銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(最終回) 決別の儀式 レースの途中に
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」① ②
・第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」① ② ③
* *
レイターの目は、前を飛ぶプラッタとその先のゴールを見ていた。
メガマンモスがうなる。
「レイター、そこまでだ! 速度を落とせ!」
うるせぇよ。通信機を切る。
ほらほら、直線番長はまだいけるぜ。俺の考えた通り軽いハールの機体との相性抜群だ。瞬間最高速度を叩きだしてやる。
さあ全開だ。エース、あんたを捕まえた。
これで終わりだ。
デューガの晩餐会でエースと並ぶティリーさんの姿が浮かぶ。
恥ずかしそうな笑顔。「わたしは無敗の貴公子、エース専務に憧れてクロノスに入社したんです。大好きです」

くっそぉ。
こんな奴のどこがいいんだよ。性格だって歪んでるぞ。
エースのものになったティリーさんなんて、見たくねぇんだよ俺は。
ああ、ああ、俺はなんて醜い嫉妬をしてんだろ。
緑色の消化剤をぶちまく。
大事なものを無くして人は初めて気づくという。

俺の心の奥に押し込めていたティリーへの想いが可視化される。苦しい。
俺はこんなにもティリーが好きだったんだ。
船内の温度が急速に上がる。
大丈夫だよエース。あんたを巻き添えにしたりしねぇ。ティリーさんを幸せにしろよ。
自分の幸せより愛する人の幸せを。ってきれいごとに、俺はもう耐えられねぇ。
だが、それもあと少しで終わりだ。ここで決別する。

フローラ、待っててくれ。
* *
将軍家秘書官のカルロスは驚いた。
アーサー隊長が感情をあらわにして怒っている。
「あの馬鹿! 私たちの努力を無にするつもりか」

僕と隊長は、ステルス戦闘機をコースから少し離れたところで待機させていた。
敵のアリオロンは攻撃を止めている。
暗殺協定は一般人を巻き込まないことが条件だから、エースと競っているレイターさんを狙うことはできない。
けれど念のためだ。
レースの中継映像を見ながら隊長が憤っている。こんな興奮した隊長は初めて見る。
レイターさんが乗るハールは赤色から金色に変化し輝いていた。
緑色の消火剤を蒔きながら飛んでいる。危険だ。まもなくパラドマ発火を起こして融合燃焼するのは間違いない。
隊長が憤慨するのは理解できた。このままではレイターさんは焼け死んでしまう。
喜ぶのは暗殺協定の対象者である敵アリオロン軍のライロット中佐だけだ。
アーサー隊長の苦しそうな声が聞こえた。
「あいつはずっと船で死にたがっていた」

* *
アーサーの目に妹のはかなげな笑顔が浮かんだ。
フローラ、頼む、あいつを連れて行かないでくれ。
* *
金色にハールが輝いている。
まずい状況だ。スチュワートは眉間にしわを寄せた。
ハールにメガマンモスを乗せることを俺は面白がった。危険なこともわかっていた。
人生にリスクはある。そこから得るリターンとの兼ね合いだ。だが、死んだら終わりだ。リターンはない。
レイターの奴、通信も切って、俺たちの言うことを聞こうとしない。
「アラン・ガラン、あと打てる手は何だ? とにかくレイターを死なせるな」
「……」
思いっきり目をつむったアラン・ガランの左足が最速で揺れている。
返事はない。
「おい、オットー」
「だから僕は、最初から反対だったんですよ」

「そんなことは聞いてない」
アラン・ガランが目を見開いた。
「わかった。あいつは、最初からここで死ぬのが目的だったんだ」
「何だと?!」
「ずっと不思議に思っていたんだ。どうしてレイターはハールを選択したんだろうかと。スポーツ船ならもっと楽にエースに勝てたはずだ。あいつは、ここで自殺するためにハールとメガマンモスを選択し、周到に準備してきたんだ。このまま加速を続ければレイターは優勝とともに確実に死ぬ。もう、止められるのはレイターしかいない」
俺の背筋に冷たい汗が流れた。
『ハールが光り輝いています。その様子は不死鳥フェニックスを彷彿させます。今、エースのプラッタに追いつきました』

レイターと出会って俺の夢が成就される日が来た。だが、こんな結末を望んだわけじゃない。
『二機が並んでいます。先にゴールを切るのは無敗の貴公子エース・ギリアムか、それともスチュワートの新人、レイター・フェニックスか?』
「レイター止めろぉ!」
俺は切れた通信機に向けて大声で叫んだ。 (おしまい)
<出会い編>第四十話「さよならは別れの言葉」 の前に<会社員編>「起業家の夢は宇宙に輝く」へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」