今日の患者さん #06「レントゲンで異常なし」と言われたのに、骨折していた。
かかりつけの先生に
「骨折はないですよ」と言われました。
でも、2日経っても全然痛くて……
80代の女性患者さん。
自宅で転倒し、右股関節が痛い。
かかりつけの内科でレントゲンを撮った。
「骨折線なし」と言われて帰宅。
でも痛みは引かない。
むしろ動くたびに痛い。
2日後、整形外科を受診されました。
CT検査の結果――右坐骨骨折。
「骨折はない」と言われていたのに、骨折していました。
これは、珍しい話ではありません。
外来で、私が実際に経験した患者さんの話です。
【自己紹介はこちら】
1.レントゲンで「見える」ものと「見えない」もの
まず、知っておいてほしいことがあります。
レントゲンは「骨の形」を見る検査です。
レントゲンで見えるもの:
→ 骨の大まかな形・明らかなズレ・大きな骨折線
レントゲンで見えにくいもの・見えないもの:
→ 骨折線が細い・ヒビ程度の骨折
→ 撮影方向と骨折線の向きが重なった場合
→ 軟骨・靭帯・筋肉・神経
→ 骨折直後で骨がまだズレていない段階
つまり「レントゲン異常なし」は、
「この角度・この検査では、明らかな異常は確認できませんでした」
という意味であって、「骨折していない」という確定診断ではありません。
この違いを、多くの患者さんが知らないまま「大丈夫だった」と思って帰宅します。
2.なぜ骨折がレントゲンに写らなかったのか
今回の患者さんの骨折は「右坐骨骨折」でした。
坐骨とは、お尻の骨のことです。

【骨盤の構造】
骨盤は複数の骨が組み合わさった構造です。
・腸骨(ちょうこつ):骨盤の上の広い部分
・坐骨(ざこつ):座った時に椅子に当たる部分
・恥骨(ちこつ):前側の骨
これらが複雑に重なり合っているため、
レントゲンでは骨が重なって
骨折線が見えにくくなることがあります。
さらに高齢者の場合、骨粗しょう症による骨密度の低下があると、骨折していても骨折線がはっきり写らないことがあります。
転倒後の股関節周囲の骨折で最も見落とされやすいのが、大腿骨頸部骨折と骨盤骨折(恥骨・坐骨)です。
「レントゲンで異常なし」と言われても痛みが続く場合、この部位の見落としを念頭に置く必要があります。
【関連記事】
3.ナースが「おかしい」と感じた瞬間
整形外科に来られた時、私が最初に気になったのはレントゲンの結果ではありませんでした。
患者さんの「動き」でした。
診察室に入ってくる時の歩き方。
椅子に座る時の表情。
「どこが痛いですか?」と聞いた時の手の当て方。
この患者さんは、右のお尻をかばうように体を左側に傾けて歩いていました。
どこが痛いのか問診すると「右の股関節が痛い」と。そして「ここが痛い」と指さした場所が、股関節の前側ではなくお尻の骨の部分。
ナースの観察ポイント
転倒後の高齢者で
「レントゲン異常なし」と言われているのに:
□ 体重をかけると痛みが強い
□ 特定の場所を押すと強く痛む
□ 2日以上経っても痛みが引かない
□ 歩き方がいつもと違う・かばっている
□ 本人が「何かおかしい」と言っている
これらが一つでもあれば、
「レントゲン異常なし=終わり」ではない。
私は医師に報告しました。
「2日前にかかりつけでレントゲンを撮って異常なしと言われているんですが、痛みが続いていて、患部の場所と歩き方が気になります」
医師はCT検査を指示しました。
次章からは、「レントゲンの次に使う検査の選び方」
「痛みが続く時に家族が動くべきタイミング」を全部お伝えします。
4.レントゲンの次に使う検査と、その選び方
CT検査で骨折が判明した今回のケース。
なぜCTで見えたのか。
そして、どんな時にどの検査を使うのか。
【CT(コンピュータ断層撮影)】
レントゲンを様々な角度から撮影して断面画像を作る検査。
骨の細かい構造を三次元的に確認できる。
