神様の向こう側(第8話)
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オフホワイトのフーディに、インディゴブルーのデニムを合わせた沙希は、みちなり食堂にいるときより若く見えた。
これはもう、どこから見ても親子だな。思わず呟きそうになり、和也は慌てて口を噤む。京香が亡くなって以来、彼は圧倒的に独り言が増えていた。
ファストファッションや携帯ショップ、フォトスタジオなどの店舗が集まったショッピングモールの駐車場。この敷地のいちばん隅に、和也が行きつけのバイクショップがあるのだ。
「すみません、日曜にお時間取らせちゃって」
バイクの背中に戻れることが、余程嬉しいのだろう。沙希がこぼれるような笑顔で言う。
「大丈夫だよ、そろそろバイク屋にも顔出さなきゃと思ってたから」
「周りにバイクのこと相談できる人がいないから、有沢さんが一緒に来てくれて本当に助かります」
沙希と並んで歩きながら、和也は自分が敬語を使っていないことに気づいた。どこに置いてきたのだろう。
まあ、ちえみと話すようなものだからな。心の中で言い訳をして、和也は沙希に合うバイクのことを考え始めた。
「あれ、有沢さん。娘さんですか?」
和也と沙希がバイクショップに入ると、顔なじみの若い整備士が声を掛けてきた。予想していたこととはいえ、やっぱり親子に見えるんだなと、和也は思わず苦笑いをする。
「友達の店のスタッフだよ。バイクを探してるって言うから、俺も一緒に来てみたんだけど」
「そうなんすか、てっきり親子かと思っちゃいましたよ」
「まあ、そうだよな」
和也はそれだけ答えると、広い店内を見渡した。合わせて40台ほどの中古バイクが、店の左右にずらりと並んでいる。原付から大型まで、種類も色も実にさまざまだ。
整備士にあいさつをした沙希が、嬉しそうにバイクの列を眺めていく。一緒に店に来た目的を思い出し、和也は慌てて彼女の隣に並んだ。娘さんですか、という言葉を頭の中で引きずりながら。
ちえみと親子に間違えられたときは、こんな気持ちにならなかった。実際にちえみは和也をお父さんと呼ぶし、拓を通したつきあいも長いので、いまでは娘同然という感覚がある。きっと京香は和也以上に、ちえみを大切に思っていたことだろう。
「Vストローム650って、これですよね。有沢さんのバイク」
カラスのくちばしのような顔つきの、黄色いバイクを指さして沙希がはしゃぐ。羨ましくなるほど楽しそうに。
「そう、俺のは黒だけど」
「黒のVストローム、見てみたいです。絶対かっこいいですよね」
「本気でかっこいいよ」
「……あ」
突然、沙希の視線が1台のバイクに止まった。
「オレンジのスーフォア」
「え?」
沙希が駆け寄った先には、煉瓦色に近いオレンジ色のバイクがあった。パールが入っているのだろうか、光を受けたタンクが淡く輝いている。沙希がかつて乗っていたバイクと同じ、スーフォアことCB400 SUPER FOURだった。
和也が知っている範囲では、スーフォアの純正カラーにオレンジはない。中古車なので、きっと以前のオーナーがカスタムしたのだろう。
「すごく素敵な色!」
弾んだ声で言いながら、ハンドルに手を掛ける沙希の様子は、二輪に親しんだ人らしい自然な仕草だ。彼女は本当にバイクが好きなんだと、和也は改めて気付く。
このひとは、どんなバイクの乗り方をするのだろう。
「いい色ですよね、このスーフォア」
沙希の反応に気づいた営業スタッフが、嬉しそうに彼女へ歩み寄った。
「40,000km走ってはいるけど、状態めっちゃいいですよ。色以外は特にカスタムもしてないし。タンクの右側に小さい凹みがあるんですけど、それさえ気にならなければ」
整備士の言葉に、和也と沙希はタンクの横を覗き込んだ。確かに目立たない凹みはあるが、この程度なら支障はない。
「良かったら跨ってみます?」
「わあ、お願いします!」
「じゃあ、ちょっとバイク出しますね」
整備士が動かし始めたオレンジのスーフォアを、沙希の大きな瞳が追いかける。そして和也は、自分でも気づかないまま、彼女の様子を眺めていた。
