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神様の向こう側(第15話)

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◇◆◇

 翌日の夜、仕事を終えた和也は、閉店直前のみちなり食堂へ立ち寄った。ちょうど、氷川がのれんを下ろそうとしているときに。
「ごめん氷川、まだ何か食べられる?」
「今日は売り切れたメニューもあるけど、残ったので良ければ」
「何でもいい、食べさせてもらえるなら。システムトラブルで今まで残業でさ、もう腹が減っちゃって」
「この間もそんなこと言ってたよな。おまえの会社、大丈夫なのかよ」
 和也はその言葉に苦笑で答え、のれんを下ろした氷川に続いて店に入った。カウンター席でネクタイを緩めた途端、トラブルの疲れが一気にこみあげてくる。もう学生アルバイトも帰ったのだろう、店内には誰もいなかった。
「そういえば、沙希ちゃんの納車って無事に終わった?」
 大きな冷蔵庫を覗き込みながら、氷川が和也に言う。
「昨日終わったよ。思ったより安定した走りだったから、ほっとした」
「ちゃんと、言いたいこと言えたのか?」
「言ったよ、俺と一緒に走ろうって」
 冷蔵庫の扉を閉めた氷川が、タッパーを片手に和也の前へやってくる。
「好きだとか、つきあってとかじゃないんだ」
「違うよ。でもこれから、一緒にいろんな道を走りに行くことになった。それで充分だよ、いまは」
「バイク乗りの考えることは、よくわかんねえな。でもそれが、和也が沙希ちゃんに1番言いたかったことなら、上出来じゃねえか」
 氷川は和也の肩をぽんと叩き、軽やかな足取りで厨房の奥へ戻っていく。痛えなと独りごちながらも、和也にはその後ろ姿が頼もしかった。
「俺はさ、どうでもいいと思うよ」
 包丁がまな板を奏でる音に、氷川の声が混ざりこむ。
「人はちゃんと飯を食って、笑っててりゃそれでいいんだ。どんな形であれ、おまえが沙希ちゃんと一緒に笑っていられるなら、正解なんだよ」
「……ありがとな、氷川」
「ずいぶん唐突だな。何にお礼言ってんのか、全然わかんねえ」
 俺の人生のメインキャストに、おまえもしっかり入ってるんだよ。中華鍋を振るい始めた親友の後ろ姿に、和也は泣きたくなるような温かい気持ちを覚える。京香や拓、ちえみと同じように、おまえも俺の人生に重要なんだ。
 もしかしたら、いつかそこに沙希が加わるかもしれないけれど。
「まずは、減ってる腹を満たすことだな」
 氷川がそう言葉を添えながら、和也の前に大きな角皿を置いた。2人前はありそうな炒飯が、綺麗な半球形に盛り付けられている。さらに氷川は、冷奴の小皿とみそ汁椀を隣に並べた。
「すごい量だな」
「腹減ったって言ったの誰だよ」
「いや、確かにありがたいけどさ」
 焼豚と玉子、ナルト、葱と白胡麻。何の変哲もない炒飯なのに、氷川が作ると抜群に美味しい。
「沙希ちゃんが好きなんだよ、この炒飯。うちでバイトしてたとき、賄い飯で作ったことがあってさ」
「そうなんだ。俺、まだ彼女のことよく知らなくて」
「和也と沙希ちゃんは、これからだろ」
 これから、か。炒飯を頬張りながら、和也は頭の中でくり返す。どんな未来につながる道かは分からないけれど、いまはただ沙希とバイクで走りたい。それだけを考えていれば、すべてが上手くいくような気がしていた。


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