定する際には、特殊車両から地面に微小な振動を送り、その反射波を解析して地層の三次元マップを作成する探査技術が使われていました。(下写真もどうぞ)

日本のエネルギーを支える INPEX (注2)


一方、同社の主力エネルギーは天然ガスで、生産量の約8割を占めています。オーストラリアなどの海外ガス田で生産した天然ガスは、輸送効率を高めるためにマイナス 162 度まで冷却し、LNG、すなわち液化天然ガスにします。それを全長 300 メートル級の巨大な LNG 船で、新潟県の直江津 LNG 基地まで運びます。基地では海水を利用して温め、再び気体に戻した後、新潟から1都8県へと延びる総延長約 1500 キロメートルの地下パイプライン網へ送り出します。強い圧力をかけて輸送することで、各地の家庭や工場に安定して供給しているのです。さらに INPEX は、既存の石油・天然ガス事業と並行し、水素やアンモニアといった次世代エネルギーの開発や投資にも着手していました。(下写真もどうぞ)

同社の主力エネルギーは天然ガス。東京へもパイプで運ばれていた(注2)


世界の車の2台に1台を支える技術、NGK

次に登場した NGK の正式名称は、日本ガイシ株式会社です。愛知県に本社を置き、高機能セラミックスを中心に、社会インフラから環境対応技術、次世代デバイスまでを支える世界トップクラスの製品を提供しています。同社の祖業であり、代表的な製品が「がいし(碍子)」です。送電線と鉄塔の間に設置されている白い絶縁体で、高圧電流が鉄塔側に漏れるのを防ぎ、電力を安全に送るための重要なインフラ部品です。屋外で何十年も雨風にさらされながら使用されるため、ひび割れない耐久性と、極めて高い強度が求められます。(下写真もどうぞ)

日本ガイシの代表的な製品が「がいし」(注2)


また、世界の自動車の約2台に1台で採用されている排ガス浄化部品「ハニセラム」も、同社を代表する製品です。内部は、壁の厚さがわずか 0.05 ミリメートル、穴の大きさが約1ミリメートルという、寸分の狂いもない正方形のハニカム(蜂の巣状) の構造になっています。エンジンの高熱に耐えるこの微細な壁面には、プラチナなどの触媒が塗布されています。排気ガスを広い表面積に効率よく接触させ、化学反応を促すことで、有害物質を水や二酸化炭素などに変え、浄化しているのです。(下写真もどうぞ)

世界の自動車の半分で採用されている排ガス浄化部品と新型電池(注2)

<追記> 長年培ってきたセラミック技術を応用し、新型電池「エナセラ」も開発されています。電解液をセラミックに染み込ませた、厚さわずか 0.45 ミリメートルの超薄型リチウムイオン二次電池です。耐熱性が高く、自動車のダッシュボードのような高温環境でも発火や爆発の危険が小さいという優れた安全性を備えています。ウェアラブル端末や衣類に内蔵する機器など、新たな用途での活用が期待されています。(上写真、右下)


最近よく耳にする CM としては、製品情報を思い切ってすべて省き、社名とテンポのよいリズムだけに特化した AGC の CM もあります。「Aではじまり、Cでおわる、素材の会社は AGC」と、女優の広瀬すずさんがこのフレーズを繰り返す CM をご存じの方も多いでしょう。以前、社員さんに話を伺ったところ、旧社名の旭硝子から AGC への社名変更に伴った CM だったそうですが、その認知度が劇的に回復したと喜んでいました。それでは、また。


――――
注1:「クラレ」ホームページよりhttps://www.kuraray.co.jp/recruit/gradu/about/threemin.html

https://www.kuraray.com/jp-ja/news/2025/0801/

注2:NHK『がっちりマンデー!!』の特集「CMで良く見るけどよくわからない会社」より

いいなと思ったら応援しよう!