神様の向こう側(第7話)
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「え、スーフォアに乗ってたんですか」
食事をしながら沙希の話を聞き始めた和也は、彼女が乗っていたバイクの車種に箸を止めた。HONDAのスーフォアことCB400 SUPER FOURは、普通自動二輪の教習車としても知られている。
「そうなんです、シルバーのスーフォア。トラブルが少なくて安定してたし、乗りやすかったですね」
「じゃあ、次はどんなバイクがいい?」
「スーフォアにこだわるつもりはないけど、やっぱりネイキッドがいいかなとは思ってます」
何だよ、ネイキッドって。置いてけぼりになっていた氷川が、控えめに横槍を入れてくる。
「カウルっていうカバーがついてない、シンプルなバイクのことだよ」
「ああ、レースで走ってるコテコテのバイクから、身ぐるみ剥がしたやつな」
「変なたとえだけど、そんな感じ。剥き出しだからネイキッドって言うんだ」
「ふうん、 やっぱり二輪乗りの会話にはついていけねえや。和也さあ、沙希ちゃんのバイク選びにつきあってやれば?」
氷川はそう言うとカウンターを出て、誰かが置いていったスポーツ新聞を読み始めた。あとはふたりで話してろ、と言いたげな雰囲気を醸しながら。
女性がひとりでバイク屋を回るのは、確かに肩身が狭いかもしれないな。和也はふと、そんなことを思いつく。自分が沙希について行っても、年齢的に親子か親戚にしか見られないだろう。少なくとも迷惑にはならないはずだ。
「あの、俺で良ければ、バイク選びにつきあいますか?」
たったこれだけのことなのに、どういうわけか語尾が震えた。和也は照れくささを隠そうと、慌てて唐揚げにかじりつく。
何やってるんだ、俺?
「わあ、お願いしてもいいんですか? 私、バイクのこと相談できる人がいなくて」
対照的に、沙希は少しほっとしたように答えた。言葉には出さないけれど、バイクの世界へリターンするのに、独りでは不安だったのだろう。
「大丈夫ですよ。俺、土日は仕事休みなんで、どっちかなら」
「嬉しい、ありがとうございます」
第一印象できれいだと感じた沙希の目が、きゅっと細くなる。その表情を見ているうちに、和也は自分の顔が熱くなってくるのを感じていた。
翌日、和也はまるで自分が買い物をするかのように、沙希が必要とするであろうバイク洋品をリストアップしていた。
ヘルメットにグローブ、プロテクター付きのジャケット。マニュアルのバイクはギアの操作に左足を使うから、足の甲に補強がついたブーツもあったほうがいい。
そこまで考えたとき、沙希がバイク経験者だったことを思い出して、和也は思わず苦笑いをした。何が必要かなんて、彼女自身がよく分かっているだろうに。
俺が彼女のバイク選びにつきあうのは、他にちょうどいい人がいないからだ。ふわふわしている自分に気付き、和也は慌てて心を縛る。もしも氷川が二輪乗りだったなら、きっと彼が手伝っていただろう。
ひとつ小さな息を吐き、和也は仏壇の前に座った。写真立ての中で、京香がいつもと同じ笑顔を浮かべている。彼女も目のきれいなひとだった。
「京香」
うちは息子だからいいけど、もし娘がいたら「お父さん気持ち悪い」って言われてたかもよ。ずっと昔に聞いた京香の言葉が、和也の耳元でよみがえる。女の子って、無条件にお父さんを嫌う時期があるんだから。
「俺たちにもし娘がいて、いまの俺を見たら、なんて言っただろうな」
お父さんみたいなオジサンが、若い女の人とふたりで出かけるからって、浮かれちゃって気持ち悪い。そう言ったかな。
和也はまだ、心に生まれ始めた自分自身の感情を持て余していることに、まったく気がついていなかった。
