アメリカの「モンテカルロ×FIRE検証」を、日本版シミュレーターで試してみた
FIRE(経済的自立・早期リタイア)を目指す人の間で、よく使われているのが モンテカルロ・シミュレーションです。
これは簡単に言うと、
「将来のリターンは毎年バラバラに動く」という前提で、 何千回も未来をランダムに作り、資産が尽きる確率を計算する方法
です。
アメリカでは、実際にこれを使って 「自分はFIREできるのか?」を検証している個人ブロガーが多くいます。
一方、日本では証券会社の簡易シミュレーションが主流で、「毎年一定のリターン」が前提。
暴落やバブルの振れ幅は無視されています。
そこで今回は、アメリカのFIRE検証文化を紹介しつつ、最後に日本の税制・社会保険・年金に対応したモンテカルロ・シミュレーターを作ったので、その考え方と使い方まで解説します。
有名なのは「Early Retirement Now」
アメリカのFIRE界で有名なのが
Early Retirement Now(ERN)
というブログです。
特徴は:
元金融機関勤務の研究者が、自分でシミュレーションを回している
引き出し率(4%ルールなど)を厳しく検証
数式やコードも公開している記事がある
特に有名なのが 「Safe Withdrawal Rate(安全な引き出し率)」シリーズ。 60回以上続く超大作です。
ここでは、
4%ルールは本当に安全か?
市場が悪い時にFIREするとどうなるか?
株式比率はどのくらいがよいか?
などを、モンテカルロや過去データ検証で分析しています。
ERNの結論のひとつは、「4%は安全とは言い切れない。特にFIRE期間が30年を超える場合、3.25〜3.5%あたりが現実的」というものです。これは多くのFIRE志望者に衝撃を与えました。
Redditでも多い「自分のFIRE成功確率は◯%」
アメリカの掲示板 Reddit では、
「モンテカルロを回したら成功確率65%しかない」
「90%に上げるにはどうすればいい?」
という投稿が多くあります。
多くの人が
年間支出
想定リターン
株式と債券の割合
インフレ率
を入れて、成功確率を計算しています。
回答する側も「ボラティリティの設定は?」「インフレは何%で見てる?」「債券比率を20%入れてみたら?」と、具体的な数字で議論します。
つまり、
FIREは"気合い"ではなく、確率で考える
という文化が強いのがアメリカの特徴です。
なぜ4%ルールだけでは足りないのか?
昔から有名なのが「4%ルール」です。
これは
資産の4%を毎年取り崩せば、30年は高確率で持つ
という考え方。
1998年のトリニティ・スタディが元になっています。
しかし問題は、
市場は毎年同じではない
リターンはランダム
序盤に暴落すると致命傷になる(順序リスク)
この「順序リスク(Sequence of Returns Risk)」が特に重要です。
たとえば、同じ平均リターン7%でも
最初の5年が好調なケースと
最初の5年で大暴落するケースでは
30年後の資産残高がまったく違います。
平均が同じなのに結果が違う。
これが順序リスクの怖さです。
4%ルールは「過去データの平均」に基づいているため、この順序リスクへの対処が弱い。
だからこそモンテカルロが必要なのです。
モンテカルロでは、
好調なパターン
暴落スタートのパターン
横ばいのパターン
などを大量に作るので、
「最悪ケースも含めた確率分布」がわかります。
成功確率だけでなく、「途中でどのくらいまで資産が減りうるか」「最悪の5%ではどうなるか」まで見えるのが強みです。
アメリカでよく使われるツール
個人ブロガーやFIRE層が使う代表例:
FireCalc — 過去の実績データ(1871年〜)をベースに、あらゆる30年間を切り出してシミュレーション。「歴史的にこの条件でFIREしていたら、何%の期間で資産が持ったか」がわかる。モンテカルロではなくヒストリカル方式だが、FIRE検証ツールの定番中の定番。
