銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(1) さよならは別れの言葉
宇宙船レースのS1で”銀河一の操縦士”が”無敗の貴公子”を追い詰めていた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>三十九話「決別の儀式」レースの途中に ① ② ③
・<会社員編>「起業家の夢は宇宙に輝く」
銀河最高峰の宇宙船レースS1最終戦、ナセノミラのコース。
『無敗の貴公子』エース・ギリアムは、ラストの三十周目をトップで飛ばしていた。
きょう勝てば、無敗のまま引退できる。だが、後ろから『銀河一の操縦士』レイター・フェニックスが猛追してきた。

ゴールまであとわずか。最後のストレートに入った。
すごいレースだ。瞬きもできない。
クロノスのピットでティリーは手を握り締めた。
レイターが操るエンジン『直線番長』がうなり、エースに襲い掛かる。
『は、速い。これは瞬間最高速度のレコードが更新されそうです』
実況の声が裏返っている。
「いかん」
隣にいたメロン監督がつぶやいた。
エースのプラッタはこれ以上のスピードはでない。
一方で、レイターのこの勢いなら、ゴールぎりぎりでエースを追い抜く。
ありえない加速。
レイターが操縦するハールが金色に輝き、緑の消火剤をまきちらした。
その様子は美しく神々しさすら感じた。
ジョン先輩が叫んだ。
その声が切羽詰まっていた。
「やばいよ! レイターはパラドマ発火を起こす気だ」

「え?」
「このままじゃ、空飛ぶ棺桶だ。自殺行為だよ。レイターが死んじゃう!」
「いやだ、レイター、死なないで!」
自分の声が自分の声に聞こえない。

メロン監督が、通信機を手にした。
「消防艇をすぐゴールに」
『ハールが不自然に光っています。その様子は、まさに不死鳥フェニックスを彷彿させます。今、エースのプラッタに追いつきました』
レイターがエースの横に並んだ。
「お願い、燃えないで!」
わたしは神さまに祈った。
*
あれは、同期のチャムールと出かけた軍の宇宙航空祭の帰り道だった。
わたしは、チャムールと二人で火星の連邦軍基地の近くを無言で歩いていた。
戦闘機がオレンジ色の空へ上昇していくのを複雑な思いで見上げた。

航空祭の催しである戦闘機の模擬弾戦闘にレイターは代理で出場し、鮮やかな飛ばしを見せて優勝した。
わたしはレイターにたずねた。これまでに模擬戦ではなく実戦でどれだけ勝ち抜いたのかを。
「五十二戦五十二勝」
彼は淡々と事実を伝え、わたしはその重さに気持ちの整理がつかないまま帰途に着いたのだった。
実戦は勝たなくてはいけない。負けたら死んでしまうのだ。
そして、勝ち残ったレイターの裏には奪われた命が存在する。
これまでもレイターは何度危険な目に遭っても平気な顔で帰ってきた「俺は不死身だぜ」とニヤリと笑って。
「厄病神って不死身なのかしら」
問いかけというよりは独り言をつぶやいた。
チャムールが足を止めた。
「アーサーが言っていたわ。不死身、というか…レイターは死を恐れていないから死の直前まで向かっていってしまうって」
「死を恐れていないって、どういう意味?」
チャムールは目をそらした。わたしに話そうか話すまいか、迷っているように見えた。
轟音とともに戦闘機が急降下して基地に着陸する。
「レイターの話なら聞かせて」
次の言葉を待った。
沈黙に押されるようにチャムールは口にした。
「七年前の話よ。フローラが亡くなって、レイターはお葬式の場で後を追おうとしたそうよ。頭を銃で撃とうとした。それをアーサーは止めなかった、けれど、お父さまの将軍が止めた」

驚きながらチャムールに聞き返す。
「え? それは、レイターが自殺しようとしたのを、アーサーさんが止めなかったということ?」
(2)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」