【音楽制作】定番コンプレッサーの特徴と使い方のコツを解説
一般的に使用頻度が高いコンプレッサーの特徴と使い方のコツなどについて説明します。
◆FETコンプレッサー(1176など)
1176は、1960年代にUniversal Audio(当時はUREI)が開発したアナログ・コンプレッサーで、その独特のサウンドと高速な回路設計から半世紀以上経った今でもスタジオで愛用されています。
特に「アグレッシブな音のキレ」と「パンチのある圧縮特性」が特徴で、ボーカルやドラム・ベース・ギターなど、さまざまな音源で使われてきました。
1176の特徴
1176の最大の特徴はFETを使った高速な回路設計です。
これにより、極めて速いアタックとリリースが可能で、音の瞬発力を活かしながらダイナミクスをコントロールできます。
非常のアグレッシブなサウンドになる傾向があり1176を通すだけで独特のサウンドになります。
また「オールボタン・イン」という特殊なモードがあり、4つのレシオボタン(4:1、8:1、12:1、20:1)を同時に押すことで、よりアグレッシブで歪みを含んだ圧縮が可能になります。
FET回路特有の非線形歪みにより 2次〜3次を中心とした倍音が発生しやく、アタックの速さと合わせてパンチ感・存在感を付加するために使われることも多いですが、「透明さ」を求める場合にはあまり向いていません。
1176の設定例
1. ドクターペッパー設定
1176の有名な設定に「ドクターペッパー」があります。
これは、「アタックを10時方向、リリースを2時方向、レシオを4:1」に設定するものです。
この設定は、音の立ち上がりを自然に保ちつつリリースをやや速めにすることで音に迫力と存在感を与えます。
4:1という中程度のレシオは、音を過度に潰さず、程よいコンプレッションがかかるため、ボーカルやスネアドラムなどダイナミックな音源に適しています。
2. 各楽器での設定例
設定例を挙げておきますが曲のジャンル、テンポ、目指す方向性などによって適切な設定は変わってきますので、あくまでも参考程度にとどめてください。
ギター
アタック: 2時方向
リリース: 5時方向
ゲインリダクション: -5dB程度 ギターはアタック(ピッキング音)が強く減衰が速い楽器です。そのため、ピッキング音を損なわないよう、アタックをやや遅めに設定することがポイントです。リリースを速めにすることで、減衰が不自然になるのを防ぎます。ゲインリダクションはマイルドにすることで、ミックスの中でギターが自然に馴染みます。
ボーカル
モード: 1176AEの「SLO(スローアタック)」モード
リリース: 3時方向
ゲインリダクション: -4〜5dB程度 ボーカルはダイナミクスが大きく変化するため、スローアタックに設定することで、音の自然さを保ちながらコンプレッションをかけられます。リリースを遅めに設定するのは、不要な息遣いやノイズの強調を防ぐためです。レシオは、バラードなどでダイナミクスを活かしたい場合は4:1、ダンスミュージックのようにオケに負けないボーカルにしたい場合は8:1と、楽曲のジャンルや目的に合わせて使い分けましょう。
ベース
アタック/リリース: 最速
レシオ: 4:1
ゲインリダクション: -5〜7dB パンチのあるサウンドを目指す場合は、アタックとリリースを最速に設定するのが効果的です。低音楽器はコンプレッションを深めにかけることでミックスの中で埋もれにくくなり、音の輪郭も明確になります。ゲインリダクションを深めに設定することで、低音の安定感が増し、グルーヴ感のあるサウンドになります
1176を使う上での注意点
1176には一般的なコンプレッサーとは異なる独特な仕様がいくつかあります。
ノブの回転方向が逆: 1176のノブは、時計回りに回すとアタックタイムとリリースタイムが「速く」なります。これは、一般的なコンプレッサーの動作と逆なので注意が必要です。
ゲインコントロール: INPUT(入力ゲイン) ノブは、時計回りに回すとゲインが「低下」し、反時計回りに回すと「上昇」します。同様に、OUTPUT(出力ゲイン) ノブも逆方向の動作をします。