cFIREsim — FireCalcと似たヒストリカル方式に加え、モンテカルロ・シミュレーションにも対応。社会保障(Social Security)の受給タイミングや、支出の変動パターンなど、より細かい条件設定が可能。
Portfolio Visualizer — ポートフォリオのバックテスト、モンテカルロ、アセットアロケーション分析など幅広い機能を持つ。複数資産の相関やリバランスの影響まで分析できるため、上級者にも人気が高い。
自作Pythonコード — 技術系のFIRE層は、NumPyやPandasで自分のシミュレーションを書いている。自分だけの前提条件(副業収入、不動産収入、配偶者の収入タイミングなど)を自由に反映できるのが最大の利点。GitHubにコードを公開しているブロガーも多い。
特に技術系のFIRE層は、既存ツールに満足せず自分でコードを書いています。
「自分の状況に合った前提を入れられるのは、自作だけ」というのが彼らの考え方です。
日本でモンテカルロが普及しにくい理由
アメリカにはこうした無料ツールが充実していますが、日本ではほとんどありません。理由はいくつか考えられます。
① 日本独自の税制・社会保険が複雑
FIRE後に会社員から国民健康保険に切り替わると、前年所得ベースで保険料が計算されます。
住民税も同様です。
FIRE初年度は前年の会社員時代の年収がベースになるため、保険料が一気に跳ね上がり、数年かけて徐々に下がっていきます。
アメリカのツールではこの部分をカバーできません。
② 年金制度の違い
日本の公的年金は、受給開始年齢の繰り上げ・繰り下げで金額が大きく変わります。
65歳受給と70歳受給では、切り崩し戦略がまったく異なります。
「年金が入るまでの空白期間をどう乗り切るか」は、日本のFIREにとって最大の論点のひとつです。
③ 信託報酬の影響
日本のインデックスファンドは近年コストが劇的に下がりましたが、それでもeMAXIS Slim全世界株式で年0.05775%、S&P500で0.0814%かかります。
30年以上の長期では、0.1%の差が数百万円の違いを生みます。
シミュレーションにはこの信託報酬を差し引いた「実質リターン」を使う必要があります。
こうした日本固有の要素を反映できるモンテカルロ・シミュレーターが必要だと感じて、今回自作しました。
作ったシミュレーターの特徴
Student-t分布でテールリスクを反映
多くの簡易シミュレーションは「正規分布」を使っています。
正規分布では、99.7%のリターンが平均±3σ(標準偏差の3倍)の範囲に収まると仮定します。
しかし現実には、リーマンショックやコロナショックのような「ありえないはずの暴落」が起きます。
正規分布ではこうした極端な事象の発生確率を過小評価してしまうのです。
本シミュレーターではStudent-t分布(自由度12)を採用しています。
t分布は正規分布より「裾が重い」ため、大暴落の発生確率をより現実的に見積もれます。
これにより、長期シミュレーションの信頼性が向上します。
3,000回のモンテカルロで確率分布を可視化
毎回3,000通りの未来をランダムに生成し、中央値(50パーセンタイル)だけでなく、下位20%、10%、5%の資産推移をグラフで表示します。
「平均ではうまくいくが、下位5%では破産する」というケースが一目でわかる設計です。
毎回結果が微妙に変わるのは乱数による正常な挙動で、何度か回して傾向を掴むのがコツです。
日本の税制・社保に完全対応
FIRE後の国民健康保険料、住民税、国民年金保険料を前年所得ベースで自動計算します。
FIRE初年度は前年の会社員時代の年収がベースになるため保険料が跳ね上がり、数年後に落ち着くという実態もシミュレーションに反映されます。
さらに、金融所得に対する含み益割合に応じた20.315%の課税、将来的に議論されている金融所得への社会保険料上乗せ(+6%想定)にも対応しています。
3つの引き出し戦略
引き出し方法は「金額指定」「%指定(トリニティ準拠)」「ガードレール+U字型支出」の3つから選べます。
