⭕️【火がつくる時間】〜時間を育てる文化論〜
🔴私たちは普段、「時間を使う」ことには慣れています。
けれど、日本の暮らしの中には、「時間を育てる」という、もう一つの時間との向き合い方があったのではないでしょうか。
焚き火、火鉢、囲炉裏、線香、茶、葉巻──。
人生の節目で出会ってきた「火」をたどりながら、人間の時間感覚、所作、そして接触帯へとつながる文化について考えていく、新しいシリーズを始めます。
ゆっくりと育てていきたいと思います。🔴
【火がつくる時間】
〜時間を育てる文化論〜
火には、不思議な力がある。
焚き火の前では、人は急がない。
火鉢の炭を眺めていると、自然と手の動きはゆっくりになる。
茶を沸かす湯を待ち、線香の煙が立ちのぼるのを見つめ、一本の葉巻が静かに燃え進む時間を味わう。
それらは何かを「する」時間というよりも、何かが「育つ」のを待つ時間である。
私たちは普段、「時間を使う」「時間を節約する」「時間を管理する」という言葉を使う。
しかし、日本にはもう一つの時間との付き合い方があったのではないだろうか。
それは、時間を育てるという営みである。
子どもの頃、祖母の家には火鉢があった。
近所の空き地では、焚き火を囲んだ。
若い頃には、喫茶店で「一服しよう」が口癖の友人がいた。当時の私は、その時間の豊かさを理解できず、もっと効率よく過ごせばよいのに、と内心思っていた。
やがて渓流釣りを覚え、山小屋の暖炉で濡れた身体を温めた。キャンプで囲炉裏を囲んだ。
三十代で両親を見送り、家には蝋燭と線香を灯す時間が生まれた。その後も年齢を重ねるにつれて、大切な人を偲ぶために火を見つめる機会は少しずつ増えていった。
そして近年、茶道と葉巻に出会った。
振り返ってみると、私の人生には、その折々で必ず火があった。
暖を取る火。
祈る火。
語る火。
待つ火。
そして、人と静かな時間を分かち合う火。
それらは決して同じ文化ではない。
けれど、どれにも共通しているものがある。
火は、人の身体の速度をゆるめる。
身体の速度がゆるむと、時間の流れも変わる。
その時間の中で、人はようやく誰かと居合わせ、同じリズムを分かち合うことができる。
私はこれまで、「接触帯」や「共鳴」「回路化」といった、人と人とのつながりについて考えてきた。
このシリーズでは、そのさらに手前にあるものを見つめてみたい。
人は、どのように時間を育ててきたのか。
そして、火はなぜ、その時間を育てる営みの中心にあり続けたのか。
焚き火、火鉢、囲炉裏、暖炉、線香、蝋燭、行燈、炭火、茶、葉巻──。
それぞれの小さな火をたどりながら、人間の時間感覚と所作、そして文化について考えてみたいと思う。
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