銀河フェニックス物語<出会い編> 第十一話(3) S1を制す者は星空を制す
<第十一話のあらすじ>
ティリーの出張が急遽S1プライムへと変更になった。ボディガードのレイターは不機嫌になりながらS1の警備本部を訪れた。(1)(2)
「やあ」
二メートルを超える大柄なクリス警備課長が人懐っこい笑顔でレイターに近寄ってきた。

その馴染みの顔を見てレイターは大きなため息をついた。
「あんたかよ。メロンの親父に入れ知恵したのは」
「優秀なボディーガードを紹介してくれと頼まれたんだ。いやあ、また一緒に仕事ができて嬉しいよ」
S1プライムの警備は業界ナンバー一の銀河総合警備『銀総』があたっている。クリス警備課長はその現場責任者だ。
「俺はティリーさんのボディーガードだ。エースは関係無ぇ」

上目づかいにクリスをにらみつける。
「だけど、巻き込まれる可能性があるよねぇ」
子どもの機嫌をあやすような言い方にレイターはむっとして目をそらした。
四十を過ぎているクリスは巨体に似合わないかわいい顔をして笑った。
レイターがクリスと初めて会ったのは十年前。
あのころクリスは銀河警察の警備部にいた。
その後、人事異動で管理職への辞令が出たとき、「やっぱり現場だな」と言って躊躇無く警察を辞め『銀総』に引き抜かれた。
昔から腕の立つ男だった。
昔から巨体で、そしてレイターは十年経っても彼の身長を追い超すことはできなかった。
*
クリスが警察の制服を着た小柄な男を呼んだ。
階級章は警部。
「レイター、こちらが地元のルト星警察のヒル警部だ」
クリスに紹介された男は、年の頃はクリスと同じぐらいか。警察時代からの知り合いのようだ。
「ヒル、彼がエース・ギリアムの連絡係のボディーガード、レイター・フェニックス」
「よろしく。クリスから話は聞いている」
「そりゃどうも」
レイターは肩をすくめた。
ヒル警部の目が注意深くレイターを観察する。
ボディーガード協会のランク3Aというが、どうみてもだらしない格好の若造だ。
「で、誰がエースを狙ってんの? お巡りさん」
口のきき方もまるでなっていない。
クリスも警察を辞めて人を見る目が曇ったんじゃないのか。
数字の書かれた表をクリスが取り出した。
「まあ、これを見てくれ」
一目見てレイターはにやりと笑った。
「面白いねえ。俺も万年二位のギーラル社に賭けよっかな」
S1プライム賭博のオッズ表だった。
S1賭博は禁止されている。
かつてはマフィアが仕切る闇賭博が横行していたがここ数年賭けが成立していなかった。
『無敗の貴公子』の連勝を止める要因が見つからないからだ。
しかし、今回、賭博は開帳された。この裏レート表は闇賭博の証拠品だ。
「ギーラル社へ大口はっているのは?」
レイターの問いにヒル警部が答えた。
「黒蛇会という地元マフィアだ」
「黒蛇さん、当たったら大儲けだぜ」
ギーラル社は予選を二位で通過している。船もパイロットも悪くない。エースさえいなければ優勝濃厚。
黒蛇にエースを狙う動機があるということだ。
「証拠があるなら、早く捕まえりゃいいじゃん」
と言うレイターにヒル警部が答えた。
「これだけではエースの脅迫容疑は問えない」
「そこは警察の腕の見せどころだろ。別件で引っ張れよ」
レイターは挑発するように口の端だけで笑った。
* *
宇宙船レースは人気が高い。
中でも、S1プライムはお祭りだ。
銀河中の星系から観戦に多くの人が訪れ、全星系に生中継される。
星系の知名度が一気に上がり、大きな経済効果が期待される.。
そのため、地方星系を中心に、S1委員会を舞台とした激しい誘致合戦が毎年繰り広げられていた。
これと言った観光資源の無いルト星系がS1委員会総会の投票で開催星系に決定したのは二年前のこと。
星を挙げてのイベントに街は活気にあふれていた。
*
フェニックス号への帰り道、ティリーの足がエースのデジタルポスターの前で止まった。
かっこいい。
目抜き通りには人気レーサーのブロマイドやサイン入り商品を扱う土産物屋のワゴンが所狭しと並んでいる。
後ろにいたレイターも足を止める。

エースのポスターは一番目立つところに飾られていた。
昨日までメディアを通じてしか見たことの無かったエースと、きょう、わたしは直接話をしたのだ。
彼は自分が思っていた通り、いや、思っていた以上に素敵な人だった。
女友だちにメッセージで伝えなくては。
思い出すだけで顔の筋肉がゆるんでしまう。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」