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神様の向こう側(第16話)

第1話はこちら

「午前中のペーパーレス化プロジェクトの会議で、今回もめっちゃ注意されましたからね。経理はいつまでも紙の消費が減らないって」
 昼休みが終わった職場で、和也のほうが部下の若手社員に怒られている。
「毎回ごめん。俺が紙を使うからだって言っていいよ」
「もう言ってますよ。俺らじゃなくて、課長が資料チェックのたびに印刷するからって」
「やっぱり数字はパソコンのモニターより、紙のほうが間違いを見つけやすいからさ」
「まあ、それは言えるんですけどね」
 部下の表情が、ふっと和む。
「一応、こうも言っておきましたよ。有沢課長は頭のやわらかい人なのに、紙チェックだけは絶対に変えないんだから、よっぽどのこだわりなんだと思いますって」
 おっ、ナイスフォロー。他の部下たちからそんな声が上がる。
「ありがとな」
「まあ、自分たちも課長の影響で、紙使いまくってますから」
「じゃあお詫びとお礼に、俺がみんなのコーヒーもらってくるよ」
「よくわかんないけど、ありがとうございます」
 和也は笑いながら立ち上がり、給湯室のコーヒーサーバーへ向かった。部下の誰がブラックで、誰がミルクや砂糖を使うのか、彼はすべて把握している。
「課長、手伝います」
 紙コップにコーヒーを注いでいると、部下のなかでは最年長の社員が給湯室に入ってきた。和也より5歳ほど年下の女性社員だ。
「悪いな、助かるよ」
「悪いなって思うのはこっちですよ。うちの若手は言葉に遠慮がないから」
「でも、あいつが言ってることは正しいよ。コピー用紙の値段だって高騰してるし、俺も少しはペーパーレスに協力しないとな」
 コーヒーサーバーのボタンを押すたびに、ふんわりと芳香が漂う。有沢は課員に甘いと眉をしかめる同僚もいるけれど、たまに部下たちへコーヒーを運ぶくらい、何でもないことだ。
「課長がこんな感じだから、うちの職場はみんながまとまってるんですよね」
 トレーに紙コップを並べながら、女性社員がしみじみと言う。
「私、同期にいつも羨ましいって言われます。うちの職場って、飲み会が決まるとみんな喜ぶじゃないですか。でも他のところは、我慢して出席する人がいっぱいいるんですよ」
「俺は部下に恵まれてるんだよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも私たちは、上司に恵まれてると思ってますよ」
「じゃあ、そろそろ飲み会でもするか」
 これからは、良い方向に風が吹くだろう。職場へコーヒーを運びながら、和也は唐突にそんな予感を抱いた。多少のハプニングはあっても、きっとすべてが収まるべきところに収まる。仕事も、拓とちえみの結婚も、沙希と自分のバイクライフも。


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