「区民プール」で注目を集めた記憶。
地元では行政主催の、気管支炎の人のための水泳教室がある。
妻も、該当するので、申し込んだら当選した。
とても久しぶりのプールになるし、その場所にも、行ったことがない。
疲れもあるし、帰りは夜になるし、普段から、交通機関で違う場所に間違えて行ってしまうこともあるので勝手に心配になり、とにかく最初は一緒に行こうと思った。
ちょっとあきれつつ、微妙に嫌がっていたけれど、妻も承諾してくれた。
バス
電車に乗って、バスに乗り換える。
住所を見ると、そんなに遠くないけれど、知っている道路から、知らない道に曲がって、さらに進むと、ちょっと不安になる。
見慣れない場所を通って、バス停の名前のアナウンスに敏感になって、そして、ボタンを押す。
降りたのは、空が広く、街からはちょっと離れたところだった。
プール
区内だけでも何ヵ所も公営のプールがある。それは、豊かなことだとも思うけれど、利用することがないと関係もないし、私自身もプールで泳いだ記憶は、覚えていないくらい遠いことになる。
バス停で降りて、歩道橋を渡って、古いコンクリート造りの建物が、目指すプールだった。
屋内と屋外の両方のプールがあって、思ったよりも広い。そして、妻が参加する気管支炎のための水泳教室は屋内だった。室内にはロビーがあって、イスがあって、初めて来たのに、なつかしい感じがするのは、昭和の時代によく建てられていた公共の建築物は、とても似ていたせいもあるかもしれない。
まだ時間がある。
そわそわする。
早く来たせいか、関係者らしき人も来ていないから、妻と2人で丸いソファーに座って、何かを飲むのは、これから泳ぐのだから、水分補給をしないと、という気持ちもあったせいだ。
コーチ
しばらく経ってから、人が集まり出す。
思ったよりも年齢層は高そうで、そして、参加者らしき人と、さらに若い姿勢のいい女性がいて、話をしていて、どうやら、この教室は何度も行われていて、そこに複数回参加している人たちもいて、そして、その若い女性はコーチだということが、それほど広くないロビーだから会話は聞こえてきたので、状況は把握できた。
ただ、参加者の家族が見学していいのかどうかを確認しなくてはいけないと緊張していて、だから、話しかけるタイミングを見計らっていていると、会話の隙間ができた。
妻と一緒に立ち上がり、近づき、妻が「初めて参加します、よろしくお願いします」といったあいさつをして、その後に、焦りが出ないように、「夫です。家族ですが、見学してもいいでしょうか」と伝える。
コーチは、少し戸惑ったような短い時間の後、いいですよ、もちろん、みたいな言葉と共に笑顔だった。
よかった。
もしかしたら、セキュリティのことが昔よりも言われるようになっているから、断られる可能性もあって、その時は、施設の外で待っていることになるのだろうけど、だから、外にベンチなどもあったのを確認はしていた。
だけど、そこに怪しまれずに何時間かいるかを考えていたから、やっぱり安心した。
教室
さらに時間が経ち、穏やかに集合の声がかかる。
妻は、ロビーの大きいソファーのところへ行き、そこへコーチと行政の担当の人と参加者が集まるから、それなりに多人数になる。女性が多いけれど、男性もいる。年齢は全体的に高いようだった。
そして、これからの説明と、書類に何か書いたり、あとは血圧などの測定などもあって、それに水着に着替えて、と水泳教室が始まるまでに、いろいろとやることがあるようだ。
しばらく経って、解散する。
控室に妻も含めて姿を消していって、ロビーの人は少なくなる。
行政の人は役割があるようで、そこにいて、何かしらの書類整理をしているので、それが一段落するのを待って、あいさつに行く。「参加者の家族ですが、見学させてもらいます、よろしくお願いします」。感じよくしたつもりだったのだけど、やっぱり少し戸惑った様子があった。
それでも、教室は終わるまで2時間くらいの時間があって、その間に「医師から気管支炎についてのミニ講座のようなものがあります」と教えてもらい、もちろん、参加することにする。
情報
建物の2階に行き、そこの窓から下が見え、そこからプールが見える。