ガードレール戦略は初耳の方も多いと思いますが、これは「基準引出率を設定しつつ、資産が減ったら引き出しを下げ、増えたら上げる」という動的な調整方法です。
加えて、年齢ごとの支出カーブ(若い頃と老後は多く、中間期は少ない「U字型」)を反映しています。
固定4%とは違い、市場の状態に応じて柔軟に調整できるため、破産確率を大幅に下げられます。
アメリカのFIRE層でも採用が増えている考え方です。
マルチアセット・物件購入・退職金にも対応
単一ファンドだけでなく、QQQ(NASDAQ100)・GLD(金ETF)・EDV(超長期国債)・BND(総合債券)の4資産ポートフォリオにも対応。
相関行列を使ったコレスキー分解で、資産間の値動きの連動性まで再現しています。
住宅ローン(借入額・金利・返済期間・管理費・修繕積立金・固定資産税・ローン控除)、退職金の一括投入など、現実のライフプランに合わせた条件設定も可能です。
重要なポイント
モンテカルロで見るべきなのは
① 成功確率だけではない
95%成功でも、 5%は「完全破産」です。
その5%を許容できるかが大事。
本シミュレーターでは「完全破産確率」と「フロア割れ確率」を分けて表示しています。
完全破産(資産が0円)にならなくても、FIRE時の資産から大幅に減った状態で耐え続けるのは精神的にきつい。
だから両方見る必要があります。
② 最低資産額(フロア)
途中でいくらまで減る可能性があるか。
心理的に耐えられるか。
たとえば「FIRE時に5,000万円あったのに、途中で1,500万円まで減る」というシナリオが下位10%で出てきたら、それでも計画を続けられるか。
本シミュレーターでは「フロア割れ確率」に加えて「フロア割れからの復帰率」と「復帰までの年数中央値」まで追跡しています。
③ 引き出しの柔軟性
アメリカのFIRE層は、
相場が悪い年は支出を減らす
副業をする
引き出し率を調整する
という前提で考えています。
固定4%とは少し違います。
「何があっても毎年同じ額を引き出す」という人はほとんどいません。
ガードレール戦略はまさにこの柔軟性を数値化したもので、「下限と上限を設けて、その範囲で動的に調整する」というルールベースの方法です。
シミュレーターの使い方(3ステップ)
ステップ1:基本条件を入力する 現在の年齢、初期投資額、月額積立額を入力します。積立期間と切り崩し期間はスライダーで直感的に調整できます。
ステップ2:リターンとリスクを設定する 想定利回りとボラティリティ(年率の価格変動幅)を設定します。
参考値としてS&P500なら利回り約10%・ボラティリティ17%、全世界株式なら利回り約7.5%・ボラティリティ15.5%が目安です。
信託報酬も実際のファンド(eMAXIS Slim全世界株式、SBI・V・S&P500など)から選択できます。
ステップ3:結果を読む 安心度(資産が0円にならない確率)、枯渇リスク、中央値と下位パーセンタイルの資産額、フロア割れ確率と復帰率が一覧で表示されます。
「引出率シナリオ」では0%から10%まで一括比較できるので、自分にとっての最適な引出率がひと目でわかります。
おすすめシミュレーターは特にアカウント登録や個人情報入力もなく、パッとこちらから試せます(詳細なコードのため、めちゃくちゃ重いと思います。待機を押せば徐々に動きます)。
シミュレーションサイト
結論
アメリカでは、FIREは「夢」ではなく 確率のゲームとして扱われています。
そして多くの人が
モンテカルロで成功確率を出し
最悪ケースを確認し
調整しながらFIREを目指している
というのが実態です。
日本でも同じアプローチは可能です。
ただし、日本独自の税制・社会保険・年金を考慮しないと、アメリカのツールをそのまま使っても現実とズレが生じます。
今回のシミュレーターは、そのギャップを埋めるために作りました。
まずは自分の条件を入れて、安心度を見てみてください。
95%以上なら概ね安心、80%台ならやや注意、70%以下なら戦略の見直しが必要です。
数字で見ると、漠然とした不安が具体的な判断材料に変わります。
