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銭湯で憧れの人と遭遇/他人の不幸は蜜の味 #10

演劇で充実した日々を過ごしていたが、それだけで食べていけるレベルではなった。

というか見栄を張らずに言うと、ただただ貧乏だった。


恐らく世間の人達がイメージしている、バンドマンや演劇をやっている人でお金持ちは少ない。

ボクも例外ではなかった。

多くの人がイメージする演劇をやってる貧乏な人だった。

ただ、大学生という肩書がそれを許してくれていたところが大きかった。

当時住んでいたアパートは、お世辞にも綺麗と言えるレベルではなった。


でも不満なんて言えるレベルでもない。

ちなみに、アパートには、まともな風呂場などなかった。

だから、たまに銭湯に行くことがあったが、そのおかげでボクは運命的な出会いを果たす。

ボクの住んでいたアパートから、歩いて1、2分のところに銭湯はあった。

冬は部屋の隙間風がすごかったから、寒くて銭湯に行ってあったまることも多かった。

たまの銭湯は、ボクにとって贅沢なご褒美だった。

湯船に浸かって身体を温めたボクが銭湯をあとにしようと靴を履いてた時に、新たな男性客が来た。

初めて演劇を観に行った時、あれだけボクら観客をゲラゲラと笑わせてくれた役者さんに、すごく似た人だった。


自分の住んでたアパートに戻る間も、さっき銭湯ですれ違った人は憧れのあの人ではないかという想いが頭を巡る。

部屋に入ると当時付き合っていた彼女が、合鍵で入っていた。

彼女がボクに話しかけてくれるが、さっきの人が気になってしまい、受け答えも上の空になってしまう。

「ねぇ、なんかあったの?」様子のおかしいボクに、彼女は言った。

さっき銭湯で会った人が憧れている人ではないかと思っていること、もし本人なら話してみたいことを伝えた。

「そんなに気になるなら、今からもう一回そこの銭湯に行って、話しかけてみればいいじゃん」と、彼女は簡単に言う。

まあそうなんだけど、もし本当に本人なら、いきなり話しかけられても…ボクは煮え切らない受け答えをする。

そんなボクに対して「なんかウジウジしててカッコ悪い、違っててもいいから話しかけて来なよ」と、彼女は言った。

やらない後悔よりやった後悔の方がいい“とよく耳にする。

ただ、この時のボクは彼女にカッコ悪いと言われたことが嫌悪感で反応した。

「行く行く、行くけど、どうせなら何かインパクト残せないか考えていたんだよ」

ボクは、とっさに思いついた言い訳を彼女に言った。

ヒトタラヲ

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