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読書感想 『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』 若林正恭  「21世紀の成熟の方法」

 著者の若林は、芸人であり、オードリーというコンビを組み、漫才をし、毎週土曜日に、オードリーとして深夜のラジオを続けている。

 その放送は、若林と春日俊彰の二人が、それぞれ長い時間トークを担当し、しかも、オープニングも30分以上続いたりもする。

 アイドルグループのAKBの総監督が、高橋みなみだった頃、これからステージに行く時の円陣の中で、〝みんな、オードリーさんのラジオ聴いてる?トークの勉強になるよ〟と、言ってくれているそうですが、みたいなことを、若林がそのオープニングで語っていたこともあった。それは本当かどうか分からず、笑いを生む話題でもあったのだけど、それを、どこかで納得してしまうようなラジオの質であるのは、間違いないと思う。

 オープニングトークの中で、こんな意外な話も聞いた。(ここからは、少し記憶があいまいなので、ちょっと違うかもしれません)
 若林は、最近、家庭教師を雇っている。それも大学院生で、カフェかどこかで、毎回テーマを決めて、話をしているそうだ。たとえば、『少し上の世代で、何かいいものを持たないとダメだよ、といったことへ反発してしまう』と若林が語ると、その大学院生は、「じゃあ、産業革命のあたりから勉強しましょう」といった答えがかえってきて、そして、課題が出る。

 ときおり、博物館みたいな場所の企画を見に行くように、といったことも宿題に出されて、かなり深く本質的に学べる環境を作ってくれる優秀な大学院生がいることへの驚きと、そういう人に学べるうらやましさと、すでに、いわゆる「売れっ子芸人」となっていた若林が、そうした機会を自ら作っていることに、貪欲さと凄みも感じた。

 2019年2月に武道館で、オールナイトニッポン10周年のイベントをするのを知り、そういう話も聴いていたので、見たいと思って、私は、3回抽選に申し込んで、全部はずれた経験がある。
 だから、これを書いている人間も、半分くらい「リトルトゥース」(オードリーのオールナイトニッポンのリスナー)なので、そういう偏りがあると思って、読んでもらえると幸いです。


 この本は、キューバに行く話でもあり、どうしてそこへ行きたいと思ったのか?行った著者が何を見て、何を感じて、何を考えたのか?そんなオーソドックスな紀行文でもある。

 ただ、今、こうした本を読むと、コロナ禍以前の感覚と、読者としての自分が、どう違っているのか、といったことも確認できるかもしれない。今は、こうした海外へ出かける、ということが、とても贅沢なことに思えたりと、2017年の出版当時とは、また違った価値を持ってきていると思う。さらにいえば、これから先に、紀行文というもの自体が、成立するかどうかまで、読むことで、考えるきっかけになる可能性まである。


 本の中には、キューバに行く以前のことも含まれている。
 著者は、ずっと思春期の感覚を持ち続けていて、それを自覚しつつ、そんな感覚からどうしても離れられない気持ち悪さを自身で自覚しながらも、その感覚を切り捨てることにも抵抗感があり、それでも、成熟や成長について考え続けている記録としても書いている。

 ただ、それは、21世紀の現代を生きる人間ならば、誰もが一度は考え、そして、社会に適応するために、いつの間にか忘れがちな、実は重要なことばかりかもしれない、と思わせてくれるような言葉が、本のあちこちにある。

 たとえば、ニューヨークに行った時の奇妙な感覚を、こう記している。

ここから発信されている価値観が、太平洋を渡って東京に住むぼくの耳まで届いていたのではないだろうか?という直感だ。
「やりがいのある仕事をして、手に入れたお金で人生を楽しみましょう!」

 家庭教師でもある大学院生との会話は、こうも書かれている。

「先生、知ることは動揺を鎮めるね!」
「若林さん、学ぶことの意味はほとんどそれです」 

 現代特有の言葉に関しての、こうした記述もある。

「コミュ障」「意識高い系」「スペック」「マウンティング」「オワコン」……。どの言葉にも冷笑的なニュアンスが込められていて、当事者性が感じられない。

 そして、キューバに行き、こんな感想も発している。

この目で見たかったのは競争相手でない人間同士が話している時の表情だったのかもしれない。

 とても正直で、そして最後は意外な展開も用意されていて、見事な流れもある。著者の成長の記録でもあり、「21世期の成熟の方法」の具体例の一つとも読める。ここまで引用してきた著者の言葉に、いい意味での引っ掛かりが少しでもあった方になら、オススメ出来る本だと思います。



(基本データ)
 
「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」 若林正恭

 株式会社KADOKAWA  2017年7月14日初版発行

(2017年10月。東京都大田区内の図書館で予約して取り寄せてもらった。1カ月半くらい待った。次の予約も入っていた)。


(他にも、いろいろと書いています↓読んでいただけたら、幸いです)。

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