【DTM】「なんとなく」を卒業するイコライジングの基本的な考え方(初心者向け)
イコライザー(EQ)は「何HzをQ値いくつで何dBブーストする」といった万能的・固定的なルールを示すことは難しいところがあります。
ボーカリストの声質、音源の種類、使用している楽器やアンプの設定など、元の周波数特性が多様であるため、どの周波数をどれだけ調整すべきかはケースバイケースで判断する必要があるからです。
しかし、イコライザーを扱う際に経験的に有効な目安があったり、共通する重要な考え方やコツがあります。
この項目ではその点について整理していきます。
※なお、EQは基本的に演奏、アレンジ、音色選び、マイキング、音量バランスなどの調整を尽くした上で解決が困難な問題を処理するための手段であると考えておいたほうが良く、以下の方法で全ての問題が解決できる訳ではないことには注意が必要です。
1. イコライザーを触る前に「問題点」を把握する
イコライザー処理を行う上で重要なのは「EQをかける前に、まず元の音をじっくり聴いて問題点を把握する」ことです。
例えば、複数のトラックの低域が重なり合って音が濁っている(コモっている)と感じたら低域をカットする必要があるという処理の方向性が見えてきます。
逆に、トラックに空気感が足りないと感じたら、いずれかのトラックの1高域を持ち上げて解決できないかを検討することになります。
このように、元の音をきちんと聴き込むことで、イコライザーでどのような処理をすべきか、また処理が必要なのかどうかを整理できます。
2. 「なぜEQが必要か」を言語化する
ミックスに慣れていない段階で、元の音をしっかり聴き込まずに適切なイコライザー処理を行うことは非常に困難です。
プロのエンジニアには長年の経験から「この帯域はカットする」といったルーティンがある場合もありますが、初心者や中級者は「なんとなく」でEQを触ると失敗する可能性が高くなります。
(これは、プロの料理人が味見をせずに適切な調味料を調整できるのに対し、料理の初心者が味見をしないまま調理をすると失敗しやすい、というイメージです。)
そのため、イコライザー処理を始める前に、トラック全体を聴いてみて、どのような方向性で処理をしたいかをメモすることから始めるのをおすすめします。
最初のうちは、以下のような感覚的なメモでも構いません。
「全体的にコモっている」
「ベースとキックがぶつかっている」
「ボーカルの迫力がない」
「音が軽い感じがする」
「楽器同士の音の分離が悪い」
自分が問題だと感じたことを言語化し、「この問題を解決するためには、どの周波数をどう処理すれば良いか」を自分の頭で考えて試行錯誤を繰り返すことで、次第にEQ処理が上達していきます。
3. カットとブーストの使い分け
EQを扱う際は、ブースト(増幅)とカット(減衰)のどちらを行うかについて、以下の考え方を意識するとより良い結果につながります。
音の分離・濁りの改善
⇒カット(減衰)
⇒トラック同士がぶつかっている箇所や、コモりの原因となっている「不要な周波数」を取り除くことを優先します。
同じ量のEQ処理であればカットのほうが副作用が生じにくい傾向があります。
音色の補強・存在感の付与
⇒ブースト(増幅)
⇒トラックの「良い部分」を強調したり、音に艶や空気感を与えたりするために使用します。
下手にカットをするよりも、広いQでの軽いブースト、シェルビングEQなどのほうが自然な仕上がりになることも多いです。
ただし、ブーストしすぎると不自然になったり、耳に痛くなったりするため注意が必要です。
4. 適切な音量でモニタリングする
イコライザー処理を行う際、モニタリング音量(聴く音量)を一定に保つことが重要です。
人間の聴覚は、音量が大きい時と小さい時で周波数特性の聞こえ方が変わるという特性があります(これはラウドネス曲線として知られています)。
そのため、音量が一定でないと、適切な周波数バランスを判断することが難しくなってしまいます。
モニタリング音量設定のコツ
基準音量を決める: ミックス作業を行う際「基本的にこの音量で作業する」という基準音量(リファレンスレベル)を決めます。オーディオインターフェイスなどの音量ノブにテープ(剥がせるタイプ)などで印を付けておくと便利です。
低域の確認: 低域の周波数帯域は、特に小さな音量では聞こえにくくなります。低域の問題点(キックとベースのぶつかりなど)を正確に把握するために、一時的に音量を上げて確認することは問題ありません。
小さな音量での確認: ミックス作業が進んだ段階で、音楽を「小さな音量で聴いた時にも問題がないか」をチェックするために、一時的に音量を下げて確認することも大切です。小さな音量でもバランスが崩れないミックスは、大抵の場合、適切なバランスが取れています。
