銀河フェニックス物語<出会い編> 第四話(1/13) 朱に交わって赤くなって
第一話 永世中立星の叛乱 第二話 緑の森の闇の向こうで
第三話 レースを観るならココ!と言われて
「君のことを信頼して買ったのに、ひじょうに残念だ」
その言葉はティリーの胸にずしりと響いた。自分の読みが甘かったことを思い知るのに十分だった。
「申し訳ございません。工場で船を調べさせていただいて・・・」

「その必要は無いだろう」
ムルダさんにはとりつくしまもなかった。
二ヶ月前、小型宇宙船マロドスの納入書に快くサインをくれた人と同一人物とは思えない。
あの時、ムルダさんは笑顔で言った。
「君は若いのによくがんばっているね。うちの息子とはえらい違いだ、爪の垢でも煎じて飲ませたいよ」
優しい言葉にふるさとの父を思い出した。
そのムルダさんからマロドスの調子が悪い、という連絡が入った。ナビゲーションの自動入力が起動せず、手動でしか入らないという。
えらく不機嫌な声だった。
上司と相談した結果、ナビを取り替えれば済む話だろうし、ナビの交換はわたし一人でも簡単にできるからとにかく急いで向かうようにということでジン星まで飛んできたのだけれど。
『厄病神』のせいだ。
新品のナビに取り替えてもナビの自動入力はピクリとも反応しなかった。これは船の側に問題があるということだ。
「君じゃ話にならんよ」
「申し訳ありません」
ムルダさんの冷たい一言にわたしは頭を下げることしかできなかった。
「購入からまだ二ヶ月だ。船を替えるか、全額修理費をそちらで負担するか。来週までに返事をくれたまえ」
「社に持ち帰って検討いたします」
深く下げた頭を上げると、運転手兼ボディーガードの『厄病神』レイター・フェニックスがガレージの入り口に立っているのが見えた。

フェニックス号に戻るとわたしはため息をついた。
嫌な予感はしていた。
クレーム処理に『厄病神』の船であるフェニックス号で出かけるほど縁起の悪いことはない。
でもこの船しか空いていなかったのだ。
再度ため息がでた。
仕方がない、返品か修理の手続きを取らなくては。
そんなわたしにレイターが声をかけた。
「そう、しょげた顔すんなよ」
他人事のような軽い調子が気に障る。ナビが動かなかったのは厄病神のあなたのせいじゃないの、と思わず言いたくなる。
「いけ好かねぇ親父だったなぁ」
「お客様にそういう言い方しないで。欠陥がある船を売ってしまったんだから仕方ないでしょ」
「あれは船のせいじゃねぇよ。乗り方が悪りぃんだ」
さらりとレイターが言った。
「どういうこと?」
レイターの顔を見た。
この人は『厄病神』ではあるけれど、同時に自称『銀河一の操縦士』で船のことにとにかく詳しい『宇宙船お宅』。
「一目見りゃわかるさ。下手な奴が磁場宙域をシールド無しで飛ぶとああなるんだ」
ここジン星の付近には磁場宙域が点在している。
そこをシールド無しで飛べば電気系統がトラブルを起こすのは当たり前だ。ナビの自動入力なんてすぐに壊れてしまうだろう。
でも、マロドスは磁場を関知すれば自動的にシールドがかかるようになっている。
「シールドが壊れているってこと?」
「あの親父に二十歳ぐらいの息子がいるだろ」
「いるわよ」
「そいつが飛ばし屋で、マロドスを壊したのさ」
「適当なこと言わないで」
ムルダさんは大学生の息子と二人暮らしだ。「通学用に船が必要だ、船を買ってくれたらちゃんと学校へ行く」とせがまれて折れたらしい。
「どうせドラ息子のために親父が金を出したんだろ」
当たってる。
「どうしてわかったの?」
「船、見りゃ大体想像つくさ。マロドスは見た目が地味だから、親は自分も乗れると思って金を出しやすい」
「確かにマロドスの対象は四十代より上だけど」
「リミッターをはずすと驚くほど加速と旋回性がいい。飛ばし屋が飛ばすのに向いてんだ」
「そうなの?」
レイターが驚いた顔でわたしを見た。
「あんた営業なのにそんなことも知らねぇの?」 (2)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」