✔ 骨折の確認に最も優れている
✔ レントゲンで写らなかった骨折線を発見できる
✔ 撮影時間が短い(数分)
✔ 高齢者・痛みがある人でも負担が少ない
→ 転倒後の骨折疑いには、
レントゲンの次の一手として最も適している。
【MRI(磁気共鳴画像)】
磁気を使って体の断面を詳しく見る検査。
✔ 軟骨・靭帯・神経・筋肉が見える
✔ 骨髄内の変化(骨挫傷)も確認できる
✔ 放射線被曝がない
→ 骨以外の組織の異常を調べる時に適している。
CTより撮影時間が長い(20〜30分程度)。
閉所が苦手な方には負担になることがある。
【どちらを選ぶか】
転倒後の骨折疑い → CT
しびれ・神経症状あり → MRI
軟骨・靭帯の損傷疑い → MRI
骨折+神経症状あり → CT+MRI両方
❤️🩹❤️🩹患者さん・家族へ❤️🩹❤️🩹
「レントゲンで異常なし」と言われても痛みが続く場合、「CTやMRIで詳しく調べてもらえますか?」と伝えることは、患者さんの権利です。
遠慮しないでください。
5.「異常なし」と言われた後に動くべきサイン
転倒後に「レントゲン異常なし」と言われて帰宅した後、これが出たら翌日に整形外科を受診してください。
□ 体重をかけると痛みが強い・立てない
□ 2日以上経っても痛みが引かない
□ 痛い場所を押すと、強く痛む一点がある
□ 歩き方がいつもと変わっている
□ 股関節・お尻・鼠径部(足の付け根)が痛い
□ 本人が「何かおかしい」と言っている
特に高齢者で、以下がある場合は当日中に整形外科へ。
□ 足を全くつけない・動かせない
□ 左右の足の長さが違って見える
□ 足先が外側に向いたまま戻らない
この3つは、大腿骨頸部骨折(股関節の骨折)の典型的なサインです。
放置すると骨がさらにズレ、手術の難易度と回復期間が大幅に増えます。
6.次の病院で正しく伝えるための「受診メモ」
かかりつけ医で「異常なし」と言われた後、整形外科を受診する時にこれを伝えるだけで診察が変わります。
📋 整形外科受診時の伝えメモ
① いつ・どんな状況で転倒したか
例:「2日前、自宅の廊下で転倒し、
右側のお尻・股関節あたりを打った」
② どこが痛いか(できるだけ具体的に)
例:「右のお尻の骨のあたりを押すと特に痛い」
③ 既にどこで何の検査をしたか
例:「かかりつけ内科で2日前にレントゲンを撮り、異常なしと言われた」
④ 現在の状態
例:「体重をかけると痛くて、
普通には歩けない状態が続いている」
⑤ 既往歴・飲んでいる薬
例:「骨粗しょう症の薬を飲んでいる」
→ 骨密度が低い可能性を伝えることで
医師が骨折を強く疑うようになる
「既にレントゲンを撮った」と伝えることが重要
「レントゲンで異常なしと言われたが痛みが続いている」という情報が、CTやMRIへの判断を後押しします。
前の病院を責めるのではなく、「経過」として伝えてください。
おわりに
「骨折はないって言われたのに、なんでこんなに痛いんだろう」
2日間、この患者さんはそう思いながら痛みを抱えて過ごしていました。
「またあの先生に言ったら、大げさだと思われるかな」
そう思って、別の病院に来ることをためらっていたかもしれません。
でも、来てくれてよかった。
骨折の発見が遅れるほど、適切な固定や治療が遅れます。
高齢者の場合、それが寝たきりにつながることがあります。
「異常なし」は「終わり」ではありません。
あなたの痛みは本物です。
痛みが続くなら、もう一度扉を叩いてください。
私たちはそのためにそこにいます。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療相談の代替となるものではありません。気になる症状は必ず担当医・看護師にご相談ください。
次号の患者さんは、『湿布って気休めなんですか』です。
ついでにご覧ください。