サウンドの「色付け」: 1176は、コンプレッションによって独特な歪み(ハーモニクス)を加えサウンドに「色付け」をする傾向があります。そのため、透明感のあるコンプレッションをかけたい場合には不向きです。バストラックやマスターバスには、あまり向いていないと言われることあります。
◆オプト(光学式)コンプレッサー(LA-2Aなど)
LA-2Aは、Universal Audio(旧Teletronix)が1960年代に開発したオプト・コンプレッサーです。
その「温かみのある音色」と「音楽的な圧縮特性」から、半世紀以上経った今でもボーカル・ストリングス(弦楽器)・ベース・その他のアコースティック楽器などの処理で広く愛用されています。
1176が「アグレッシブでパンチのある圧縮」を得意とするのに対し、オプト式のLA-2Aは「なめらかで自然なコンプレッション」が特徴で、音を美しく整える用途に適しています。
LA-2Aの特徴
光電管(オプト)方式の独特な圧縮特性: LA-2Aは特殊な回路を使い電気信号ではなく「光の強弱」でコンプレッションを制御します。この方式により、以下のような独特の圧縮特性が生まれます。
アタックが比較的遅い: 音の立ち上がりを自然に保ち、コンプレッションによるアタックの減衰を防ぎます。
リリースが音楽的なカーブを描く: 急激な圧縮解除をせず、なめらかに元の状態に戻るため音の余韻が不自然になりません。
ソフト・ニー: コンプレッションが緩やかに始まるため、過度な圧縮感がなく、音を潰しすぎません。
シンプルな操作性: LA-2Aの操作パネルには、「PEAK REDUCTION(圧縮量)」と「GAIN(出力ゲイン)」の2つの主要ノブしかありません。
「PEAK REDUCTION」を調整すると、スレッショルドとレシオが自動的に連動して調整されます。
「GAIN」は、コンプレッションによって低下した音量を補正するために使います。
このシンプルさこそが、「セッティングに迷わず、とにかく良い音になる」というLA-2A人気の理由の1つです。
真空管による温かみ LA-2Aは真空管採用しており、コンプレッションをかける際にわずかなサチュレーション(アナログ的な歪み)が加わります。これにより、デジタル機器では出せない「ふくよかで柔らかな音質」が得られます。
LA-2Aの簡単な使い方
ボーカル: ゲインリダクションの目安は2〜6dB程度です。メーターを確認しながら、音が潰れすぎないように調整します。
音量の補正: コンプレッションで低下した音量をGAINノブで調整します。プラグインのバイパス時とコンプレッション適用後の音量が同じくらいになるように調整すると、コンプレッションの効果を正確に判断できます。
使用上の注意点
アタックが速い音源には不向き: LA-2Aのアタックタイムは遅いため、ドラムのスネアやキックなど速いアタックやトランジェント(音の立ち上がりのピーク)が重要な音源には向きません。テンポの速い楽曲の場合、次の音が来るまでに圧縮が回復しきらずグルーヴ感を損なうことがあります。このような場合は、1176のようなFETコンプレッサーや、その他のアタックタイムを短めに調整できるコンプレッサーを使うようにしましょう。
ゲインリダクションの目安: オプトコンプレッサーは強くかけすぎると音が「詰まった」感じになることがあります。ゲインリダクションは5dBを超えないように調整するのがおすすめです。
LA-2Aが使いにくいと感じたら
LA-2Aはパラメーターが少ないため初心者でも扱いやすい反面、微調整がしづらいと感じる方もいるかもしれません。
そのような場合は、LA-2Aのモデルにこだわらず「オプトコンプレッサー」と表記されている他のプラグインを試してみるのも良い選択です。
私自身はLA-2Aのプラグインよりも、細かい調整が可能なIK Multimediaの「Opto Compressor」を使うことが多いです。
◆真空管式コンプレッサー
モダンなDTM環境において、デジタルプラグインの音質は非常にクリアで正確です。
しかし、それ故に音が綺麗になりすぎてミックスに馴染まなかったり、いわゆる「デジタル臭さ」を感じてしまう場合があります。
そのような場合に有効なのが、Fairchild 670やManley Vari-Muといった、真空管式コンプレッサーを再現したプラグインです。
真空管式コンプレッサーの特徴
