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なんのはなしですか。【長編小説】4

 翌日、ミッケ本部の扉を開けると、そこにはすでに椅子に腰掛けて腕を組みながら煙草を咥えた榎本の姿があった。榎本は宮下の方へ振り向くと咥えていた煙草の火を灰皿で揉み消した。

「よお、昨日はご苦労だったな」
「おはようございます。いえ、榎本さんこそお疲れ様でした」
「早速だが、昨日話してた奴は蒔倉と言ったか。奴のことについて話を聞かせてくれ」
「はい、分かりました」
 宮下は昨日の蒔倉の言動について事細かく榎本へ報告した。確かにあの時、蒔倉が話ていた内容は一部要点を得ない話であったことは間違えない。しかし、世の中には話すのが苦手であるが故にそのような話し方となってしまう人も存在する。現時点の情報量では蒔倉を中毒者と断定するには不十分であった。

「なるほど、確かにそれは際どいラインだな。炭酸ジュース好きをシュ豪と…しかも初対面で…」
「そうなんです。僕も怪しいなとは思ったんですが確信とまではいかず…」
「まずは手始めに蒔倉、奴について少し調べてみてくれ」
「はい。とりあえずnote情報総合部に確認してみます」





 宮下はミッケ本部のある行政取締棟から連絡通を挟んで向かい側にある棟の最上階に来ていた。そこには『情報総合部』と書かれた札が天井から吊るされている。
 この棟は情報管理棟といい、noteの街の様々な情報が集約されている場所だ。棟内部はそれぞれの部署ごとにオフィスが割り当てられており、その中には情報処理部や情報発信部などがある。これらの部署を踏まえた情報が全てまとめられた部署、それが『情報総合部』である。ユーモアと文字数削減のため、これからは情総部じょうそうぶと呼ぶことにしよう。
 情総部の活用は捜査の基本だ。宮下は榎本からそう叩き込まれていた。

「すみません。情報開示をお願いしたいんですが」そう言うと宮下はポケットから『見つけ次第消す課』と書かれた身分証を見せた。
「どなたについてお調べいたしますか」
「蒔倉という人物なのですが…」宮下は蒔倉と名前の書かれたメモを渡した。
「分かりました。お調べいたしますので、少々お待ちください」そう言うと窓口の女性はメモを手に奥へと消えていった。
 程なくして女性が宮下のもとへと戻ってきた。 
「お待たせしました。こちらになります」

 どうやら蒔倉という名前はこの街に一人しか存在しないらしい。宮下はホッと胸を撫で下ろした。
 なんと言ってもこの街は10年にも渡り様々な人が暮らす街。そんな街に同姓同名が複数名いても、なんら不思議なことではない。そして、その複数の同姓同名の中から該当者を割り出すことはかなり骨を折る作業となる。ID(マイナンバー)が分からない限り、名前を頼りに手当たり次第探すしかないからだ。それを思えば安堵の気持ちも一入ひとしおである。

 宮下は該当者のデータを受け取り本部へ戻ると、パソコンでデータの確認を始めた。

「蒔倉…みのむし」

 これが奴のフルネームか。



次へ続く



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