なんのはなしですか。【長編小説】5
蒔倉みのむし、いったい奴はどのようにnoteの街で生きているのか。蒔倉のあの装いや言動からはまるで想像できずにいた。その姿は漢字一文字にして表すとするなら、言わば『幻』と言ったところだろうか。奴はまさに実体を感じさせず謎に包まれているようだった。
宮下は蒔倉の投稿記事を初期から順を追って一つずつ目を通していく。読めば読むほど宮下は目を疑った。そこにあるのはまともな作品ばかりだった。それは主に詩や小説であり、あとはその作品に付随したエッセイのようなものが書かれている。
「どうした、宮下。何かあったのか」榎本が訊いた。
「いえ、違うんです。むしろ何もなくて…今のところまともな創作ばかりなんです」宮下は食い入るように画面と向き合っていた。
「まともで何もない…か。中毒者が増え始めた時期の記事はどうだ」
「はい、もうすぐその時期の記事に差し掛かるところです」
宮下は思わず手を止めた。これまでの蒔倉とはまるで違い、落ち着きのない文章。そこにはエロに魅了された下心丸出しの荒ぶる野獣がいた。しかし、蒔倉はそんな野獣を飼い慣らし、記事の終盤には何事もなかったかのように美味しそうなスープのレシピで締めくくっていた。
例のタグである『#なんのはなしですか』それだけを残して。
宮下は証拠として記事の日時とタイトルを書き留めた。『美味しいものは作りたい』これが蒔倉が初めて手を染めた記事というわけか。
「見つけました。始まりはどうやらここからのようです」
「どんな内容だ」榎本は訊いた。
宮下はあからさまに悩んだ様子で困った顔をした。
「榎本さんは下心を隠そうとして話をすり替えたことありますか」宮下が訊いた。
「いったいなんの話だ」榎本は少しイラッとした様子で腕を組む。
「それです。たぶん、そういうことなんです」
「どういうことだ、もっと分かるように説明しろ」榎本は怪訝そうな表情で宮下を見た。
「だから、えーっと、つまり、下心を誤魔化そうとして料理の話にすり替えてみたものの最終的に俯瞰してみると、一体全体何の話だったのかよく分からないという記事です」
榎本の眉間にさらに深い皺が寄る。
「なるほど、全くよく分からん話だ。つまりは奴はクロと言うわけか」
「そうなりますね。奴を引っ張りますか」宮下の鋭い眼光が榎本へ向く。
榎本は不敵な笑みを浮かべたまま箱から煙草を一本手に取ると安物のライターで火を着け一服ふかせた。
「いや、ようやく得た手掛かりだ。これを活かさない手はないだろう。奴はまだ氷山の一角に過ぎない」そう言うと榎本は吸いかけの煙草を早々に灰皿へと沈めた。
次へ続く
前回の「なんのはなしですか」4 で、コニシさんより相関図がほしいとの事で作ってみました(笑)

これでも小学生の時、習字してたのにな…
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