MY BEST FILMS 2024 No.20▶︎No.11
20. マッドマックス:フュリオサ
監督:ジョージ・ミラー

前作「怒りのデス・ロード」で崇高なまでにストイックで鮮烈な印象を刻んだ戦士フュリオサ。彼女が何故闘い続ける運命に身を投じたのかを描く15年史。暴虐の限りを尽くされようが、悲嘆に暮れることなく、心も身体も復讐の天使へと血肉化していくアニャ・テイラー・ジョイの眼差しが狂った世界を射抜く。たとえ悲劇が連鎖されゆく不条理に飲み込まれて、憎しみが己を蝕んでいっても、自分を護ろうとした誰かの命のために生きてゆくことを決めた勇壮な決意。どこまでも絶望が拡がる砂漠をもう前進することしかできない哀しみの旅路。
“Furiosa: A Mad Max Saga”|dir: George Miller|2024年|148分|アメリカ
19. Cloud クラウド
監督:黒沢清

「蛇の道」のセルフリメイクに、実験的中編「Chime」、そして本作と2024年は黒沢清の新作連打に痺れた一年だった。これらの作品群に共通してるのは、かつて90年代にVシネマというフォーマットを利用しながらジャンル映画への愛憎と死への憧憬を謳いつづけてきた作家の自己模倣の究極形なのか、はたまた映画史を更新する試みなのか。転売ヤー菅田将暉に降りかかる受難劇は、匿名の悪意や狂気といった八方塞がりでモダンなテーマを孕みつつ、“地獄”と揶揄されるしかない映画の地平の先を目指してより自由に、勇壮に踏み出してゆく。
“Cloud”|dir: Kiyoshi Kurosawa|2024|123分|日本
18. ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
監督:トッド・フィリップス

これは匿名希望のフォロワーたちが生み出して拡張させた“JOKER”という悪しきアイコンへのレクイエム。または、ファンダムという概念が持つ可能性への讃歌でもあり、それが孕む現代性を視覚化した痛烈なアイロニーでもある。そんなフィルム全体から発する愛と絶望の狂騒を語る術としてミュージカルは最良の選択だったろう。結果として世界中の薄っぺらな映画信者から総スカンを喰らった2024年最大のスケープゴート。トレンドを創るのも大衆であり、殺すのもまた大衆。そんなあらゆる証明を歌って踊って体現したピエロは笑ったまま息絶えている。
“Joker: Folie a Deux”|dir: Todd Phillips|2024年|138分|アメリカ
17. 悪は存在しない
監督:濱口竜介

この世界のあらゆる万物と共生していくことの難しさ、厳しさ、そして不可思議さを、薄い膜のように纏ったこのフォークロア(民間伝承)では、そのすべての均衡を保つために生きる者たちのささやかな戦記が綴られている。雄大で豊潤な自然をまえにして、ヒトというモノがいかに小さくて愚かな存在なのか。そんな荘厳と滑稽の寓話をキルトのように編み込んだ。もともとは石橋英子のライブフィルムとして生を受けたこのそこに“GIFT”と命名したことが、あらゆる生命が進化と退化を反復しながらも、生み出し続けていく表現への祝福だと証明しているのだ。
“Evil Does Not Exit”|dir: Ryusuke Hamaguchi|2023年|106分|日本
16. 山逢いのホテルで
監督:マキシム・ラッパズ

悠然とそびえるアルプス山脈を眺望しながら、ある仕立て屋の女性がルーティンとして行いつづける秘めごと。ただ愛する息子と慎ましく生きていきたいと願う暮らしの中で蓄積されゆくストレスや孤独を埋めるように繰り返される情事の空虚性。そんなアバンチュールの積み重ねだけが世界と私を繋いでいる。ジャンヌ・バリバールの姿は、アケルマンの「ジャンヌ・ディエルマン」の面影とも重なる。ダイアナ妃が残した最期の言葉を冠した本作は、見えない鎖に縛られながら自由と尊厳の意味を問いただしつづける讃歌なのだ。
“Laissez-moi”|dir: Maxime Rappaz|2023年|93分|スイス・フランス・ベルギー
15. シビル・ウォー アメリカ最後の日
監督:アレックス・ガーランド

