自分と、すごく似ている人。
誰かに似ている、と言われたことが、ほとんどない。
そこにいて、存在感も強くないし、居酒屋で店員さんを呼んでも、届かないことも多いから、いろいろな意味で、弱い人間のような気がする。
一度だけ、大相撲の3代目若乃花-----お兄ちゃんと言われ、横綱になったが、引退後は相撲界から離れ、ちゃんこ屋を経営したり、アメリカンフットボールに挑戦したりした---に似ていると言われたことがあった。
それは、確かに、初めて、少しだけど似ている有名人のような気もしたけれど、それも若乃花が現役を引退してからは、似ている感覚は急速に遠くなった。
似ている人間
誰が言い出したのかも分からず、そのわりには今もよく言われているのが、「世の中には自分とそっくりな人間が3人いる」だけど、家族以外で、そんなことを実感する機会は、ほとんどない。
だけど、中学生のとき、それに近いことがあった。
なんの変哲もない平日。
学校へ行ったら、部活の先輩に真面目な顔をして、言われた。
「お前、昨日、横浜にいただろ?」
そのころは、横浜市内に住んではいたのだけど、その隅っこの街に住んでいたし、学校も田んぼのそばにあるようなところだったから、横浜、というときは、横浜駅周辺など、横浜の都会を指していた。
毎日、学校と家との往復をしているだけだし、どこか少し遠くへ遊びに行くような積極性もなかったから、もちろん「横浜」に行っているわけもない。
「…いえ、行ってません」。
本人がそう言えば、普段から、私は、真面目ということになってもいたし、素直に受け取ってもらえると思った。
それなのに、その先輩は、微妙に怖い顔をして、続けた。
「そんなことないだろ。あれ、お前だろ」。
そんなにムキになるのもおかしかったけれど、こういう時に、こちらもイキリたっても、冷静すぎても、さらに怒ってしまうので、そのあたりの感じを調整しつつ、でも、少し強めに答えた。
「本当に行ってません。似ている人がいたんだと思います」。
それでも、なんだか、その先輩は微妙に不満そうに去っていった。
何人かの、似たような言葉
初めて、そんなことがあったのだけど、「世の中には似ている人が3人いる」らしいから、それほど気にもとめなかったし、その後、その先輩が怒ったりすることもなく、平和にすぎた。
だけど、それから一週間くらい後、同級生に言われた。
「お前、この前、横浜にいなかった?」
同じパターンだったので、同じように否定をした。
その同級生は不機嫌になったり、怒り気味になることもなかったけれど、それでも、ちょっと疑うような素振りはあった。最初の先輩と知り合いでもなかったはずだ。
そのあとに、また2回ほど、全く別の人間から、学校で、そんなことを言われた。それぞれの人たちが、話を合わせているとも、考えにくかった。
別に、いつも人から注目をされるような人間でもなく、地味に暮らしている方だったので、余計に不思議だったけれど、そんなことが1ヶ月くらいの間に続いた。
毎回、否定をすると、相手は、不満そうな、不思議そうな表情をするから、もしかしたら、そんなに似ているのだろうか、と思った。
あんまり続くと、微妙な怖さもあったけれど、そんなに似ていると言われると、その人がどんな人間なのか、気にもなった。
もちろん、その人に会うこともなかったし、それからも、そんな経験をしたことがないから、私の場合は、「世の中には、とても似ている人が1人だけいた」ということなのかもしれない。
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