5. イコライザーの処理は一度では完了しないと考えておく
イコライザー処理は、基本的に1回(1周)で終わることは稀です。
あるトラックにEQをかけると、他のトラックとの周波数バランスや音量が連動して変化し、結果的に他のトラックの調整が必要になるという「相互作用」が発生します。
例えば、キックを調整した結果、ベースとの低域のバランスが崩れ、それを直すと今度はギターの低域が邪魔になり、さらにボーカルの明瞭度が変化して...というように、トラック間の調整を何度も繰り返し行うことで、良い結果に近づいていくことが多いです。
一度のイコライザー処理で完璧に仕上げようとする必要はありません。以下のような段階的なアプローチをおすすめします。
1周目
大まかな問題点の解決
(トラック間の衝突、不要な低域のカット、目立つ「コモり」の除去など)
2周目
音色の調整と補強
(特定の楽器の強調、空気感の付与、さらに細かいノイズの除去など)
3周目以降
微調整(マスタートラック全体での確認、細かい相互作用の調整)
6. 「コモり」と「鮮明さ」の原因帯域を特定する
マイクで録音した音源は「鮮明さが足りない」「こもっている」「箱鳴り感がある」などと感じられることがよくあります。
A. コモりの原因帯域を特定・除去する(カット)
原因: 指向性の強いマイク(カーディオイドなど)では近接効果により200Hz以下が強調されることや、200Hz〜800Hzの帯域が強くなりすぎることで「こもった」サウンドになることがあります。
対処法(掃引/スイープ):
イコライザーでQ値を狭く設定します。
ゲインを+6dB程度まで大きくブーストします。
ブーストしたピークを800Hz以下の帯域でゆっくりと左右に動かし(スイープし)、最も不快に聞こえる「コモり」や「箱鳴り感」の原因となっている周波数帯域を特定します。
原因帯域が特定できたら、その周波数を中心にQ値を調整し、-3dB〜-6dB程度を目安にカットして自然なサウンドになるように調整します。
B. 鮮明さ(プレゼンス)の不足を補う(ブースト)
原因: 「鮮明さ」「輪郭」が足りないと感じる場合、2kHz〜6kHzの帯域が不足している場合があります。
※ただし「鮮明さ」「輪郭」の不足は中低域(200〜500Hz)の過多、トランジェント不足、コンプレッション過多、マイクの距離、演奏自体の問題などに起因することもあるため注意が必要です。
対処法(ブースト):
Q値を適度に設定し、2kHz〜6kHzのいずれかの帯域を+3dB〜+6dB程度ブーストしてみて、「鮮明さ」や「聴こえやすさ」が回復する帯域を特定します。
帯域が特定できたら、不自然さや耳障りな「刺さり」が出ない範囲でゲインとQ値を調整し、目的の音色に近づけます。
20Hz〜80Hz
超低域。音の重み。カットで低域の濁り改善。
80Hz〜200Hz
低域。音の太さ、厚み。コモりの原因になることも。
200Hz〜800Hz
中低域。コモり、箱鳴り感の原因になりやすい帯域。
2kHz〜5kHz
中高域。音の鮮明さ(プレゼンス)。ブーストで輪郭強調。
10kHz以上
高域。空気感(Air)。ブーストで艶や煌めきを付与。
各周波数帯域の特徴と処理を結びつける
「各周波数帯域について」という項目で説明したとおり各帯域にはサウンドの特徴(多すぎる場合や少なすぎる場合のデメリット)があります。
イコライザー処理をする際には「闇雲」に手を動かすよりも「どのような音に近づけたいか」を頭で考えて処理をしたほうが良い結果になることが多いですし処理のスピードも大きく上がります。
例を挙げておきます。
[低域:60Hz~250Hz - 暖かさ・土台 ⇔ ブーミー]
「ブーミーな感じがする」
「低音がボワついている」
「低域が中高域を濁らせているような印象がある」
→60Hz~250Hzのいずれかをカットすることで解決する可能性あり
[中低域:250Hz~500Hz - 楽器のボディ・重心・力強さ ⇔ こもり・濁り]
「こもっている」
「濁っている (muddyのほうの濁り)印象がある」
→250Hz~500Hzのいずれかをカットすることで解決する可能性あり
[中域:500Hz~1kHz - 明瞭度 ⇔ 鼻詰まり感]
「こもった音」
「鼻にかかったような音 (nasal)」
「詰まった音」
→500Hz~1kHz(特に500Hz~800Hz)のいずれかをカットすることで解決する可能性あり
[中高域:1kHz~4kHz - 存在感・明瞭さ ⇔ 耳に刺さる]
[高域:4kHz~10kHz - 明瞭さ・輪郭・輝き ⇔ 耳に痛い]
「耳に刺さるような音」
「耳に痛い音」
→1kHz~10kHz(特に3kHz~8kHz)のいずれかをカットすることで解決する可能性あり