互い違いの文化を共有すべき民族が分断され、手と手を取り合うはずの人間がほぼ記号として判別されてしまう。このあくまで仮想であるはずの未来のアメリカで繰り広げられる内戦ロードムービーは、何度も繰り返されてきた過ちの人類史のサルベージではなく、極めて現代の世界情勢から起こり得るパースペクティブになってしまった。真のジャーナリズムに辿り着くために人間性をかなぐり捨て、幾多の犠牲を払わなければならない逆説を嘆きながら「夢を見続けよう」というフレーズが永遠のように繰り返される“Dream Baby Dream”。これは明日なき世界を慈しむレクイエムなのか、子守唄なのか。
“Civil War”|dir: Alex Garland|2024年|106分|アメリカ
14. 悪魔と夜ふかし
監督:コリン&キャメロン・ケアンズ

リアルタイムで進行する緊張感、俗物だらけの胡散臭さ、レトロなビデオノイズがもたらす郷愁。1970年代の深夜バラエティー番組でパーソナリティーの再起を賭けて企画された生放送で起こった放送事故を暴く邪悪なファウンド・フッテージ。悪魔を利用しようとする者、疑惑をぶつける者、取り憑かれた者、そして目撃する者。さまざまな思惑な交差させながらも巧妙に構築されたリアリティーショーは、B級ホラーへの偏愛と造詣を深めていきながら、恍惚の果てへと目指す。いつしか観客のひとりと化している貴方をも誘いながら。
“Late Night with the Devil”|dir: Colin & Cameron Cairnes|2023年|93分|オーストラリア
13. ロボット・ドリームズ
監督:パブロ・ベルヘル

私たちが日常の生活を送っていくうえで、見て見ぬフリをしている“さみしさ”の存在を、擬人化したひとりの犬と一体のロボットが紡ぐ言葉無きストーリーが淡々と、だが祈るように伝える。ずっと友だちだと思っていた、ずっと一緒だと思っていた。あの夏の終わりに出逢った僕らは、秋をまたいで冬を乗り越え、春を過ごしてまた夏を迎える。いつしか君がいなくても僕は大丈夫になっていた。それでも君と出逢ったという事実だけが僕をやさしくさせる。涙を流すなんて安直な表現は一切しない、気高い孤独だけがそんな当たり前のことを謳う。
“Robot Dreams”|dir: Pablo Berger|2023年|102分|スペイン・フランス
12. ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ
監督:アレキサンダー・ペイン

ある寄宿学校で誰もが待ち望んだクリスマス休暇なのに、帰る場所もなくて取り残された捻くれ者の男子学生、嫌われ者の先生、そしてしっかり者の寮母。繋がるはずもない面倒を抱えた他者たちの孤独が集まってあたたかい熱が生まれる、こういう定石なんだけどハンドメイドでウェルメイドな作品がこんな時代に必要なんだと心から信じたい。まるでスノードームの中のような世界で奏でられる寄る辺なき者たちの物語は、耳元で囁かれるほどに近くて優しくて、だけど遠くで暮らす大切な誰かを想って綴った手紙のようでもある。
“The Holdovers”|dir: Alexander Payne|2023年|133分|アメリカ
11. ゴールド・ボーイ
監督:金子修介

燦々と太陽が照りつけ、青く美しい海が広がる南国で、ドス黒い欲望と真っ赤な血潮が吹き荒れる。中国製原作「悪童たち」を沖縄を舞台に移して新たな息吹を与える試みは、かつて死の匂いがむせ返りそうなほど充満していた日本映画のロマンを取り戻そうとする決意に他ならない。どこまでも飛んでいけるはずの翼を持つ少年少女たちが、自らの手でその可能性を閉ざしていく姿は、この国が犯し続けてきた罪を贖うための呪いなのか。そんな呪縛を嘲笑しながらも、罪や死を重ねるたびにパワフルにそしてタフネスに生きていくための叡智が増していく圧倒的なアイロニー、そして黄金色のジュブナイルに心底震える。遊びの時間は終わらないのだ。
“Gold Boy”|dir: Shusuke Kaneko|2023年|129分|日本
MY BEST FILM 2024 No.30▶︎No.21はこちら