真空管式コンプレッサーはサウンドに独特の「暖かさ」や「太さ」を加えることが可能です。
これは、真空管が持つ偶数次倍音の豊かな響きや、アナログならではのわずかなサチュレーション(歪み)によるものです。
音源に真空管式コンプレッサーを通すことで、デジタル特有の硬質なサウンドを和らげ、有機的でふくよかな質感を与えることができます。
各パートを「馴染ませる」接着剤
真空管式コンプレッサーは、ミックスの各パートをまとめ、一体感を出す「グルー(接着剤)」としての役割も果たします。
特にバスコンプレッサーとして、ドラムや楽器のグルーピング、またはマスターバスにインサートすることで各トラックの音を自然に繋ぎ合わせ、全体のまとまりを向上させます。
「各パートの音がバラバラで、ミックスが馴染まない」と感じた際に、Fairchild 670やManley Vari-Muのプラグインを試してみると、問題が解決することもあります。
◆バスコンプレッサー
各トラックの音に一体感を持たせるためにバストラックやミックスバスにコンプレッサーをインサートすることがあります。
このような用途で使われることが多いバストラックに適したコンプレッサーを「バスコンプレッサー」と呼ぶことがあります。
バスコンプレッサーの役割
バスコンプレッサーの主な目的はミックス全体のダイナミクスを整え、各楽器の音を自然に馴染ませることです。
具体的には以下のような効果があります。
一体感の向上: バラバラだった各楽器の音が、コンプレッサーを通すことで一つのまとまりのあるサウンドになります。
ピークの抑制: ミックス全体のピークを抑え、音圧を上げることができます。
グルーヴ感の創出: コンプレッサーのアタックとリリースの設定によって、楽曲にグルーヴ感やノリを与えることができます。
主なバスコンプレッサー
バスコンプレッサーとして特に好んで使われることが多いのは、以下のモデルを再現したプラグインです。
Fairchild 670: 真空管式の特性から、温かみのあるサウンドと、各パートを柔らかく馴染ませる効果があります。
SSL G-Series Buss Compressor: 透明感のあるコンプレッションが特徴で、パンチのあるサウンドを求める場合に適しています。ドラムバスやミックスバスで広く使われています。
Neve 33609: 独特のサチュレーションと力強い圧縮感が特徴で、ロックやポップスなど、迫力のあるサウンドを作りたい場合に有効です。
◆マルチバンドコンプレッサー
マルチバンドコンプレッサーは、入力されたサウンドを複数の周波数帯域に分割し、それぞれの帯域に独立してコンプレッションをかけることができるツールです。
これにより「特定の周波数帯域にのみ強くコンプレッサーが掛かってしまって困る」というようなミックス上の問題を解決できます。
マルチバンドコンプレッサーの役割と利点
ミックス時に「低域にだけ強くコンプレッサーがかかってしまい、高域にはあまりかからない」という状況が発生することがあります。
このような場合、マルチバンドコンプレッサーを使用すると、低域のコンプレッション量を抑えつつ、高域に適切なコンプレッションをかけることが可能になります。
これにより、全体のサウンドが不自然にならずに、周波数ごとのダイナミクスを細かくコントロールできます。
活用例
ボーカル: 低域の「こもり」や高域の「耳障りな音」を抑えつつ、中域の存在感を際立たせる。
ベース: 低域のピークをタイトに制御し、他の楽器とぶつからないように調整する。
マスタートラック: 全体の音圧を上げながら、特定の周波数帯域が突出するのを防ぎ、バランスの取れたマスタリングを実現する。
マルチバンドコンプレッサーとダイナミックイコライザー
近年、EQとコンプレッサーの機能を組み合わせた「ダイナミックイコライザー」が登場したため、マルチバンドコンプレッサーの存在感は少し小さくなってきています。
ダイナミックイコライザーは、特定の周波数帯域が設定したスレッショルドを超えたときだけ、その帯域のゲインを自動的に調整するツールです。
この機能は、マルチバンドコンプレッサーと似ていますが、より直感的に周波数ごとのダイナミクスを調整することができ、特定の音だけが目立ってしまうような問題の解決に有効です。
