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『晩菊』成瀬巳喜男~芸者仲間のその後のそれぞれの人生~

©1954 TOHO CO.,LTD.

『山の音』と同じ年に製作された成瀬巳喜男の『晩菊』。似たようなタイトルの溝口健二の芸道モノの『残菊物語』とは違って、こちらは昔の芸者仲間の女たちの侘しく暮らす生活の物語で、主役の杉村春子演じる倉橋きんは貸しで、・・・だけが今や心の支え。を貸して土地を売買したりしたりしている。男も作らず、子供もいない。貸したと利子を取り立てるために路地から路地へ、家々を歩き回る。耳の不自由な女中と二人暮し。林芙美子原作の映画化。金しか頼れるものがない女の寂しさ、男の機嫌を取って生きてきた芸者という女性たちのその後の生々しい生きざまが描かれる。

成瀬巳喜男の映画の特徴である路地が頻繁に出てくる。路地には宣伝カーや豆腐売りやチンドン屋、正午のサイレン、三味線や門付けの歌などいろんな生活の音が聞こえてくる。元芸者仲間の飲み屋の沢村貞子(彼女は夫がいる)、病弱で一人息子がいる細川ちか子、パチンコや競輪などの賭け事が止められない望月優子からも金を貸して利子を厳しく取り立てて嫌われている。若い頃、杉村春子は無理心中して殺されそうになった相手の見明凡太朗が飲み屋に現れるが、会おうともしない。路地で見かけても逃げるように姿を隠す。一方、以前に燃えるような恋をした相手である上原謙が来るとの連絡があり、心待ちにしていた。

ホテルの女中をしている細川ちか子が頼りにしている一人息子(小泉博)は、年上の妾の女(坪内美子)とつき合うようになり、金をもらってくるが、「そんな女の金はいらない」と細川ちか子はガッカリする。ちなみに息子が母親を「ママ」と呼んでおり、細川ちか子にとって息子は唯一の生き甲斐のようだ。また、パチンコ三昧の望月優子にも一人娘(有馬稲子)がおり、雀荘で働いてる。有馬稲子と雀荘というシチュエーションは、小津安二郎の『東京暮色』(1957)を思い出す。こちらも娘から小遣いをもらいに行くなど、娘を当てにして暮らしている。2人の芸者仲間はいずれもシングルマザーで生活が苦しく、子どもたちを当てにしているが、思うようにならない。有馬稲子は母親の反対も聞かず、中年男と結婚を決めて家を出て行ってしまう。娘の奢りで母娘がラーメン屋で食事をするシーン、自分の顔を鏡で見て結婚話を切り出す有馬稲子と、同じように鏡を見て鼻毛を抜く望月優子の対照ぶりが笑える。この鏡は、杉村春子の家に心待ちにしていた上原謙がやって来たときも、杉村春子はいそいそと鏡台の前で化粧をするシーンでも使われる。氷で肌を冷やして化粧を始めるのである。鏡に自分を映し出すとき、女性にとっての「今の自分」の状態が表現される。芸者の頃の自分を取り戻していたのだろう。

しかし、夢中になった男の上原謙もくたびれた中年男になっており、酒に酔って「金を貸してくれないか?」と言い出されて、興醒めする杉村春子。大切にしまっていた上原謙を写真をタバコの火で焼いてしまう。夜も更けて、雨が降り出す。成瀬巳喜男の映画で「雨」はいつでも大切な場面で降り出す。酔い潰れた上原謙は、結局泊まるのだが、2階の部屋に上げられ杉村春子とは別々の部屋で寝る。一方、息子も娘も出て行ってしまった細川ちか子と望月優子も雨の夜、2人で酒の飲みながら子供を持てた幸せと思い通りにならない人生の愚痴を言い合うのだった。

結局、杉村春子のまわりには「金」を求める人間しかやってこない。昔に無理心中した男も金を無心に来たが、犬がワンワン吠える中で、とっとと追い返した杉村春子。その男も金の問題で警察に捕まったという知らせが入るが、「そんなこと私の知ったことか」と関心も示さない。細川ちか子の息子は女と別れて北海道の炭鉱に就職が決まった。細川ちか子と仲良くしている望月優子が、一緒に息子の北海道行きの列車を駅まで見送るときに、若い芸者たちが男と旅をするのを見て過去の自分を懐かしがる。橋の上から列車を眺め、やってくる若い女が腰を振って歩いてくる。あれ、「なんとかモンローのマネしてるんでしょ」と言って、戯けて腰を振って歩いてみせる望月優子。二人で明るく笑い合う女性たちのたくましさが描かれる。そして杉村春子は、不動産屋の加東大介と一緒に土地を見に行くのであった。

いつものようにシャキシャキとした杉村春子の芝居はまさにハマリ役。上原謙が来たときのはしゃぎ方やその後の表情の変化など芸達者ぶりを感じる。有馬稲子は全体的に老いてやつれて暗い出演者たちの中で、若い輝きを放っていた。成瀬映画ではいつも通り、男たちはパッとしない中で、女たちのそれぞれの人生が丁寧に演出され描かれている。杉村春子は、成瀬巳喜男作品では『流れる』で芸者を演じていて、岡田茉莉子と酔って踊り出す場面は印象的だった。


1954年製作/101分/日本
配給:東宝

監督:成瀬巳喜男
脚色:田中澄江、井手俊郎
原作:林芙美子
製作:藤本真澄
撮影:玉井正夫
美術:中古智
音楽:斎藤一郎
録音:下永尚
照明:石井長四郎
キャスト:杉村春子、見明凡太朗、上原謙、加東大介、鏑木はるな、細川ちか子、小泉博、坪内美子、望月優子、有馬稲子、沢村貞子。沢村宗之助、出雲八重子


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