銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十五話(1) わたしをバトルに連れてって
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・第三十四話「愛しい人のための船」 ・<裏将軍編>マガジン
ティリーは、宇宙船レースの最高峰S1を観戦するためフェニックス号へやって来た。
営業から役員室へ異動になってエース専務の担当になり、S1レース当日はサーキットで立ち会うことが増えた。
もちろん生の現場は活気があっていいのだけれど、仕事を気にしないで『無敗の貴公子』エース・ギリアムを応援したい、という欲求がわたしの中でふくらんでいた。
その日は、たまたま別の仕事と重なり、S1の出張にならなかった。
というわけで、フェニックス号の4D映像システムでレースを堪能することにしたのだ。
相変わらずレイターの部屋は散らかっていた。
けど、宇宙空間が映しだされると気にならない。
目の前には操縦席に座るエースのアップ。いつ来てもこの船のシステムは素晴らしい。
「キャー、エース、かっこいい! きょうもポールポジションよ!」

と興奮しながら手を振る。仕事だとこうやって騒ぐわけにいかない。
「うるさい!うるさい!うるさい!」
横で首を振るレイターを見るのが楽しい。
「ったく、天下のS1が聞いてあきれるぜ。どいつもこいつも下手くそな奴ばっかりだ」

昔は口の悪い人だと思っていたのだけれど、『銀河一の操縦士』からすると、プロのS1レーサーの操縦も、本気で下手に見えているのだろうな。
レースがスタートした。
「エース、素敵すぎるわ。誰も追いつけない」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
大はしゃぎで応援する。
きょうもわたしの推し『無敗の貴公子』はトップでゴールした。
「おめでとう! エース、最高!」
あと、何回こうやって応援できるのだろう。エースは今シーズンで引退する。そのことを考えるだけで、足元がぐらつきそうな感覚になる。
「あああぁ、スチュワート、何とかしろよ」
レイターが応援しているチーム・スチュワートはきょうも六位だった。
*
「きょう、俺、連合会のバトルに出るんだけどさ、ティリーさんも行くかい?」
久しぶりにバトルに誘われた。
飛ばし屋のギャラクシー連合会が、新興勢力のホワイトブリザードと旗を賭けて一戦を交えるという。負けたら相手の傘下に入る、という真剣なバトルらしい。
めちゃくちゃ気になる。
SSショーの後、裏将軍時代のバトル動画をたくさん見た。レイターの操縦はすごい、を通り越して怖かった。
旗を賭けた銀河一の操縦士はどんな飛ばしをするのだろう。見てみたい。
けれど、冷静を装って応える。
「レイターは裏将軍をやめたんじゃなかったの? 普通の社会人なんでしょ」
「裏将軍ってんじゃなくて、連合会の一員としてさ」
「それってインチキじゃないの?」
「あん?」
「だって、連合会には裏将軍のほかにも裏将軍と同じくらい速いメンバーがいるみたいじゃない」
「御台の代打ちだから、ま、いいんじゃね」
御台所のヘレンさん。連合会のナンバー2で裏将軍の正室。

わたしの知らないレイターをたくさん知っていて、レイターと同じ世界で飛ばせる女性。「あたしのことは気にしなくていい」って本人に言われても気にせずにいられない。
「ヘレンがどうしても都合がつかなくて、悔しがってんだってさ。『白魔』とやりたかったって」
きょうのバトルの相手は、ホワイトブリザードの大将『白魔』。
その名前は、飛ばし屋の情報ネットで見たことがある。プロのレーシングチームから誘いがあったらしい。
「白魔ってそんなにすごいの?」
「そりゃ、飛ばし屋のナンバー1を決める戦いだぜ。バトル中に宇宙塵が当たるかも知れねぇし」
レイターは冗談っぽく言ったけど、わたしには返す言葉がなかった。
SSショーが開催されたネル星系で、『無敗の貴公子』のエースと『銀河一の操縦士』のレイターがわたしの目の前で非公式のバトルをした。
大接戦だった。
レースの終盤、宇宙塵がエースに当たるハプニングがありレイターが逃げ切った。技術の差ではなく、宇宙塵という偶然が勝敗を決めた。
わたしはそれが許せなくて、バトルの無効を訴えた。
浅はかだった、と今は思う。
そんなことや役員室への異動が重なり、しばらくレイターと疎遠になっていたのだけれど、また、こうして普通に会話ができるのがうれしい。
*
「きょうはこいつで行くか」
フェニックス号の格納庫でレイターはガレガレさんの船のボディーをなぜた。

わたしはドキッとした。
カミさんのための船。
わたしのために買ったという噂のある小型船。
レイターはガレガレさんの口コミサイトに、どういう意味で書き込んだのだろう。
『愛しい人のための船』と。
レイターがガレガレさんの船を念入りに調整しはじめた。
「この船で白魔に勝てるの?」

わたしでも操縦できる初心者向けのガレガレさんの船。安全仕様をはずしたのは知っているけれど、バトルに適しているとは思えない。
「まあ、見てな。助手席へどうぞ」
わたしは初めてガレガレさんの船の助手席に乗った。
座り心地がいい。
うちのクロノスの新型船『誰にでも優しいペルッタ』よりも断然いい。
値段が高いけれど売れているのがわかる。 (2)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」