プールサイドに参加者が次々と現れ、血圧の測定などをしているが、妻がなかなか現れない。大丈夫かな、と思った頃、ほぼ最後に現れて、そして測定などをしているようで、それを見てから、医師の話がある会議室のような場所に行く。
そこには、女性が何人もいた。
プールでは半分が成人で、残りの半分が子どもの気管支炎のための水泳教室だったので、その保護者の方々が来ているようだった。
しっかりとメモを取ったのは、花火の煙は良くない、ということだった。
水泳教室
2階から下が見える。
水中で、いろいろな動きをしていて、かなり疲れるように見える。
妻も一生懸命取り組んでいて、ただ、ずっと見ているのも変なので、持って行った本を読み始める。
時々、プールを見ると、メニューが変わっている。
最初にあいさつをした女性のコーチがプールサイドから何かを言っている。その声はガラスがあるし、遠いし、聞こえないけれど、笑顔で話をしているみたいなので、楽しくメニューが進んでいるようで、なんだか、こちらも嬉しくなる。
そうやって時間が過ぎて、教室が終わったようだ。
帰り
一階のロビーに戻って待つ。
一緒に参加していたらしい女性たちが次々と出てきて、外へ向かう。
常連のように、お互い話をしながら、通り過ぎていく。
妻がなかなか出てこない。
ちょっと心配になったら、ロッカーから出てきた。
みんな着替えが、ものすごく早い。
そう言って、とても驚いたような顔をしていた。
確かに、終わってから、出てくるまで、すごく早いから、別のグループかと思ったくらいだったけれど、昔、テレビで見たF1のコックピットのイメージを思い出した。
それから、バスに乗って、電車に乗り換えて、帰った。
少々、疲れたようだけど、体を動かして気持ちがよかった、と妻は嬉しそうだったので、よかったと思った。
注目
もちろん、全部に見学はできなかったけれど、あと何回かはプールに行った。
2度目に行った時には、コーチも、参加者の方も、あいさつをしてくれた。
私は、印象が薄い方だったので、もう覚えてくれたのかと意外だった。
水泳教室を2階から、本を読みながら見学をして、そして、教室が終わってから、妻を待っている時も、参加者のかたが頭を下げてくれるようになり、私もあいさつを返す。なんだかありがたかったし、教室の中で、途中まで同じバスに乗る知り合いもできて、その人と一緒に帰って、話もした。
妻によると、私が行かないときは「今日は、こないの?」と私のことが話題になっていたようだ。そんなに注目されるのも変だと思っていたけれど、子どもの教室に保護者が付き添うのは「普通」だけれども、妻が水泳教室に参加している時に、夫が見学と称して、一緒に来る人は、他にいなかった。
距離感
そのうちに、コーチに、「もう一つのプールもあるので、いっしょにどうですか?」といった軽いジョークのようなことも言われるようになった。そんな反応を見ていると、とても珍しい動物に接するような気配も感じたので、もしかしたら、こんなふうに見学に来る家族は、これまでもほとんどいなかったのかもしれない。
他の参加者の女性の方々とも、距離が縮まったと思う。
教室が終わって、妻と一緒にバス停に向かう時にも、他の参加者と一緒になることもあった。
中年女性の方々に「旦那さんも一緒に参加すればいいのに」と言われ、どう返事すればいいのか分からなかったけれど、答え方によっては失礼になるしと迷いながらも「えーと、でも、私は喘息ではないので……」と返したら、「あーそうねー、そりゃそうだ」みたいなことを言われ、みんなで笑ってくれた。
他の方々は、声も大きい。妻はいろいろと工夫をして、少しでも時間短縮をしようとしていたが、他の方々の着替えは相変わらず圧倒的に早いままだった。皆さんは、確実に喘息のはずなのに、すごく元気に見えた。
ずっと圧倒されるような気持ちだったが、プールの場所も何度か変わったし、珍しく人に注目される新鮮な経験もできた。
妻は、一生懸命通って、体にも良さそうだったし、何しろ楽しそうだった。
よかった。
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